2000年12月中旬

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2000年12月21日 (木)
濃爆おたく先生 1 徳光康之  講談社  <漫画・単行本> 552円

 最初の頃は単行本化が危ぶまれていましたが、そんな訳ないじゃないですか。確かに方法論としては古いところがあるかもしれません。絵とかギャグの使い方とか。ですが二つの点でこの作品は決定的なアドバンテージを持っていると思います。ひとつはガンダムファンの心をガッチリとつかむネタの設定。熱心なガンダムファンでなくても、この作品にはグッとくることでしょう。なぜならある程度以上の世代にとって、ガンダムはデフォルトのものであり、当然の知識となっているものなのですから。「遺伝子に組み込まれている」といっても過言ではないでしょう。それからもうひとつはその強烈なプロパガンダ性。おたく先生は対象に対する愛をせつせつと語り、それこそが正しい、それこそが尊いとアツく訴えます。そして読者もいつしかそれに引き込まれてしまう。島本和彦や小野寺浩二につながるプロパガンダ性があるのですね。
 その方法は確かにナチの宣伝戦略と共通する点を持っています。ですがベースになる部分は異なっています。それは今までマイノリティであったおたくの側からの意義申し立てなのですね。愛を注ぐ対象についてアツく語ることが出来なかったおたくたちの魂の叫び。それはおたくが社会的に一般化した今だからこそ可能なことであるわけです。だからこそこの作品は心を打つのであり、扇動的だといえるのです。
 「プロレスファン列伝」で萎えたという人もいるようですが、それは読みが甘いといえましょう。挫折を通過してもアツい、これが重要なのです。

駅前花嫁 駕籠真太郎 太田出版  <漫画・単行本> 1300円

 駕籠二連続。本格的にブレイクしていますなあ。「コットン」に載った作品を、新しいものを中心に集めたものです。世界にひとつのルールを設定し、それに基づいてすべての行動を行うという方式は相変わらず。今回はさらに悪意が感じられて嬉しくなってしまいます。「パラノイアストリート」に比べ思念的なところも注目すべき点。ギミックが凝っているからこそひねた楽しみができるというわけです。

ムーミン・コミックス6 おかしなお客さん トーベ&ラルフ・ヤンソン 筑摩書房  <漫画・単行本> 1200円

 だんだん巻が進むにつれ、トーベ・ヤンソンからラルフ・ヤンソンの作品にシフトしてきていますね。後半はラルフ一人で描いていたわけですから、当然といえば当然なのですが。ちょっと見にはラルフの絵はトーベよりずっとヘタクソなんですが(トーベの絵の伸びやかさときたら!)、慣れてくるとこれはこれでいい味です。今回は冬眠しようと(!)するムーミン一家のもとに、変なお客さん、そしてもっとも恐るべき無邪気なクリップダッスが訪れるという表題作がいい感じです。

ひっち&Go!! 1  永野のりこ メディアファクトリー <漫画・単行本> 514円

 「フラッパー」連載作品。外に出ることを苦手とするアンゴローの元に現れる全身レザーの娘・ひっち。何かに追われているらしいひっちを助けたアンゴローだが、自分の気持ちを伝えることさえもできない…。最初のうちはひどいドタバタで(いつもの照れ?)、乱雑な印象が否めませんでしたが、次第に現れるのですね、のりこ先生の「本性」が。アンゴローは実は重度のヒッキー(有名タレントじゃないほうの)で、ひっちは切ない状況におかれたアンゴローのわずかな希望なのです。そうした痛いオハナシをギャグのオブラートにくるんで提示する。なにげに重たいオハナシにジンときます。

美術手帳 1月号   美術出版社 <美術・雑誌> 1524円

 

メロディ 1月号    白泉社 <漫画・雑誌> 381円

 「修道士ファルコ」がいいですね。「古い!」とつい叫んでしまったわけですが、絵柄や形式の古さを飛び越えたノホホンとした空気が流れているのがいい感じです。実際の修道院はもっとどろどろした欲望渦巻く場だったに違いないのですが、それを分かった上で微笑ましい集団劇に転換しているところが面白いです。

スピリッツ増刊山田1号   小学館  <漫画・雑誌> 276円

 やっぱり増刊は侮れません。榎本ナリコ、西原理恵子、吉田戦車、安永航一郎といった実力/定評ある作家を載せる一方で、将来有望な新人も載せる。文芸性とメジャー性が上手く同居した雑誌になっていると思います。流石に大手。体力の違いを見せつけるような横綱相撲という印象です。早く次が出ないかな。

OURs LITE 2月号   少年画報社 <漫画・雑誌> 305円

 今回は飛び抜けていいと感じる作品はありませんでしたが、それは雑誌の方針が安定してきた証拠ともいえると思います。もうひとつ、雑誌がヌルいことのあらわれでも。もちろんヌルいから悪いというわけではなく、世にあまたある漫画雑誌のうち、一つぐらいこういう雑誌があってもいいと思っています。ヌルさを強めるように作用しているのがおがきちかの「ハニー・クレイ・マイハニー」。大きくはなれないけれど小さくはなれるハニーというキャラクタ(もと土偶)を発明した時点ですでに成功といえましょう。あとは伊藤伸平とかでしょうか。

ネムキ 1月号    朝日ソノラマ <漫画・雑誌> 543円

 今回も快調。なんてったって「プランツ・ドール」が載ってますし。他の作家もいい調子です。この前の茶器の精霊に味を占めたとおぼしき波津彬子、最終回をきちんと迎えた篠原烏道、一話完結の形式を取りながら実はオハナシが進んでいるTONO、平将門登場でオハナシに広がりが出ている「晴明。」など。

総集編 新 宇宙戦艦ヤマト 松本零士  小学館  <漫画・総集編> 505円

 …これは凄いです。まさにキテます、という言葉がぴったりです。ヤマトが地球に帰ってきてから1000年の時が過ぎ、人々は自らが危機に陥っていたことなど忘れ去っていた。だが密かに地球に迫る魔の手。危機を察知したヤマトの乗組員は、一人、またひとりとヤマトに集まってくる。改装され、新しい力を手に入れたヤマトに。地球防衛軍本部は、無許可で発進しようとするヤマトの行為を理解できず、ヤマトに攻撃を加える…。まずは絵が素晴らしいですね。松本先生は「ベタを塗るのは最後の良心だ」と仰っておられるようですが、ヤマトは全部CGからのプリントアウトなのですね。しかもあんまり印字品質の良くない。その段階で絶句してしまいます。当然、松本先生だから許されるのであります。それから強化されたヤマト。これって今はなき「ビッグゴールド」でやっておられた「まほろば」と同じものじゃあなくって?とつい白石冬美の声で聞いてみたくなります。「ヤマトは国のまほろば」って、おんなじフレーズも使ってますよ??それからオハナシ。もうお分かりでしょう。「宇宙海賊キャプテンハーロック」そのまんまです。いやあ、やっぱり「巨匠」のおやりになることはスケールが違います。単行本は絶対に買わなければなりませぬよ。

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2000年12月18日 (月)

サンデーGX 1月号    小学館 <漫画・雑誌> 410円

 しだいに雑誌の方針が固まってきたようで。確かに対象年齢層を広く設定しているように見受けられるため、作品の雰囲気にばらつきがあると思います。ですが全体としてみたときには、それは多様性として受け取られます。新・少年誌は得てしておたく世界に内閉化する傾向がありますが、それを回避しようとしているのが見えるのですね。この調子で頑張ってほしいものと思います。

ウルトラジャンプ 1月号    集英社 <漫画・雑誌> 410円

 始まりましたねえ、「バスタード」。先月号で書いた危惧がそのまんま出てきてますねえ。もっと若い作家にページを提供した方が何倍もいいと思いますがね。頭の軽いフォロワを作ってしまった、という意味でも萩原一至という作家は罪が重いのだと思います。昔は好きだったんですけどねえ。ダイ・アモンとか。

Storm Over Scandinavia   GR/D <ゲーム> 11400円

 ヨーロッパシリーズの最新作、とはいえ99年に出たものですが。フィンランドを除く北欧諸国を扱ったもので、ドイツのノルウェー侵攻を扱ったゲームと、第二次大戦中のノルウェー、デンマーク、スウェーデンの戦闘序列から成っています。着々とヨーロッパシリーズのリファインは進んでいるようで。ただ独ソ戦という大物が残っているので、いつ完成するか分からないのが辛いですが。

いちばん上


2000年12月16日 (土)

アイコ十六歳 駕籠真太郎 青林堂  <漫画・単行本> 1300円

 駕籠づいてますなあ。「ガロ」に載ったとびっきりアブない「愛子」ものと、おなじみ「フラミンゴ」に載った「愛子」ものをまとめたものです。ネタとしての破壊力は「ガロ」に載ったものの方が高いですね。ブルーカラーに輪姦されちゃった愛子がミュータントを産んでとか、いじめられっ子日本一を競う愛子とか。雑誌掲載時と台詞が変わっているのが微笑ましいところ。「フラミンゴ」の方では、平行多元宇宙から連れてきた無限の愛子が、軍事的に利用されたり、食料として栽培されたり、とにかく死刑にされたりと実にええ感じです。そのなかでも必ず出てくるのが「日本精神」という概念。それは当時でもすでにかなりファナティックでばかばかしいものだったはずですが、駕籠はその阿呆くささをさらに誇張して描きます。ニヤニヤしながら描いている駕籠先生の顔が目に浮かぶようです。当然だからこそ極度に面白くなるというわけです。

花音 1月号   芳文社 <漫画・雑誌> 638円
BE-BOY 1月号   ビブロス  <漫画・雑誌> 505円

 
大○透の自然おもしろ生きロボ図鑑 N.O.ちゃちゃ丸 久保書店 <漫画・単行本> 古書価300円
きっと、忘れない。 邪琅明 メディアックス <漫画・単行本> 古書価300円
あぶない! ルナ先生 上村純子 松文館 <漫画・単行本> 古書価300円
女教師ケイコ 北御牧慶 ヒット出版社 <漫画・単行本> 古書価300円
だしちゃえ! ゴブリン 一水社 <漫画・単行本> 古書価300円
全裸の王女 かかし朝浩 司書房 <漫画・単行本> 古書価300円
汚される純潔少女 つもたきまこ 東京三世社 <漫画・単行本> 古書価300円
自爆超人ビザールマン 湯河原あたみ シュベール出版 <漫画・単行本> 古書価300円
CAPTAINバスティ 山下うり 司書房 <漫画・単行本> 古書価300円

 「とらのあな」が古書の扱いをやめるというので、投げ売りをしていたのですね。そこで極端系と引っかかったものをいくつか。この中でアタリはかかし朝浩。明るいギャグ仕立てでデタラメな性習慣を持つ国の王女を描く。非常に基本線のしっかりした作家なんですね。もっと広くエロをチェックしないといかんよなあ、と思った次第です。あとは湯河原あたみ。あんたそりゃ不敬じゃないの??

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2000年12月15日 (金)

ダスク ストーリィ 2 TONO 集英社 <漫画・単行本> 714円

 惜しまれながら(と信じたいですが)終了した連載作品をまとめたものです。「クリムゾン」連載作品。人には見えないものが見える少年・タクト。かれが見るものは、いっそう「死」へと向かっていくことになります。死した人が残す生者への思い。そうした「どうしようもなく、切ない」事柄を、TONO先生は逃げることなく描き出します。ときにそれは残酷なときもあるのに。最近のTONO先生の作品はめきめき深みを増していますが、それはここで見ることができるような「死」への問いかけがあるからなのでしょう。素晴らしい作品をありがとうございました、といいたくなるような、静かな佳作であるといえましょう。

機械仕掛けの王様 1  高屋未央 大洋図書  <漫画・単行本> 800円

 「CRAFT」に連載されている作品に、同人誌での同シリーズを加えたものです。退廃の支配する世界では、生体人形の「死」を見せることがエンターテイメントになっていた。そこで人気を博する一人の天才がいた。タナトス博士と呼ばれたその男は、恐るべき美しさを持った人形を作る一方、一人の女性を愛した。彼女が死を迎えたときに、タナトス博士もまた自らの生を放棄し、一体の生体人形を作った。自らの若いときの姿に似せ、体内に妻の遺骨を納めた人形を。そして後に残ったのは、妻そっくりの幼い息子と、くだんの生体人形。二人はタナトスの意志に従い、五つの伝説的な都市をめぐる。都市たちを死に追いやるために…。なんという耽美と退廃。女流作家は得てしてこうした甘美な暗闇を描き出すわけですが、そこで問題になるのは世界の設定と、フェティッシュな線と、そしてなにより「いかにテレずにやれるか」ということです。高屋は自らの表現に対して迷うことはなく、徹底的に自らが観想する死の世界を描いていきます。ああ、人間は死に対してさえ美と憧れを抱くのか!ともあれ、良くできた耽美世界だと思います。

公権力横領捜査官中坊林太郎(1・2) 原哲夫 集英社 <漫画・単行本> 古書価各300円

「阿弖流為II世」が面白すぎたので購入。外圧により、政治腐敗、金融腐敗を一掃することを求められる日本政府。それを受け入れる側も金脈まみれなのだが、仕方なく時限立法で、超越的権力を持った機関を設置する。先陣に立って政界と財界の癒着を暴くのが、本編の主人公中坊林太郎。銀行の乱脈融資を手がかりに、大物政治家の汚職を明らかにしていく…というものです。「BART」という今はなきオヤジ向け雑誌の連載であったことからも、オハナシは「こんな日本じゃいかん!」という怒りに満ちたものになっています。確かに銀行への公的資金投入は、理屈じゃ理解はできなくもないのですが、タックスペイヤーとしての立場から言えばメチャクチャきわまりないですものね。損失は銀行の経営陣や不当に高い給料をもらっている銀行員から補填するべきです。まあそれを漫画でやっているのですね。主人公中坊は、当然のごとくケンシロウ並のマッチョマン。綿密な計画とダーティーな手法で、横車を通そうとする権力の暗部を暴いていきます。キメ台詞は「親は関係ねえだろう親は〜!」。キレて本性をあらわにする中坊!そこから得られるカタルシスはなかなかのものがあります。「阿弖流為」に比べれば(この超絶的な作品と比べるのもなんだか悪い気がしますが)パンチ力は弱いように感じますが、原哲夫作品に共通するマジなんだかギャグなんだかよく分からない妙な迫力は健在です。

なかよし共和国 綾瀬さとみ ビブロス <漫画・単行本> 895円

最近では「快楽天」でもその実力を発揮している人。「カラフルBee」に載った作品をまとめたものです。とにかく可愛いのですね。絵柄といいオハナシといい。たとえば転校してきた少女とメガネ君の恋(およびセクース)を描いた表題作。絵柄があまりにも可愛らしいので登場人物の年齢がわからなくなってしまうという弱点はありますが、「小さな恋のメロディ」のようなピュアなラブが描かれて非常にナイスなんですね。それでいてきちんと水準以上のエロを描く。出来る人です。今後も注目しようと思ってます。

GUNDAM WEAPONS MS-07B グフ編    ホビージャパン  <立体・ムック> 1429円

HGグフ、かっこいいですなあ。今まで蓄えてきた技術が結集されているだけではなく、「立体としての存在感」がしっかりしているのがいいのですね。すでに名作となることが決まっているといっても過言ではないこのグフ関係の、さまざまな改造モデルを集めたムックです。お気に入りは「ガンダムのおっさん」作の「ファントムクロウ」。もちろん設定的にはメチャクチャなんですが、オラザクなんだから全然オッケーなんです(それにしてもサンライズオフィシャル設定至上主義者ってのはどうしてこうハナモチならないんでしょうかね…今度の「大百科」の発売がそういう人を増やさないことを願うばかりですが)。そして何よりいいのが塗り。深い群青色のメタリック。もともとツルンとした表面のジオンのMSってのは、実につや消しのメタリック塗装が似合うのですね。分かっていらっしゃる。
HGUC RX-78GP01Fb   バンダイ  <立体> 1200円

どっちにしてもHGUCは「見たら買う」ことにしているのですが、GP01が非常にいい出来だったので期待大です。組める日が来るのはいつのことやら。

いちばん上


2000年12月14日 (木)

龍哭譚紀行
ハイパーボリア
やまむらはじめ 大都社 <漫画・単行本> 各940円

 かつて出ていた単行本の再販に加え、デビュー作などの初期作品が収められています。やまむらといえば「未来のゆくえ」などの短編作品でも高く評価され、それを求める声も強いと思うのですが、それは実は「イレギュラー」なものであったことが見えてくる内容になっています。やまむらは、ある程度の長さを持ち、SF/ファンタジイ的センス・オブ・ワンダーを基調とした「少年/青年漫画」で勝負しようとしているのですね。「エンブリヲンロード」や「カムナガラ」の方が本来目指していたものだったといえましょう。そして現在にも続くオハナシの基本構造がすでに見えているのも興味深いですね。三白眼の強い年上の女性と、ロリっ子に挟まれる主人公(結構強い)という。そういや「ドライエック」も「エンブリヲンロード」もまったく同じパターンですしね。さすがに初期作品だけあって、意図しているものが過不足なく描かれているとは言い難いところもありますが、やまむらという作家が何を目指しているのか、どこに向かおうとしているのかはよく分かる作品集になっていると思います。

新世紀エヴァンゲリオン 6 貞本義行 角川書店 <漫画・単行本> 540円

 最近連載も安定してきた感のある「エヴァ」。今回はトウジの乗る4号機との戦いがメインになっています。このエピソードに関してはアニメ版でもなかなか痛い展開になってましたが、こちらではさらに痛く、苛烈な展開になっています。シンジとトウジの心のふれあいが丁寧に描かれるために、のちの戦いがずっと辛いものになるのですね。そしてシンジはトウジが4号機に乗っていると明白に知っていて戦わなければならない…。アニメに一応は準拠しながらも、漫画ならではの展開を目指そうとしているところが感心します。うまく完結さえしてくれれば、漫画史に残る名作になると思います。

ナナカド町綺譚 須藤真澄 秋田書店 <漫画・単行本> 848円

 復刻されましたねえ。この頃の作品は「いちま」にせよなかなか手に入らないもので。「プチフラワー」連載だったところがなんとも感慨深いところです。須藤真澄といえば、「おさんぽ大王はいいからファンタジイ作品を」「ゆずはいいから以下略」と、耳にたこができるくらい言われてきたものですが、この作品を読むとそうしたことがいかにプレッシャーであったかが、何となく分かるような気がします。川原由美子が「プランツ・ドール」をなかなか描けないように、ファンタジイ作品はミューズのささやきに大きく依存するもの。それを連載で描かねばならないのは、さぞや辛いことなのではないでしょうか。泉はからっぽなのに無理矢理水をくみ出さねばならないのですから。まあ、だからといってゆずものとかおさんぽで満足するつもりはないのですが。いつもはヘタレでもいいですから、泉が満ちたときには是非ともナイスなファンタジイ作品をお願いしたいと思います。

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2000年12月13日(水)

VERSION 上  坂口尚 講談社漫画文庫 <漫画・文庫> 780

 坂口尚の「三部作」と言われている作品のひとつですね(あと二つは「石の花」「あっかんべえ一休」)。「我素」と呼ばれるバイオコンピュータをめぐるSF大作となっています。虫プロで手塚の薫陶を受けた坂口が、いかに大友克洋を自分の中に取り込んでいったかが、よく分かる内容になっています。そこには強いコンフリクトがあったであろうことも。あとはSF面に魅力があるのがいいですね。下巻も強く期待。

方船 しりあがり寿 太田出版 <漫画・単行本> 1200円

 「クイックジャパン」に連載されていた作品をまとめたものです。ある意味どん詰まりまで来ている日本社会に降り続ける雨。ある歯磨き粉メーカーではキャンペーンの一環として、「方舟」を作ることにする。最初は観光目的だったが、降り続ける雨のために、本来の意味での方舟になっていく。すべてが水没する中、人々は方舟に乗ろうとして争いを繰り返す。明日への希望がまったく失われた中、静かに明日への準備をしようとする人に対して、方舟強奪の中心人物だった青年は叫ぶ。「オマエらみんなバカだ!!」と。明日にはみんな死んでしまうかもしれないのに、希望など何もないのに、それにすがるなど愚かな行為だと…。
 しりあがりの作品には強くタナトスの影がさしているわけですが、その背後には常にタナトスの向こうにある(はずの)希望がありました。名作「余所へ…」はそうでした。単行本「夜明ケ」は全体がそうした構造を持っていました。ですがこの作品では、意識的にそうした希望を断念するような展開が行われています。世界は終わりである、世界に希望を持つなど愚かなことであると。絶望的な状況においても人間は希望と人間らしさを失うことはなく、そこに人間の将来への希望があると説いたのはV.E.フランクルやエリ・ヴィーゼルだったわけですが(両者ともナチの強制収容所を経験していますね)、ここではそうした見方に対しても否定的な立場をとっています。表面的に見ると、しりあがりは絶望したのかと読むことができます。しりあがりが幾度も説いてきた「メメント・モリ」は、狂騒的な社会のなかで忘れ去られる一方であるのですから。
 ですがここにあるのは単なる絶望ではないように思います。すべてが水没し、すべてが押し流されてしまった地上というモチーフは、もちろん滅亡の直喩であるのですが、もう一方である種の希望のメタファーにもなっているように思います。ノアの方舟の伝説が、滅亡と再生の物語であったように。表面的な描写で絶望を描けば描くほど、希望は背景に後退するのですが、神話構造(レヴィ=ストロース的な意味で)自体が持つ「再生」のイメージは消えることはありません。また、「オマエらみんなバカだ!!」という言葉の裏には、パンドラ的盲目の希望に対する鋭い批判が込められているようにも思います。フレドリック・バックの「木を植えた男」においても、似たような事柄が描かれます。絶望的な状況の中でも、休むことなく木を植え続けるという。ですがそれは質的に大きな違いを持っています。「方舟」で描かれる希望は、それをつなぎ止めるためのすべての条件が失われてしまったために、希望を演じるほかないという気休めです。まさしく希望のための希望なのです。「大丈夫、何とかなるよ。絶対、なんとかなる」というさくらちゃんの言葉は、まだ可能性があるから発することができる言葉なのであって、すべての可能性が絶たれたあとでは空しいだけのものです。しりあがりはそうした無前提の、盲目の希望に対して、厳しい批判を加えているように思います。「だもの」とか数字の人とか。
 この本は、あえて誤解されるように作られているように思えてなりません。ですが深く読み込んでいくことで、しりあがりの変わらない意図が見えてくるように思います。漫画としてもそうですが、この時代における文学作品としても、きっちりと読まれなければならないと強く感じます。

魔法を信じるかい? 1 谷川史子 集英社 <漫画・単行本> 390

 「Cookie」連載作品。主人公のひなたは最近絶好調。入れないと思っていた大学にも入れたし、ひとり暮らしも好調。そして何よりはじめての彼氏志賀くんができる!もう幸せすぎて死んじゃうかもしれない。志賀くんとラブラブのキャンパスライフを送るひなた(キスとかはまだ)。ところが…という導入部分です。ぷっはー!こ、こっ恥ずかしい!正直に告白しましょう、恥ずかしすぎて一度に読み通すことができませんでした。ひなたと志賀くんのラブの様子が、そしてのちにひなたと関わってくる「黒い人」の設定が、どうにもむずがゆくってたまらないのですな。そしてそのむずがゆさを、骨抜きこの上ない絵柄が、2倍にも3倍にも高める。もう体がクネクネしてしまいます。一人でクネクネしている私も結構ヤバいのですが、それはこの作品がそれだけ強烈なヤバさを持っているためでもあります。骨抜きここに極まれり。

アイラ 1月号   三和出版 <漫画・雑誌> 552円

 やはり堀骨砕三「おっきい」がいい感じです。体が大きくなる謎の病気にかかってしまった隣の女の子。一人では自分の世話ができないので、主人公の少年は毎日彼女の体を拭きに行く。服がないのでいつも裸の彼女。寒くないようにきつい暖房をかけている部屋で、だんだん理性を失っていく少年…。彼女の身長は3メートルくらい。男の願望のひとつに、グレートマザーの胸に抱かれて安心を得たいというものがあると思いますが、この作品はビジュアル面でもそれを現しています。分かってらっしゃることで…。この他にも「フラミンゴ」とは違った毛色の作家を登場させたり、海明寺裕などの「フラミンゴ」味の強い作家を載せたりして、以前より随分と多様に、「読める」雑誌になってきていると思います。今後も期待。

零式 Vol.24   リイド社 <漫画・雑誌> 524円

いちばん上


2000年12月12日(火)

ゾンビ打 ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド   セガ <PCゲーム> 4280円

 かの名作「TotD」も、現在のソフトウェア状況においては、タイピング練習ソフトとして売られてしまうのですね…。もちろんタイプ練習にも使えるわけですが、この作品はソレを目指して作られたものではないはず。スタッフの人々の気持ちが慮られるところです。内容はかなり面白いと思います。ギャグもなかなか冴えてますし、何より私のマシンでもさくさく動きますから。倍ぐらいステージがあってもいいかな、と思いますが。

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:50 JST