オス単:2004年4月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則として行っていません

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でも入ってくることがあります。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、取り上げないことが多いです。


▼強くオススメ

【単行本】「魔女」1巻 五十嵐大介 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 素晴らしい。世界のあちこちの「魔女」たちの姿を描いていく連作幻想綺譚。五十嵐大介の細部まで非常に丹念に描き込まれた画面からあふれでる、エキゾチックかつミステリアスなイメージの奔流はまさに圧巻。とくに第1抄「SPINDLE」は抜群の出来。かつてイスタンブール(と思われる街)で恋人だった男に結婚を拒絶された英国の少女・ニコラが、30年の時を経て魔術を身につけて戻ってきて、バザールに呪いをかけようとするが……というストーリー。ニコラは呪いの力を操る魔女の禍々しさを、遊牧民族の少女・シラルは闇に呑み込まれることのない神聖なるものを、鮮やかなコントラストを描いて見せつける。そのほかの風景や建物などの描写もいちいち美しく、惚れ惚れするような逸品。第2抄「KUARUPU」は打って変わって、うっそうとしたジャングルの奥深く住まう民族の魔女を描く。こちらもスピリチュアルで混沌とした呪術の世界を展開していて、思わず吸い込まれてしまうような作品に仕上がっている。五十嵐大介作品の中でも1本1本のページ数が多く、非常に読みごたえのあるシリーズ。

【単行本】「はなしっぱなし」下巻 五十嵐大介 河出書房新社 A5 [bk1:/][Amzn:/

 こちらも復刻モノながらやはり素晴らしい。短いページ数で次々とファンタジーあふれるイメージを展開。「魔女」シリーズのような確固としたストーリーはないものの、その分、あふれ出る奇想、イメージが次から次へと降り注いでくる感じで、ページをめくるたびに新しい世界に出会える。すでに10年近く前の作品ではあるけれど、このころから絵はもう完成の域に達していてえらくうまい。今見ても一級品です。

【単行本】「LA QUINTA CAMERA」 オノ・ナツメ ぺんぎん書房 A5 [bk1][Amzn]

 コミティアでちょくちょく同人誌を購入していたオノ・ナツメ(→作者HP)の初単行本。オンラインコミック雑誌であるCOMIC SEED!にて連載されたもの。表紙とタイトルから内容がちょっと推しはかりにくいところがあるのでジャケ買いはしにくいかもしれないが(読んでみると内容そのままな表紙であることは分かるけれども)、以前オスマンで同人作品「I've a rich understanding of my finest defenses」を取り上げたこともあるように、非常に良い作品を描く人なのでぜひオススメしたい。

 この作品は、語学習得のためイタリアに留学してきたデンマーク出身の女の子・シャルロットが、下宿先として中年男4人が住まうアパートに転がり込むところから始まる。というわけで第一話はシャルロット視点なのだが、むしろメインは中年男4人マッシモ、チェレ、ルーカ、アルのほう。アパートにはこの4人が常時住んでおり、一室はそのときどきで留学生に貸し出されているという設定。2話以降はシャルロットは、さすがに男4人に囲まれた環境に住むわけにも行かないので、別のところで一人暮らしを始めるし(アパートにはちょくちょく来る)。そしてマイペースな4人組+1の、楽しい暮らしの様子が描かれていくというアットホームなストーリー。

 で、これが非常に良いのですな。シンプルながらもオシャレで暖かみのある作画もいいし、何よりキャラクター作りがしっかりしているのがいい。世界がしっかり作者の頭の中でできてて、その中でそれぞれのキャラが動き回っている様子は見ていて楽しい。なんというか作者の用意した4人の男が住まうイタリアのアパートという箱庭空間の中に、そのときどきでプラスアルファな留学生らを配置して、彼らがどう動くか観察して記録しているような感じ。各人が触れ合って生まれるドラマには深い人情味があるし、ラストのあたりもとても美しい。あとこれまでのオノ・ナツメ作品には、作画に統一感がありすぎるせいか、キャラの見分けがつきにくい、名前と顔の対応がさせづらいという欠点があったのだが、今回の4人組はそれぞれ髪型と髪の色、服装がちゃんと違えて描いてあるので見分けやすくなってる。たぶん意識してやったんだろうと思うけど、描き分けがしっかりできているおかげでスムーズに読んでいけた。たいへん良い本であり、満喫させていただきました。

【単行本】「デスノート」1巻 作:大場つぐみ+画:小畑健 集英社 新書判 [bk1][Amzn]

 コレはすごく面白い。物語は、死神のリュークが、そこに名前を記された人間が死ぬという「デスノート」を人間界に落とすところから始まる。そのノートを悪魔的な頭脳の持ち主である17歳の少年、夜神月(やがみ・らいと)が拾い、その力を利用して悪人をすべて排除した理想の社会作りを目指す。世界中のあちらこちらで悪人たちが原因不明で死んでいく怪事件に対し、「L」と呼ばれる謎の人物が捜査に乗り出し、Lとライトの間でお互いの顔や正体は知らぬままに壮絶な駆け引きが繰り広げられていく。

 「ヒカルの碁」が突然の終了を迎えた後、小畑健が挑んだ新作はこのようなオカルト的な要素を含んだミステリー。なかなか物語の構成はたくみで、情報を少しずつ出していくことで読者をお話に引き込んでいく。「名前と顔を知っている相手ならデスノートに名前を記すことで殺せる」といった基本ルールがまず呈示され、そこからいくつかのサブルール、その応用が少しずつ描かれていく。頭脳戦がだんだんと高度になっていく様子は、すごく読みごたえがある。死神だけどなんだか馬鹿面なリューク、キレモノでイケメンなライトのコンビも見てて楽しい。仕掛けは巧妙、語り口も確か作画も美しい。基本ルール自体は簡単で、そのルールの組み合わせによってお話が進んでいくので、頭脳戦でありながら読んでて頭がこんがらがるというほどでもなく読みやすいのもいい。前作とまったく違う路線であるにも関わらず、速やかに連載を軌道に乗せ、しっかり面白いお話に仕上げてきている。小畑健の作家力の確かさも感じさせてくれる作品。

【単行本】「まいちゃんの日常」 氏賀Y太 三和出版 A5 [Amzn]

 これは凄いです。アイラDXでの連載当時から毎回注目していたけど、こうやってまとめて読むとさらにドーンと来た。氏賀Y太作品は、さほど小まめに追っかけているわけではないんだけれども、自分が読んだ中ではこれが最高傑作だと思う。ちなみにたいへんグロい描写が山ほど出てくるので、そっち系の作品が苦手な人にはオススメしません、というか避けたほうがいいでしょう。後から「こんなの薦めるなよ〜」といわれるのもイヤなので、先にお断りしておきます。しかしそれを我慢できるような人には、きっと何か得るものはあると思います。

 この作品は、どんな傷を与えられようと肉体を破壊されようと元に戻ってしまう、驚異的な回復能力を持つメイドのまいちゃんを主人公とした物語。その人間離れした能力を生かして、彼女は猟奇的な趣味を持つ客の相手をする仕事もしている。彼女に対して加えられる破壊は、毎回ものすごい。包丁で体を切り刻まれたり虎にくいちぎられたり、首を斬り落とされたり。しかし彼女は死なない。というかいったんは絶命しているのかもしれないけれども、またすぐに蘇ってくる。まいちゃんの場合、死なないということ以外の特殊能力はまったくない。精神的には痛いのも苦しいのも嫌いな普通の娘さん。被虐に快感を見出すようなことはまったくない。そして性格的にも非常に健全で人がいい。だから読んでいるほうとしてもこたえる。

 まず第一の山場として、まいちゃんに与えられたペット、四肢切断少女の「さゆりん」のエピソードがある。まいちゃんはさゆりんと仲良くなりたいと願うが、心が通じ合ったと思った矢先にやってくる悲劇的で凄惨な別れ。まいちゃんとともにサディストたちの相手をさせられたさゆりんが、その最中に死亡するも、まいちゃんだけは生き返ってしまう。動けないように縛り付けられ、さゆりんの亡骸が腐っていく様子を観察させられ続けるまいちゃんのかわいそうさと来たらもう胸が締め上げられんばかり。

 その後、まいちゃんの前に彼女と同じ体質を持つ少年・きずなが連れてこられる。このあたりのエピソードは比較的心温まる部分もあるのだが、彼との子供を宿したまいちゃんが受難するラストの展開はものすごくショッキング。どんなことがあってもその苦しみをグッと胸にしまいこんで、健気に生きていくまいちゃんの姿には、思わず涙がこぼれそうになってしまう。グロい表現ももの凄いのだが、個人的にはまいちゃんの懸命な生きざまにむしろ心を強く動かされてしまう。まいちゃんの今後の幸せを、願わずにはいられない気持ちになってくる。これを読者にショックを与えることのみを目的とした「ショック漫画」だととらえる向きもあるでしょう。でもそれだけではない作品だと、個人的には思っています。



▼一般

【単行本】「まっすぐ天へ」1巻 的場健 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 軌道エレベーターの建設を夢見る男たちの物語。面白いです。宇宙に憧れてJASDAに入ったものの、ロケット開発の限界を感じていた飛騨という青年が主人公。打ち上げれば打ち上げるだけ地球環境を破壊するロケット、しかもロケット打ち上げ事故の影響で、その道さえ閉ざされようとしている現状が彼を苦悩させる。そんなときに建設会社に勤める飛騨の弟が持ちかけてきた話。それが軌道エレベーターだった。弟の会社が新たに開発したものすごい強度の素材さえあれば、軌道エレベーターも理論上は実現可能だという。ロケットやデブリの問題などに、最終的な解決をもたらすことのできるこの計画が飛騨、そして人々を動かし始める……という物語。

 「協力」として名前がクレジットされている金子隆一のおかげもあり、科学的な考証はしっかり(しているように、少なくとも門外漢の自分からは見える)。突拍子もないが、素材の問題さえクリアできれば実現可能な夢として示される軌道エレベーターの姿は、宇宙という空間に興味のある人間の憧憬をかきたてる。

 まあ実際にも軌道エレベーター関連のニュース記事は最近ときどき見るし(例:HOT WIRED「宇宙空間へ物資や人を運ぶ「宇宙エレベーター」、実現は15年後?」とか)、軌道エレベータに関するプロジェクトは実際にいろいろ動いている模様。それだけに、この作品も地に足の着いた感のある骨太な物語となっている。SFというよりも、ノリは「プロジェクトX」とかに近いかもしれない。夢があり、かつ夢だけでは終わらないかもしれない。そんな感触がとても小気味良く感じる。連載のほうはこの単行本収録部分で第1部が終わり、再開の予定も今のところ示されていない。でもとりあえず物語的には一区切りついてはいる。続きが読みたいとは確かだけど、ここで終わっても「夢の途中」感があって悪くはないかなとは思う。それにしても「まっすぐ天へ」ってのはロマンのあるタイトルですなあ。ぜひ実現してほしい。

【単行本】「ぴっぴら帳 完結編」 こうの史代 双葉社 A5 [bk1][Amzn]

 1巻が出たのが2000年7月[bk1][Amzn]ということで、実に4年近くかかっての完結編。最近「夕凪の街」で注目を集めたこうの史代が、まんがタウンで細々と描き続けたインコ漫画。キミ子さんとインコのぴっぴらさんの、貧乏だけど楽しい日々を描いた4コマ。優しい叙情的な絵柄とほっこり暖かい内容で、しみじみしながら楽しく読める。キミ子さんら、登場人物がみんな人が良さげな点にも癒される。あとこうの史代でいいなあと思うのは、一枚絵がうまいこと。毎回最初のページに描かれている半ページのカットがなんとも趣があっていい。丁寧なカケアミが暖かくて、しっとりほんのりいい風情を醸し出しております。ちゃんと最後まで収録されて本当に良かった。

【単行本】「にらぎ鬼王丸」1巻 作;荒仁+画:坂本眞一 集英社 B6 [bk1][Amzn]

 力強くて正統派な面白みを感じさせる作品。時は江戸時代、太平の世で刀鍛冶という職業は需要がなくなりつつあったが、そんな中、厳格な師匠の下で修行を続ける青年・鬼王丸が主人公。最高の刀を鍛えるため、隕石によって宇宙からもたらされた「星の鉄」を求めて鬼王丸が放浪の旅に出るという冒険活劇。主人公が刀鍛冶ということで、職人の意地というものを強く感じさせるし、鍛え上げられた刀身のギラリとした迫力にも惹かれるものがある。骨太な作画はたいへんに力強いうえに細部までしっかり描き込まれており、アクションシーンもかなり豪快。迫力のある画面作りと、ビシッとした芯のあるストーリー回しは、読んでいてググッと力の入るものがある。ハッタリも十分利いてるし、今後の展開が楽しみ。

【単行本】「ピピンとピント☆」1巻 大石まさる 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]

 海の家をやっているおうちの息子である14歳の少年ノボル、通称ピントの家に、爺さんが年をとってから作った娘、つまりピントにとっては父の妹、おばさんにあたるにも関わらず同い年である美少女ミナトがやってくる。それをきっかけにピントの周りでさまざまな騒動が起こり始める。なんだか爺さんは宇宙人と結婚し、戸籍上は死んだとされているものの宇宙のどこかで今も生きてて、ピントもいずれは宇宙を目指すことになるはず……ってな感じ。

 というとなんかSFっぽいんだけど、ピントは爺さんのカメラを手にするといきなり理性がふっとんで大暴れ。幼なじみの桃音ねえちゃんやミナト、それから同級生のサッちゃんとかの裸とかをカメラでとりまくったりするし、なんだかもうよくわからん。SFとラブコメとエロとドタバタコメディが、ごっちゃごっちゃになってとにかく騒がしい。お話がどこへ向かうのか、大石まさるが何をやろうとしているのか、それはよく分からないながらも猛烈な勢いで突っ走ってて楽しいことは楽しい。

 大石まさるはすごく女の子の裸を描くのが好きなんだろうなあ……という気はするものの、すごく楽しそうにやってた「泥棒猫」シリーズはそんなでもなかったしなあとも思うし、「りんちゃん」シリーズのDIYネタもそれはそれで楽しそうではあった。なんだか不思議な作家さんではあります。

【単行本】「モリタイシ傑作集 茂志田★諸君!!」 モリタイシ 新書判 [bk1][Amzn]

 現在週刊少年サンデーにおいて、柔道ギャグの「いでじゅう!」を執筆中のモリタイシの過去作品集。「茂志田★諸君!!」全7話、「ちょんまげFight!」「未来世紀 トラやん」「招福祈願 ダルマイト・ガイ」を収録。この中ではやはりメインとなっている「茂志田★諸君!!」が面白い。全国模試でトップをとる優秀な頭脳の持ち主ながら、小学4年生の妹を尋常じゃないくらい溺愛している終わった男・茂志田くんが、妹の動静に一喜一憂しまくるというドタバタ学園コメディ。変態との評判の高い茂志田くんを誘惑しようと挑んで来るお嬢さまら、サブキャラも楽しく、いい感じで笑えるお話に仕上がっている。ちょっと昔の作品ではあるけど作画的にも十分なものがあり、よくある「レアだけどあんまり面白くない初期作品集」にはなっておらず、これ1冊でも十分楽しめる内容となっている。

【単行本】「ういういdays」1巻 犬上すくね 竹書房 A5 [bk1][Amzn]

 下駄箱間違いが縁で知り合って、つきあい始めるようになった先輩男子と後輩女子。たいへん初々しく微笑ましい高校生カップルを観察して、にやにやする漫画です。今どきこんなプラトニックしまくった少年少女が現存しているのかどうか、年齢がもう彼らの2倍くらいになってしまった独身男性には知る由もありませんが、こういう恋愛模様には著しくファンタジーがあって良いです。若いっておおむね素晴らしい。

【単行本】「蕗のお便り」1巻 菅原雅雪 講談社 A5 [bk1][Amzn]

 コロボックルみたいなフキの精である、コルコニとマカヨの二人が、人間世界に迷い込んで元の世界に帰れなくなり、いろいろさまようというお話。菅原雅雪は現在「暁星記」も描いているけど、こちらは4コマでほのぼの展開。ハードな「暁星記」の合間の息抜きって感じでしょうか。小品だけど、ぷっくりしもぶくれな感じのコルコニとマカヨが、ふてぶてしく行動する様子が微笑ましい作品。

【単行本】「龍宮殿」1巻 松永豊和 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 うさぎの着ぐるみを来て踊る見世物をして日銭を稼いでいた貧乏な兄弟が、海底都市「龍宮殿」に連れていかれ、実は海底遊郭だった龍宮殿の秘密を巡る冒険に巻き込まれることになる。IKKI掲載時はともすると物語を追えなくなっていたけど、こうやってまとめて読んでみるとけっこう面白い。絵柄は個性的だし、キャラクターたちにも妙な味がある。なんだか龍宮殿全体に秘宝館みたいな、いかがわしげな雰囲気が漂っているのも楽しい。パッと見は地味だけど読ませる作品ではある。

【単行本】「こぐまレンサ」1巻 ロクニシコージ 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 接する人によって天使のようにも悪魔のようにも感じられる、不思議な力を持った少女「こぐま」が、さまざまな業深い人間たちのドラマに関わっていくという物語。前作「すべてに射矢ガール」と比べ、今回はずいぶんダークな路線で攻めてきた。1巻については、こぐまは主に人間を見つめているだけ。多少手を下しもするが、人間たちは基本的に自分の意志で行動し、その多くが破滅の道をたどっていく。その様子を描いていくスタンスは相当にクール。お話はオムニバス的に進行しているけれども、いうつかのお話は1巻の時点でもすでにつながりを見せている。タイトルにある「レンサ」は「連鎖」のことだろうけれども、1巻の最後のほうではこぐまがだいぶ自分から動き出すようになっているし、これからどのような連鎖ぶりを見せていくのか楽しみ。

【単行本】「三つ編と赤い自転車」 アルコ 集英社 新書判 [bk1][Amzn]

 「三つ編と赤い自転車」「ヤスコとケンジ」「イノセントカラーズ」の3本を収録した短編集。アルコはやっぱり、芽生えてきつつある恋愛のトキメキを描かせると素晴らしいものを発揮する作家だと思う。この単行本の中では「三つ編と赤い自転車」がとくに良い。いつの間にか気になって目で追いかけるようになっていた、赤い自転車に乗って通学している男子と、ヒロインである美佐の初恋物語。透明感のある描写がキラキラとまぶしい。「イノセントカラーズ」はカップル×2で登場人物が多い分、ちょっとごちゃごちゃしているものの、こちらもいい雰囲気。アルコは「ヤスコとケンジ」みたいにギャグっぽい味付けの作品もけっこうあるけど、直球恋愛勝負な作品のほうが好きです。

【単行本】「トリバコハウス」1巻 宇仁田ゆみ 祥伝社 A5 [bk1][Amzn]

 年上の彼に依存し、他人との関係にビクビクしながら暮らしていた女性・ミキが、勤務先の専門学校で鎌谷くんというものおじしない自由闊達な男子と出会う。なんだかんだいろいろあった後、彼氏と住んでいた部屋から抜けだし、鎌谷の住む貧乏アパートに転がり込んだミキは、そこで今までの生活にはなかった自由な空気を味わい、自分を変えていくのだった……ってな感じのお話。ハッとするほどの鋭さはないとは思うけど、青春ストーリーとして手堅く毎回読んでいける。宇仁田ゆみは安定感ありますね。



▼エロ漫画

【単行本】「Empress!!」 國津武士 コアマガジン A5 [Amzn]

 かわいくてたいへん楽しいロリロリ漫画。お話としては就職活動で失敗続きだった主人公・蝶泉寺雄の家に、ある日、ロリロリな皇帝陛下の小鳳が押しかけ女房としてやってきて、そこから雄のエッチで賑やかな日々が始まるのだった……というお話。それから主人公はなんだか皇帝に好かれるたちらしく、小鳳に続いて女帝ちゃんマーク2、無口で洋風なベアトリス、それから少年皇帝まで登場してドタバタと展開。どの皇帝ちゃんもちっちゃくてかわいいのだけど、中でも意地っ張りで命令口調な態度でありつつも、だんだん雄にメロメロに惚れ込んでいく小鳳はとくにいい。行動は子供っぽかったりしたたかだったり。雄とのかけ合いの様子もすごく愉快。ラスト2話の甘〜くラブラブなテイストも心地いい。ただのロリエロってだけじゃなくて、コメディとしても楽しく後味が良くてオススメの一品。

【単行本】「あくまこあくま」 わんぱく ニ見書房 A5 [Amzn]

 スマートな美しい線の持ち主である、わんぱくの画集的単行本。同人誌発表作品やイラスト、ラフスケッチなども収録。品の良い線、奥行きのある画面構成、キュートなキャラなどやはりいい絵です。普通のA5版単行本装丁でありながら価格は税込み1470円と高めなんだけど、それもうなずける構成。フルカラー画集みたいなつるつるしたコート紙ではないけど、カラーページがけっこう多めだし、印刷もきれい。こういうタイプの紙のほうが、わんぱくの絵には合っていると思う。画集とはいえ、漫画がそこそこ入っているのもうれしいところ。あの清涼感があって美しい絵に惚れている人は買い。表紙を見てピンと来た人も手を出してみるとよろしいのでは。

 なおわんぱくの単行本は、このほか「彼女がつながれた日」[es]、「つまさきだちおんなのこ」[es]の2冊がある。



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