山田芳裕単行本リスト

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■作家名:山田芳裕(やまだ・よしひろ)
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「泣く男」

「泣く男」 ■出版社:双葉社
■シリーズ:ACTION COMICS
■巻数:全1巻
■判型:A5
■ISBN:ISBN4-575-93625-1 C9979
■価格:1000円(本体952円)
■初版発行:1999/06/27


 今まで山田芳裕の単行本には収録されていなかった短編を集めた作品集。収録されている作品の発表時期は、主に講談社から小学館へ活躍のフィールドを移した端境期近辺である。このころの作品は一般受けという面では弱いところは確かにある。しかし、作品の持つポテンシャルは圧倒的だ。才能の輝きを鮮烈に感じさせる、見事に粋な作品が揃っている。強烈なデフォルメのパワーもいかんなく発揮されており、今読み返してみても新しくさえ感じてしまう。とくにヤングサンデーの新人賞を(なぜか)受賞してしまい、「デカスロン」への布石となった「木田」は傑作。そのほか「佐々霧兵吾 円錐剣」「河童の恋」も秀作。この調子で「しわあせ」の未収録分なども、いつか何かの単行本に収録されるとすごくうれしいのだが。

「木田」
 ギタリスト・木田が主人公。木田はとにかくギターを愛する男で、実際テクニックはものすごいものがある。しかし、ひとたび演奏に入ると彼は自分とギターと音だけの世界に没入してしまい、そのほかのものがまったく目に入らなくなる。そのため、バンドの一員としては完全に不適格であり、演奏時の狂態は人々から敬遠された。自ら奏でるギターの音を「音があんまりかわいいもんで」と表現する彼は、それでも弾くことをやめない。ラスト、完全に外界を遮断しギターとファックしつつステージからダイブし、最後までギターとピックを話さず泣き笑いながら墜落する木田の姿は鬼気迫る。過剰なデフォルメの利いた演奏時の迫力も素晴らしい。傑作。

「変身男(前後編)」「変身男2」
 貧弱な身体ゆえ中学校時代はイジメられっ子だった少年が、通信販売で買った体力増強グッズによりマッチョな肉体へと変身。その肉体のおかげでしだいに自信をつけ今までの殻を破っていくという物語。通信販売で作られた身体は、気弱な顔と比べると非常にアンバランスでなんだかおかしい。「変身男2」でマッチョな肉体をフルに生かして、パワフルにハーモニカを吹く彼の姿が見どころ。

「佐々霧兵吾 円錐剣(前後編)」(原作:なかいま強)
考える侍」にも通じる雰囲気を持った作品。かつて何百人もの人間を斬り、現在では浪人に身を落としている佐々霧兵吾が、人を斬ることの魅力に取りつかれてしまった辻斬りを成敗する。「考える侍」でも見せた、人間断面図的な刀の切り口の描写が痛快至極。

「ウルトラ伴」
 ボディビルにいそしむストイックな男。実は彼は宇宙人であるらしいのだが。ムキムキなボディに、オカマっぽいマザコン宇宙人の精神が宿る。悪の宇宙人を殴り飛ばすシーンは迫力があるが、さほど面白いというほどの出来でもない。

「泣く男」
 感動的な映画を観ても何があってもなかなか泣けない男の物語。そんな彼は、同棲している女性が自分の留守中に事故死し、彼女の葬式に参列したときもやはり泣けなかった。彼女がいなくなって妙にガランとしてしまった部屋で、彼女の下着の匂いを嗅ぎながら彼は肩を震わせる。それでも涙は描かれない。ふるふると震える後ろ姿の向こう側で、彼は泣くことができたのだろうか。

「河童の恋」
 芥川龍之介っぽい作家と、ある女性の美しき別れを描いた粋な物語。文学的な別れの会話と、そして別れた後の涙まで、何もかもかっこよい。ラストシーン、静寂な中にかこ〜んと響くししおどしの音。隅から隅まで粋に洒落のめしている。短いけれども佳作。