2000年2月下旬

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2000年2月28日(月)

エンブリヲンロード 2 やまむらはじめ ワニマガジン社 <漫画・単行本> 900円

 「コミックガム」連載中の作品です。石油枯渇後の世界、石油の代わりとして使われているエネルギー源”セフィロト”。セフィロトの供給を一手に握る多国籍企業。オハナシの根幹に、セフィロトをめぐっての多国籍企業と反対勢力の争いを据える一方で、描写の中心は常に主人公のセイ・ユージンにおく。そしてセイをめぐるオハナシが紡ぎ出されていく。大きなオハナシと小さなオハナシを節合し、新しいドラマトゥルギーを作り出そうという試みがここにあるように思います。凄いです、これは。

ローズガーデン わかつきめぐみ 講談社 <漫画・単行本> 752円

 前半は3人の女の子の恋模様を描く『ローズ・ガーデン』、後半は動物絵巻の『ヨツジロさん』になっています。それにしてもわかつきという人は人をもだえさせるのが上手いですね。もちろん少女漫画の基本的セオリーに由来するテクニックなのですが、ほんのわずかのさじ加減で威力を数倍にしている。登場する女の子が強情で屈折しているのが良いじゃないですか。そしてそれを毒抜きされきった絵で描く。強情な女の子は東城和美も得意としているのですが、訴えかけ方が違うのですね。危険な書であるといえましょう。

ブレーメン 河井克夫 青林工藝社 <漫画・単行本> 1000円

 何故ここまで笑えるのか。それは、徹底したシニカルな視点にあると思います。固定化された、役割を割り振られた登場人物たちが繰り広げるシチュエーション・コメディ『ブレーメン』。オハナシが意図的にずらされていく『月の砂漠』。それらは皆傍観者的視点で描かれています。一方で出演者たちにむちゃくちゃな演技をさせ、もう一方で常にさめた視点を持っている舞台監督の立場のようなのですね。そこに潜む「悪意」とも形容できるようなものの見方にぐっと来るところです。

漫画の鬼AX 13号   青林工藝社 <漫画・雑誌> 933円

 やっぱり花輪和一の存在感が圧倒的。これ一本読めるだけですっかり元を取った気分になるのですから凄いです。花輪和一は刑務所に入るべくして入ったのだ、とすら感じてしまいます。あたかも前世からの約束であったかのように。ここで描かれる内面世界は、かつての作品群、特に必死に「ふっきろう」としていた講談社掲載の作品群に流れていた基調気分と妙に符合するのですね。しみじみしてしまいます。
 今回の特集は平口広美。久ーしぶりに新作が読めます。あとは古泉智浩などが非常に良い漫画を描いています。さすがに新潟在住。次回は特集とのこと。期待できるところです。詳しくはクロスレヴュを。

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2000年2月25日(金)

アフタヌーン 4月号   講談社 <漫画・雑誌> 457円

 『ミルククローゼット』『イハーブの生活』『赤い鳥』『クーの世界』『水鏡』と、今回は実に読み応えがあります。四季賞要素がこれほどまでに雑誌のテンションを上げるとは。詳しくはクロスレヴュを。

ヤングアニマル 5号   白泉社 <漫画・雑誌> 248円

 福住明宏さんのご協力を得て、アニマルもクロスレヴュをはじめることにしました。どの作品もレベルが高く、クロスレヴュしなくてはならぬ、という感じです。特に凄いのはやはり『愛人』。生命とは世界に逆らい続けること、というフレーズは深く、つよくこころを打ちます。クロスレヴュをお待ちあれ。

ガム 4月号   ワニブックス <漫画・雑誌> 590円

 『女神候補生』はメインキャラを死なすことによって、随分と痛い展開になって盛り上がっています。他の連載も軒並みハイテンション。『まほろまてぃっく』は季節はずれの怪談ネタですが微笑ましいですし、『月詠』も可愛さ満点。『KaNa』は新たなフェイズにオハナシが進んでますし、『プースー』はポップきわまりなし。良いじゃないですか。気になるのは広江礼威『Phantom Bullet』。ありがちなオハナシに収束してしまいそうなきらいはありますが、ナチという表象を上手く使い、伸びる可能性を秘めていると思います。

少年エースA 4月号   角川書店 <漫画・雑誌> 419円

 やっぱりダントツに良いのが貞本版『エヴァ』。その先がどうなるのか皆分かってはいるのですが、丁寧に、実に丁寧に人物描写がなされるために、ぐっと引き込まれるのですね。シンジはトウジがエヴァに乗り込むと知りながら戦わねばならないのですね…。なんと、なんときつい戦いでしょうか。あとは『エンジェリックレイヤー』『A・LI・CE』などが気になるところです。特に後者は繊細な描線が危うい魅力を醸し出しています。流石は木崎ひろすけ。このまま突っ走って欲しいものです。

マガジンZ 4月号   講談社 <漫画・雑誌> 457円

 『濃爆!!おたく先生』にはもう無条件降伏です。「魂の部分で解釈すれば 光武もジオンのMS」というフレーズ!「魂の部分」という島本的タームが巧妙にガンダム世代を揺り動かすのですね。サクラ大戦ネタに移行してどうなることやら、と危惧していたら、このハイテンション。負けました、ホントに。あとは『ヴァルナス』『機神』『クロノアイズ』といった、昔ながらの少年漫画に惹かれますね、この雑誌では。もちろん『フリクリ』とか『みーちぇ』とか『カスミ伝△』などのサブカル寄りの作品にも惹かれるのですが、最近歳をとったせいか、古くさい作品につよくノスタルジーを感じるのですね。そういった作品をスパイスにしているところが、この雑誌の面白いところだと思います。

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2000年2月24日(木)

フェミニズムセックスマシーン 太田出版 <漫画・単行本> 1000円

 待望の砂の初単行本。「セックスを売るとは何か」「セックスから自由になることは可能か」といったテーゼが哲学的・経済学的に展開される一方、きわめて下品なケツセックスシーンが描かれています。後者は「下品帳」として知られていますね。下品帳の迫力は凄いものです。ファックマイケツ!ヨガリポインツ!この日本語と英語のチャンポンにはクラクラするところです。私はこの二つの要素の同居に戸惑っていた、といいますか苛立ちを感じていたのですが、TINAMIXを読んでかれの意図を理解しました。下品帳は直球勝負のカウンターウェイトなのですね。
 漫画表現は、かつて活字のみのプリントメディアによる表現が果たしていた分野に進出してきています。すでに私小説や娯楽小説が果たしてきた役割は、漫画が果たすようになっています(もちろん活字は死滅してはいませんが)。同じ方法論で、哲学や思想も漫画によって語れるはずです。砂がやろうとしていることは、思想を正面から漫画で語ろうということなのではないでしょうか。
 思想を正面からオブラート無しに語る、ということは、結果として滑稽さや無様さを生みだしてしまいます。山本夜羽や小林よしのりのように。ですが砂のバランス感覚の良いところは、単に頭でっかちになるのではなく、それに対する予防線として下品帳を持ってくるところにあると思います。理性的な思想と下品さの極みを同時に提示することによって、複雑さと重層性を作り出す。さすがに頭の良い方法だと思います。
 思想や哲学を正面から語る、ということは、今後の漫画表現において不可避のものであると考えています。活字メディアが漫画によってリプレイスされる状況は今後も変わらないでしょうし、漫画そのものが社会において不可欠なものであることも変わらないでしょうから。ですから砂の試みは、きわめて先鋭的であり、かつ意欲的なものであるといえましょう。
 ですから私はこの試みをつよく支持したいと思います。私自身が直接正面から語ることができない、まったくその分だけ。

ひなた 入江紀子 集英社 <漫画・単行本> 505円

 96年から98年にかけての短編をまとめたものです。結婚に関しての作品が中心になってます。面白いのは「仲がいいから離婚する」という最後の短編。目から鱗とはこのことでしょうか。結婚しなくても家族という関係は築けますからね。まだまだ私も人間として甘いな、とヘコんでしまいました。

キューティーコミック4月号   宝島社 <漫画・雑誌> 476円

 一時的と思っていた増ページは恒久的なものだったようで、分厚いです。内容は安野モヨコ『バッファロー5人娘』は休みですが、小野塚、オーツカ、海埜、キリコと連載陣は快調です。海埜ゆうこの成長には頼もしさを感じます。また今回は大倉かおり『ユカとまーくん』という随分エロ寄りの作品も載っています。「少女革命」や「エルティーンコミック」を見てのことでしょうか。こりゃドキドキものじゃわい!
 今回素晴らしかったのはやはりかわかみじゅんことおかざき真里。二人とも女の子の描き方がヤバすぎます。ここに展開する緊張感は、多くの人に訴える可能性があると思います。男性にも読んで欲しい作品ですね。詳しくはクロスレヴュをご覧下さい。

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2000年2月23日(水)

フラミンゴ 4月号   三和出版 <漫画・雑誌> 743円

 本誌の方でも休刊がアナウンスされています。いつで終わりか、については書いてはありませんが。この雑誌は絶対に替えが効かない雑誌だっただけに実に残念です。後継誌が企画されているそうですので、それに期待したいと思います。それにあわせて連載もどんどん畳まれています。海明寺裕先生の『パピーラブ』は今回で終了、K9世界に対する根元的な謎を明らかにして終わっています。先生の掲示板によると、K9シリーズはこれで終わりとのこと。残念なことです。また、『バージェスの乙女たち』も、終末に向かって一直線。これもどうやらあるべき終わりを迎えそうです。その一方で今回巻頭はしろみかずひさ。『アルコールラムプの銀河鉄道』が4ページですが載っています。たったの4ページなのですが、こうも切ないのはなぜ?しろみファンは買わねばなりませぬよ。

マンガは哲学する 永井均 講談社 <一般書> 1400円

 マンガを軸に哲学的な問題を思索する、という本です。取りあげられる問題は、意味と無意味、存在、死といったもの。取りあげられるマンガは、諸星大二郎や星野之宣、高橋葉介、藤子F不二雄、吉田戦車、しりあがり寿、萩尾望都などなどと、さすがに新しい作家は少ないですが、かなり手広く取りあげています。最初に書いたとおりポイントは哲学の方にあります。漫画批評ではありませんのでご注意を。もちろん現代の漫画の良いところは、哲学的な探求を要求する奥深さにあると思いますので、こうしたアプローチもアリだと思います。そして内容的にはさすがに永井均、西周風の哲学用語で言うと難しくなってしまうであろう問題を、ごく平易な言葉でわかりやすく説明していると思います。言うなればこれは漫画による哲学の教科書なのですね。内容として面白いところは、吉田戦車をヴィトゲンシュタイン並みに持ち上げている一方、須賀原洋行を「哲学を知っているがゆえに哲学的感覚が鈍っている」とこき下ろしているところでしょうか。須賀原洋行のヒドさは、特定の作品がダメなのではなく、すべての作品が耐え難いところを持っているところにあると考えていたのですが、それを哲学的感性に求めるという永井の意見は興味深いところです。
 あともう一つ興味深いのですが、この本においては、多くの漫画のコマが引用されています。ですがそこには著作権表示はなく、許諾を得ていない(=使用料を支払っていない)ことが明記されています。著作権法32条に規定された「引用」の範囲内であるから、とのことです。もちろん出典が明記され、内容が改竄されていないので、引用の必要条件は十分に満たしているところです(何コマ目、まで書くべきだと私は思いますが)。商業ベースに乗る本でそりゃないんじゃないの、とは思いますが、別に営利だから研究はダメ、という訳じゃありませんからね。その意味でこの本は「引用だよ」とはっきりと宣言したという点で画期的だと思います。

オートポイエーシス2001 河本英夫 新曜社 <一般書> 2600円

 帯に書いてあった「行為の継続を通じて自己そのものを創り出す」というフレーズに惹かれて購入。もちろん全然読んでいないのですが、根本敬のいうような「でも、やるんだよ!」に通じるような期待を持っています。行為を徹底的に続けることによって「意味」を生産することこそ、虚無に対抗する最大の手段なのだと考えていますから。

歴史群像シリーズ 朝鮮戦争(上下)   学研 <ムック> 各1500円

 ちょっと調べる必要があったので。1950年では日本は戦争に巻き込まれずに済みましたが、今はテポドンがありますし、不審船があります。北朝鮮は日本に影響力を及ぼしうる戦力を持っているのですね。ですから次に戦争が起こったら日本も間違いなく戦場になるのでは、と思います。ガイドラインもありますし。

現代美術ガンダム ミナミトシミツ+勢村譲太 リトル・モア <美術書> 1800円

 砂浜での記念写真の背後で戦っているGMカスタム。ガンダムシールドを持った若者のカップル。『女子高生大地に立つ』。ガンダムを素材にした現代美術の作品集です。デュシャン以降の現代美術に必須な用件は「笑い」と「異化効果」だと思います。アニメに登場するアイコンを、現実世界や美術のスタンダードに取り込むことによって、ここでは異化効果を作りだしています。ところが面白いことに、ガンダムはすでに我々のあいだで「常識」または「必須の教養」になっています。このウェル=ノウンな部分と、「オタク的な要素=マイノリティとして扱われてきた過去」のバランスの結果、興味深い異化効果が発生しているのですね。ガンダムは、当たり前なものであると同時に特殊なものなのです。
 この本で、作者二人は「ガンダムを通じてリアルを見よう」と宣言していますが、そんなマニフェストはどうでも良いです。使われている方法論は基本的にくっだらなくて笑えます。

独裁 -Fascio- 佐野タカシ フランス書院 <漫画・単行本> 900円

 97年頃、すなわち少年画報社での「ハイテンション三部作」が始まる前の作品を集めたものです。『キャンディ=ヒロイン』同様、可愛い少年(青年)が、お姉さんに徹底的にいぢめられるというモチーフの作品が中心です。興味深いところは、男の側がいやよいやよと言いながら実はいぢめられるのを求めてしまうという点。欲望に耐えている男の子の可愛いことよ。ショタもやっぱりいいですなあ。ぐへへへ。

ホビージャパン 4月号   ホビージャパン <立体・雑誌> 743円

 PGのZガンダムについての詳しいレヴュが載ってます。MGのZは先日組んだのですが、各部の構造が脆弱でちょっと失望でした。ですがPGはじつにがっしりしているというじゃないですか。…ヤバいですなあ。ちなみに今月は『ふわふわカタログ』が載ってないので魅力が減っています。残念。

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2000年2月21日(月)

笑う吸血鬼 丸尾末広 秋田書店 <漫画・単行本> 1500円

 「ヤングチャンピオン」に連載されていたもので、正真正銘の新作です。吸血鬼の血を受け継いだ少年、死に瀕する少女、放火魔で暗闇に憑かれる少年の三人を中心に、まがまがしいグラン・ギニョルの世界を繰り広げています。ヤングチャンピオンだろうが何だろうが丸尾くんは丸尾くん。大好きな人にはもうタマランといったものになっています。「月は本当に衛星だろうか?」という問いにはもうクラクラ。一般的な視点でいえば未完なのですが、丸尾くんの場合、特にこの作品の場合はこれでも良いかな、と思える「ちから」があるのが凄いです。

ネオデビルマン 3 V.A. 講談社 <漫画・単行本> 619円

 「マグナム増刊」に掲載されていたものです。今回のメンツは三山のぼる、とり・みき、風忍、田島昭宇、神崎将臣、安彦良和、黒田硫黄の7人です。1や2に比べると全体的なテンションは低いように思いますが(特に神崎将臣はちょっと)、ラストに硫黄を持ってくることで見事にシメています。それにしても硫黄のカヴァ能力の高さときたら!手塚治虫のカヴァも凄いものでしたが、ここでも水際だった手並みを魅せてくれます。これだけでも買う価値は十分にあります。それぞれの作家のファンも買って損はないと思います。

EDEN 4 遠藤浩輝 講談社 <漫画・単行本> 505

 アンデス山中でのプロパテールとの戦いで、ケンジの過去が語られます。2,3巻はちょっとダレるところがありましたが、「痛い」オハナシを積極的に絡めることによって、非常に読ませる内容になっていると思います。調子が上がっている証だと思います。興味深いのは見返しにあるあとがき。遠藤の作劇姿勢を端的に示すものとなっており、作品を知る上で大きな手がかりになります。

さんま 目黒三吉 シュベール出版 <漫画・単行本> 838円

 エロゲー好きは待っていた。私もこれを待っていた。「零式」などで活躍する目黒の初単行本です。エロの形式を取っていますが、構造は複雑です。ギャグもあり、深刻なオハナシもあり、よくまとまった短編もあり、破綻しきった(わざと、でしょうが)ものもあり。ですが共通するのは、背後に流れる哀しさとでもいったものです。『翼よあれがパレポリパー』などにそれを見ることができます。きわめて評しづらい作家ですが、決してつまらなくはないです。漫画の先を見ようとする人は必読でしょう。

モーニングマグナム増刊 13   講談社 <漫画・雑誌> 286円

 もうすぐ雑誌自体が終わりとの噂(あくまで未確認情報ですよ)ですが、かつての前衛性も「終わって」います。小田智を載せていたあの頃が懐かしい。一応死ぬまで見届けはしますが…。詳しくはクロスレヴュを参照してください。

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:47 JST