OHPトップ > オスマントップ > 2003年5月の日記より
このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。
日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。
なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。
▼強くオススメ
【単行本】「神々の山嶺」5巻 作:夢枕獏+画:谷口ジロー 集英社 A5 [bk1][Amzn]
いよいよ最終巻。自分は凄いものを読んだと素直に思える作品だった。この巻では山に自分の人生のすべてを賭けた男、羽生丈二の最後の挑戦、そして残された深町の物語が描かれる。絶望的な存在感の山、それに挑む男たちの妄執が、谷口ジローの精緻な作画と夢枕獏の力強い言葉によって圧倒的な質量を持って描かれる。身も震えるような登攀シーンは、読んでいてグググッと力が入る説得力に満ちている。ラストまでテンションが落ちることなく、壮絶な人間の生き様の物語を一気に描ききった。こういう作品を読むと嬉しくて泣けてくる。以前も書いたけど「今これを読まずして何を」と思う傑作。2002年のベスト1作品を選ぶとしたらこれか菅原雅雪「暁星記」。個人的にはそういう作品だった。
【単行本】「青春☆金属バット」 古泉智浩 秋田書店 A5 [bk1][Amzn]
あ〜、この漫画すごく好き。古泉智浩が描くダメな青春群像。これは本当にダメだ。とくに全5話の連作「路地裏のバッター」は素晴らしい。身体ばかりデカくて頭はトロい、気の利かないコンビニ店員の難馬。高校時代から毎日、野球バットでの素振りを欠かさない彼は、28歳にしてついに打撃に開眼。究極のスイングを会得する。さて、それをどうするかといえば別に野球に使ったりはしない。アル中の巨人ファン女に目をつけられ、彼女の酒代を稼ぐため、バット強盗をしたりとかそんな感じ。このアル中女もたいがいヒドくて巨人が勝てばギャハハハと上機嫌、負ければ難馬を殴りつけたり頭のネジがどっかに飛んでいる。そんな二人の青春模様はこのうえなくノーフューチャー。究極のスイングを身につけたところで、馬鹿には何ができるわけでもない。
このほかの短編も素晴らしい。「新しい絶望」は、いずれ映画監督になるとほざきながら、家に引きこもってビデオで映画を見てはそれにいちゃもんをつけてるだけのダメ男のお話。この主人公ももう絶望的にどうにもならない。「真夜中の聖火ランナー」の身もふたもなさにもつい爆笑してしまう。このあっけらかんとしたダメ人間描写は、独身男的には非常に身近に感じられるものがある。こいつらどうするんだろう、まあどうしようもないな……とあっさり認められる。この漫画はかなり絶望が足りてると思いますよ。何にも期待していないし。
【単行本】「素晴らしい世界」1巻 浅野いにお 小学館 B6 [bk1][Amzn]
現在サンデーGXで活躍中の新鋭・浅野いにおの初単行本。なかなかにセンス良さげな人で個人的にはけっこう期待しております。この単行本に収録されている作品はごく平凡な若者たち、それぞれの青春模様を描いたオムニバス形式の一話完結連載。各話の主人公はみな、現代ニッポン社会において日常にうんざりしている若者たち。そんな彼ら彼女らが、日々を過ごす中でちょっとした素敵な瞬間、前向きになれる何かに出会う、そういうお話が集められている。今回の収録作品の中でとくに好きなのは第9話の「シロップ」。勉強する気のない浪人生3人組の青春模様を描いた作品だが、そのうちの一人、将来の夢を「鳥」と答え予備校の屋上で得体の知れない踊りを続けている「シロップ」というあだなの男が、最後に見せたキラメキ。ほかの人には分からないかもしれないけれども、残りの二人はそれを確かに受け取る。切なくも明るく、ちょっとだけ前向きな物語。脂っ気のない絵柄もスタイリッシュでカッコ良い。ちっとばかしスカしたところもあるけれども、これはいい才能だと思う。ぜひ、立ち止まらずにぐんぐん伸びていってもらいたい。
【単行本】「ウルティモ・スーパースター」1巻 須田信太郎 エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]
自由と正義のヒーロー、ウルティモ・スーパースターを看板に、るちゃプロレスが町にやってきた! そこで出会った強烈な開放感に見せられて、やる気のない学校の空間で退屈しきっていた少年・三波は勢いに任せてるちゃプロレスの世界に身を投じるのであった……という物語。弱小団体であるるちゃプロレスは、リングも身なりもボロいけれども、見る者を喜ばせ夢を与えるエンターテインメントとしてのプロレスの姿を保っている。そんな中でウルティモ・スーパースターらが見せつけるレスラーとしての意地と誇り、そして三波が成長していく姿を人間くさく描いている。須田信太郎の作画はとても泥臭いけれど、そこに信念がキラリと輝いている。汗臭く男らしく、そしてカッコイイ漫画だと思う。この人は人情味にあふれたいい作品描きます。これが売れて勢いに乗って、「やさしい女は何処にいる」や数々の未収録作品が単行本化されたり、「江戸川ハートブレーカーズ」が再版されたりするといいなあと思っているので、さあみんな買おう。
【単行本】「Monkey Magic」1巻 アキヨシカズタカ 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]
気になる新鋭の初単行本。愛する原付きのモンキーを、「49cc」であることにこだわったままチューニングして最速を目指す元気少女・ユキの物語。この作品はけっこうオススメ。何よりいいのが「原付きが好きだ!」というストレートな気持ちが、キャラクターの表情からも、作者のお話作りからもストレートに伝わってくること。やっぱり好きなものを楽しんで描いているって感じの作品は、読んでいるほうも楽しい。けっこうマニアック(なのであろう)チューニング話も出てきてそこらへんの詳細は門外漢にはちんぷんかんぷんなんだけど、分からないなら分からないなりに「ああ、なんか面白そうなことやってんだな」ということは伝わる。
あと「原付き」という制約が、身近でありながらなおかつやりがいがありそうに見える点も物語を魅力的にしていると思う。作画の面は、描線が丸っこくてこなれてて連載開始当初から親しみやすい絵柄だなと思っていたが、最近では線に細かさが出てきてより良くなってきている。明朗快活で元気一杯。バイクアクションも痛快で気持ちがいい。今後についてもすでに「モンキーで120km/h」という大きな目標が設定されてて、そこに一歩一歩近づいていく様子は読みごたえのある話になりそう。楽しみにしてます。
【単行本】「チキンデイズ」1巻 吉野ケイイチ 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]
個人的にはけっこう気に入っている作品。バカで三枚目な純情少年・成田が、お向かいに引っ越してきて同じクラスになった小松タネ子に一目ぼれ。この二人を中心に展開される学園ラブコメ。この作品、別になんか新しいところがあるってわけじゃないし、とんがってもいない。ごくごくオーソドックスなラブコメ以外の何物でもない。微妙に垢抜けないヌルめの作画で、展開もほのぼのしてて他愛ない。でもそこがいいんだよ〜。なんか80年代とかそこらへんの学園ラブコメを思い起こさせるようなものがある。サムシングニューってな感じのものをお求めな方にはオススメしないけど、安心して読める普通に楽しい純情ラブコメが好きな人はどうぞ。
【単行本】「ベイビーリーフ」 二宮ひかる 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]
ハッキリは書いてないけど「ハネムーンサラダ」の夏川と遙子ですか、彼らの中学生時代の、まだ初々しかったころのお話である「ベイビーリーフ」。それからこっちは一花のほうを描いた読切「ハッピーバースディ」を収録。という予備知識はなくてもしっかり楽しめる、若くて青くてフレッシュな恋愛模様の物語。「ベイビーリーフ」のほうではつき合い始め、身体を重ねるようになって、男女の心が響き合ったりすれ違ったりする様子を描写。甘くて心地よくて切なくて、いやーいい感じです。同じモノ、同じコトを見たり聞いたりしても、ちょっとずつ二人の反応は異なるわけで、そこから心の近さ遠さ、恋愛感情を描き出していく腕前の巧みさに感嘆。あとぶっちゃけた話、若者恋愛は羨ましい。若いころにこんな恋愛してたらきっと人生変わってたね。
▼一般
【単行本】「フェイスガード虜」1巻 おおひたなごう 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn]
トートバッグの中には不思議な道具がいっぱい。そして不思議な道具には夢いっぱい。父親がある日ゲットしてきた不思議なトートバッグの中から出てきた、一生消えないペンで顔にめがねの落書きをされた少年・虜。それを隠すため、同じく不思議なフェイスガードを着用。というわけでまあヘンなアイテムを使う少年によるギャグであります。とはいってもアイテムを使ってやることといえば別に大したことではなくて、日常は淡々と進行。でもその端々に埋め込まれたギャグが、何気なくハイセンスかつシュールで素晴らしい。すごい角度から意表を衝くんだけど、それを小うるさくアッピールするのでなしに当たり前のごとく埋め込んじゃう。ほかの人だったら1ネタで1本くらいギャグ漫画描いちゃうかもしれないようなネタなのに。たいへん贅沢。あと今回は、ヒロイン役の女ちゃんと虜のラブラブっぷりがけっこうスイートだったりするのもたまらない。
【単行本】「闘破蛇烈伝DEI48」11巻 前川かずお 講談社 B6 [bk1][Amzn]
これにて最終巻。いよいよ破武男の奥義継承も最終局面。そしてスケールのデッカい戦いも待っている。改めて振り返ってみても、なかなかにスゴい作品だった。そもそもこの手のセックスバトルものの作品って、ネタ漫画的要素が強いので、ここまで長くなることはまれ。しかも最初っから四十八手を継承するという設定になってて、これもまた打ち切り漫画でよく見られる「最初に大風呂敷を広げたけれど」パターンだ。でもこの作品はちゃんと四十八手分描ききっている。最後のほうの繋ぎ女が全員集合するシーンとかたいへんにおめでたかった。こういう力いっぱい馬鹿をやる漫画って見てて気持ちがいい。面白かったです。
【単行本】「学園ノイズ」1巻 オオシマヒロユキ+猪原大介 スタジオDNA B6 [bk1][Amzn]
自由をうたっているものの規則がやたらいっぱいあってなんか息苦しい、閉鎖された学校「共生学園」にやってきた一人の転校生・ハナ形弾(ハナは口へんに華)。無鉄砲で粗野だけど、何者にも屈することのない強い意志を持った彼が学園にさまざまな事件を巻き起こしていく。このコンビらしく画風はスタイリッシュだけれども、内容は古き良き男気あふれる番長モノ的なテイスト。元気だしハッタリも利いてるし、ミステリアスな要素もあってなかなか面白い。今のところ、主人公以外の脇キャラが弱いかなーというのが気になるところだけど、そこらへんは2巻以降に期待ということで。
【単行本】「少年少女ロマンス」2巻 ジョージ朝倉 講談社 新書判 [bk1][Amzn]
面白ーい。旬の作家らしい勢いを感じます。イケメン王子の右京との恋が実り、晴れてアツアツバカップルとなった夢見すぎ少女の南。第1巻(そのときの感想はオスマンの2002年10月の日記よりを参照)ではものすごい勢いでハジけるようにくっついちゃった二人だが、当初の勢いから我に返ってみると相手がウザったく思えちゃったりで悩むところも出てくる。そして右京、南それぞれに対し恋のライバルが登場して……と波瀾万丈。バカみたいな勢いで突っ走る中で、センチメンタルな恋心も見せちゃったりするあたりの呼吸もうまいし、線の太いザクザクとキレの良い絵柄も力があっていい。というわけでこのバカップルがどうなっていくのか。次の巻も楽しみであります。
【単行本】「バラが咲いた」 ジョージ朝倉 講談社 A5 [bk1][Amzn]
こちらは旧作を集めた短編集。「バラが咲いた」「星空で目がくらむ」「PUNKY CAKE JUNKIE」「星の名前」「青色的少年」を収録。どの作品も読ませるものがあってたいへんに面白い。とくに表題作の「バラが咲いた」がいい。何事にも心動かされないクールな秀才・塚本が、ただ一つだけ「美しい」と思ったもの、というか少女と再会。奔放な彼女に振り回される中で、塚本は自分の奥底に眠っていた熱い塊のような衝動を自覚していく。このころの絵柄はまだあんまりうまくはないんだけど、物語にぐいぐい読者を引き込む吸引力がある。そのほかの作品に関してもそれぞれに見どころがあって面白い。大粒感があって食べごたえがあります。あさくらたんハァハァ。
【単行本】「京都虫の目あるき みちくさスケッチ」 おがわさとし とびら社 変型判 [bk1][Amzn]
初の商業単行本。京都新聞に連載された、京都のさまざまな風景を歩きながら見つめた1ページ漫画とエッセイ。この人の細かく丁寧な描画、美しい彩色はやはり素晴らしい。「良い目」と「良い手」を持った人なのだなあと改めて感じる。京都には今年の3月頭に行ったんだけど、そのときにこの本があったらばこれを参考にしていただろうになあとちょっと思った。しみじみゆったり、散歩気分に浸れる美しい一冊。
▼エロ漫画
【単行本】「巴 ともえ」 奴隷ジャッキー エンジェル出版 A5 [Amzn]
メチャ強いけどメチャ可愛い、しかも巨乳な女子柔道金メダリストの少女が、同じ学校の柔道部員の奸計にハメられて公開輪姦される羽目になっちゃうというお話を1巻つかってみっちり。からめ手から入ってどんどんノンストップでテンションを上げていって、最後はポコチン祭り状態に。いやーテンション高い。実用性はちゃんとあるんだけど、「乳ンポコ」「ブピッ子」とか、独特の言葉遣いにもときどき笑わされてしまう。まあこの人の作品としては言葉は大人しいほうかもしれないけれども。奴隷ジャッキーの作品は、ただのハードコア実用モノってだけでは収まりきらず、あふれ出してくるような勢いがあって好き。