2001年3月10日 (土)
コミックビーム4月号 | エンターブレイン | <漫画・雑誌> | 743円 |
まずは情緒不安定なナナコさんがイカス「敷居の住人」が素晴らしいです。基本的にこの作品の登場人物は、例外なく心に傷を抱えていますが、ナナコさんの不安定さはまた格別。悲しさを隠すためにむーちゃんとつきあうようになってからのヤバさ加減と来たら、読んでるこっちもぴりぴりするほど。最高だ…。ちょっと駅前で暴れてもいいですか?って感じです。
それから連載の終了が相次いでいますね。市橋俊介「テルオとマサル」、鈴木マサトシ「サルぽんち」、新谷明弘「期末試験前也シリーズ」と。いずれも爆発的に人気を博す、というタイプの作品ではありませんでしたが、最近の「ビーム」を特徴づけるいい感じの作品だったのでちょっと残念なところです。ビームのことですから、いずれの作家も早い段階で新たな連載を始めてくれると思いますが。
TEAM ROCK | くるり | ビクターエンタテイメント | <CD> | 2900円 |
3 | キリンジ | ワーナーミュージックジャパン | <CD> | 2900円 |
Pixinguinha de Bolso Henrique | Cazes & Marcello Goncalves | ライス・レコード | <CD> | 2300円 |
1枚目と2枚目、この辺は押さえておかねばならないものでしょう。キリンジについては今更の感が強いですが。「グッデイ・グッバイ」とか、オトナになってしまった私のココロをイヤってくらい動かしてくれます。くるりはやはりギターでしょう。
3枚目はショーロのアルバム。ギターのポリフォニーですね。いかんいかん、イージーリスニングを求めるのは心が弱ってる証拠だ!
2001年3月9日 (金)
ガロ 4月号 | 青林堂 | <漫画・雑誌> | 743円 |
特集は見沢知廉。へえ、見沢って随分美男子なんですね。最近のかれの連載は神がかってきてプラスの意味でもマイナスの意味でも注目していたので、タイムリーな特集ではありますね。ですが一方で漫画はちょっと。新人漫画はかなりいい感じです。山田亜矢子「晩夏の候」と高浜寛「最後の女たち」。地に足のついたオハナシでありながら、表現形態は斬新です。ですがレギュラーが。逆柱いみりも津野裕子もいないと、こうまでパワーダウンするとは…。まあ私がとびきりこの両者に肩入れしている、という事情はあるんですが。次回以降に期待。
アイラ vol.5 三和出版 552
零式 vol.27 リイド社 524
桃姫 4月号 富士見出版 505
大航海 No.38 特集文化への問い 新書館 1429
メタフィクションの思想 巽孝之 筑摩書店 1100
2001年3月8日 (木)
コミックフラッパー 4月号 メディアファクトリー
フィールヤング 4月号 祥伝社
2001年3月7日 (水)
UNIXという考え方 | Mike Gancarz | オーム社開発局 | <一般> | 1600円 |
「UNIXとは単なるソフトではない。それは思想である」というマニフェストが刺激的です。無駄を徹底的に省く。ひとつのプログラムはひとつの機能に特化させるが、パイプを使うことでどんなプログラムとも組み合わせることができるようにする。そのため効率は悪いかもしれないが、データはバイナリにせず、ASCIIにする。一からプログラムを書くのではなく、他の人の成果を参照する。そのためにソースコードはフリーである必要がある…といったものです。
コンピュータに慣れた人、特にコマンドラインに慣れた人にとっては、すべての命令をキーボードで下せるUNIX系のユーザインタフェースは、実に気持ちよいものです。融通の利かない機械に直接命令を下せる快楽。複雑な作業をパイプとリダイレクト、正規表現をフル活用して一気に片づける楽しさ。ホームポジションから手を離す必要がないというのも良いところです。高度に合理化された方法。きわめて洗練されたメソッドであることは間違いないでしょう。不合理と商業主義に満ちたコンピュータの世界において、こうした思想を表明することは、価値のないことではないでしょう。もともとコンピュータとは、合理性をつきつめたところにあるものですし。
ですがこのメソッドを手に入れるには、高度なリテラシが必要です。キーボードのリテラシ、必要な処理を正規表現に翻訳する能力などなど。それはおいそれと手に入れられるものではありません。つまりUNIXを扱うためには、コンピュータのエリートにならなければならないのです。少なくとも日本ではそうでしょう。ハッカー文化は強いエリート主義を背景としていましたが、ここでもそれは踏襲されています。自らが不可避的に抱えるエリート性を称揚することは、洗練されていない、GUIの、鈍重なシステム=初心者でも何とか使えるシステムの切り捨てという思想を生むでしょう。もちろんUNIXの良さを称えることは、GUIを持ったOSの独占を防ぐための、重要な防波堤になるでしょうが、それは一方で自分の首を絞めることにもつながるのではないか、と思います。
もう一つ気になるのは、こうした思想が近代の合理性をつきつめたものであることです。こうした思想は、人間が機械を完全に統御し、徹底的に効率を追求するために考えられたものです。それは効率を増加させるために、人間に利益をもたらす面も持っているでしょう。しかしその反面、切り捨てられていくものもあるのではないでしょうか。冗長性、いい加減さといったものが。また、この徹底した合理性こそが、われわれをおかしなところに連れてきたのではないでしょうか。自然環境の破壊をいい例として挙げることができましょう。西洋近代の合理性が現在の様々な問題を導いたことは、現在では明らかになっているわけですが、この本ではそうした側面についてはきわめて無頓着です。
悲しいことに、コンピュータ文化にはこうした思想が蔓延しています。効率が増せばそれで良し。主体的にコンピュータを統御できればそれで良しという。それが必然的に抱える陥穽は考慮されることなく、良きものとして紹介されているのです。またこの思想は、コンピュータの領域以外にも広がっていると思います。市民団体やNPOなどですね。市民の主体的参加を無前提で善とする志向は、このUNIX文化を称揚する思考形態とまったく相似形をなしています。ですから、われわれは、一歩立ち止まって、思想の前提となる条件を(おそらくは近代の合理性そのものを)考え直さなくてはならないのだと思います。
海上護衛戦 | 大井篤 | 小学館 | <一般> | 780円 |
海上輸送という観点から、太平洋戦争における日本の敗戦の原因を探ろうとする本です。筆者は海軍兵学校を出た後、ハーバードなどでも学んだ行政畑の軍人。記述の中心はかれが護衛艦隊の司令部に着任したところから始まります。そしてアメリカ潜水艦により海上輸送路が途絶したため、日本は悲惨な敗戦を迎えたと見ます。内地ならまだマシだったでしょう。さらに悲惨だったのは前線の兵士です。15人にひとりしか生還しなかったニューギニアやビルマの例を挙げるまでもなく(孤立してからのラバウルでは完全な自給自足体制が確立し、兵士の主任務が農作業だったというのはちょっといい話ですが)。
何より驚かされるのは、日本の本当の生命線であるはずのシーレーン確保のために、なんの研究も、なんの対処もなされていなかったところです。少し考えれば、日本にとってシーレーンの防衛は絶対に必要であることがわかります。日本には資源が全然ないのですから。そもそも太平洋戦争そのものが、資源を入手するための戦争だったはずです。ところが実際は、日本海軍を支配していたのは艦隊決戦一本槍の思想で、護衛や輸送などは劣った仕事と考えられていました。「護衛などという結果の出にくい任務に船も油も出すわけにはいかぬ」というわけです(陸軍で輜重兵が軽視されていたのと共通していますね)。筆者はそうした状況のなかで、合理的に輸送船団防衛を考え、そのために護衛艦を要求するのですが、多くの場合受け入れられず、冷や飯を食わされることになります。結果がどうなったかは歴史が教えるとおりです。当時の日本に、いかに合理的な思考が欠けていたかが、切ないほどよく分かるではないですか。ですからこの本では、当時の軍隊を支配していた不合理に、責任を逃れようとする事なかれ主義に、生命と資源の無駄遣いを許容してしまう過剰な精神主義に対して、強い憤りが描かれることになります。戦艦大和の沖縄特攻に際しての筆者の言葉が心に響きます。
「国をあげての戦争に、水上部隊の伝統が何だ。水上部隊の栄光が何だ。馬鹿野郎」
軍事的にも経済的にも無価値な作戦であることもやりきれないのですが、大和が積んでいった4000トンの重油があれば、大連や元山に蓄積されていた大量の穀物を輸送することができた、とあるのがさらに辛いところです。
近年盛んになっているナショナリスティックな言説では、日本の戦争の正当性を訴えたり、兵器や精神の優秀性を訴えたりすることが、半ば当たり前になっています。ですが実体は勝算もなければ合理性もない、行き当たりばったりの戦争だったわけですし、その精神主義のために、死ななくてもいい人があまりにも多く死んだことは間違いないでしょう。日本の行ったことを正当化したい、誇りを持ちたいという気持ちは分からなくもないですが、それ以前に、あの戦争がどういうものであったのかをきちんと見直さなくては、誇りもへったくれもないと思います。過ちを繰り返さないためにも、広く読まれなければならない本といえましょう。
スクール 2 | OKAMA | ワニマガジン社 | <漫画・単行本> | 505円 |
「快楽天」に連載されていた作品です。主人公孝之は、出会った女の子全員と見境なく、それこそちんちんが文字通り真っ黒になるまでセックスするわけですが、この巻ではそうした関係が少しずつひずんでいくことになります。孝之は出会った女の子全員に、「君だけだよ」と甘い言葉を囁き、そのために女の子たちは皆本気になってしまいます。そのためにこの作品は、一話完結のエロ漫画としても成立しているわけです。ですが後半、誰に対しても同じことを言う男であることがバレてしまうのですね。女たちに総スカンを食らう孝之。一方で孝之に悪気はありません。かれは心に深い空虚を抱えているために、誰に対しても同じことを囁くのですね。そしてそのことが、それぞれの女の子を傷つけるということが分からないのです。どこかが決定的に壊れてしまった魂。
出会った女の子すべてとセックスする、という展開は、エロゲーを強く連想させます。フタマタ(以上)かけることは、かけられた女子どうしの、あるいは女子と男子の間に、骨肉のゲヴァルトを引き起こすものです。現実世界においては。ですがエロゲーにおいては、そうしたゲヴァルトは最初から「ないもの」として扱われ、何人とヤっちゃっても最後はあらまほしきエンディングを迎えます。この作品では、いやーなゲヴァルトを描く一方、最後は本当にとってつけたようなハッピーエンドで終わらせます。なんたる皮肉!スズキトモユさんが指摘しているとおり、この作品はそうしたありがちなエロゲー的ご都合主義に対する、鋭い皮肉であるということができましょう。「同級生」的なエロゲーで満足してしまうマインドに対する、痛烈な揶揄といえましょうか。
ですがこの作品はもう少し別の角度から見ることができるようにも思います。まず孝之のような男は、「いま」に特有のものではなく、結構普遍的に存在します。後半、孝之と関係した女の子たちは円卓会議を開き、孝之の処遇を相談します。ですが最後に孝之の前に現れるのは孝之がもっとも「愛した」女。彼女が孝之の行動を許し、受け止めることで、物語はエンディングを迎えることになります。登場人物全員が集うパーティーのなかで…。そう、この作品の構成は、フェリーニの「8 1/2」とおんなじ構造を持っているのですね。このことは、「8 1/2」と同じような、すっとぼけたエンターテイメントとして機能するのと同時に、ダメなマザコン男を描いた普遍的エンターテイメントになることを意味します。
それからもう一つ、表題の「スクール」からも分かるように、この作品世界からは大人が排除されています。保健の先生と母親は登場しますが、それも大人としては描かれず、未成熟で中途半端な存在です。これは当然現在の状況とリンクして解釈することができましょう。
このようにこの作品は、OKAMAの作品に共通することですが、さまざまな解釈可能性を持っています。見た目の可愛さにそぐわない深みを持った作品といえましょう。
ピロンタン21 | ピロンタン | ワニマガジン社 | <漫画・単行本> | 505円 |
おなじく「快楽天」に載った作品をまとめたものです。オハナシの内容は…まあ見事なくらい…
彼氏の浮気に悩んだ女子高生が、試しに彼氏を呪ってみたら、彼氏の下半身がちんちんになってしまいます。
みなしごで土管に住む女子高生の杉浦の悩みは部活動がうまくいかないこと。部活動とはフェラチオでいかに早く射精させるかを競う競技。コーチの愛の特訓で(以下略)
葉山リカはセールスレディ。だが人一倍緊張しやすい性質。その緊張が頂点に達すると…彼女は人前でもオナニーをはじめてしまうのです。
ほれぼれしますねえ。ここまで来ると確実にある種の「境地」に到達しています。ピロンタンのよいところは、そうしたくっだらないオハナシを実にハイテンションに、照れずにやるところにあると思います。あとはオーツカヒロキとしての仕事の影響か、女子の描き方がほかの作家とひと味違うところでしょうか。
彼氏彼女 | しのざき嶺 | ヒット出版 | <漫画・単行本> | 874円 |
ちょっと前の嶺先生は随分とヘコんでいたらしく、内容的にもイタいオハナシが続いていました。あるいは脊髄反射で描いたようなものがしばしば見られました。女性と別れたことが原因だったとのことですが、いちファンとして非常に気になっていたのですね。「インジェクション」とか「ブルー・ヘヴン」の頃のような鬼気迫る作品がすっかり影を潜めてしまったのですから。ですがこの作品集では次第に回復していっているさまが見られます。
もともとこの作品は「D-Ange」誌上で展開された、読者投稿のシチュエーションを漫画化する企画で生まれたものだそうです。ですから内容はかなりソフト。愛のあるカップルのさまが描かれます。非常に興味深いことは、それが次第に「変わった」方向に向かっていくことです。「ぽっちゃり」系(=かなり太め)の女性が描かれたり、デブで脂ぎったオタク男が描かれたりするのですね。これだけで多くのキレイキレイした「美少女漫画」を求める人には引かれてしまうところです。しかしここで、まさにこうした人を描くことを通じて、嶺先生は「そうした二人の間に生じるいい関係」をきちんと描き出します。もちろんエゴなんかも含めて。これは奥深いですよ。虚飾を徹底的に廃したオタク(ダメ系)の恋愛。それが結局いい関係へと軟着陸していくのですから。結果として、読者は強く心動かされるわけです。嶺先生復活を強烈に印象づけるナイス作品集になっていると思います。感慨深いです。
<その他>
貧乳白書 V.A. あまとりあ社 900
ミルクコミックさくら Vol.15
文脈病 斎藤環 青土社 2600
グローバル化の遠近法 吉見俊哉・姜尚中 岩波書店 2300
コミックメガキューブ コアマガジン 648
2001年3月6日(火)
ヤングヒップ 4月号 | ワニマガジン社 | <漫画・雑誌> | 362円 |
今回は魯介ももっちーも載っていないので、買うか買うまいか随分迷ったのですが、手に取ってみて、ある作家の名前を発見してど吃驚。即座に購入した次第ですよ。その作者とは…他ならぬKashmirなのですね。知らない?それはもったいない。戸隠イズミの名で「変玉」に作品を発表したり、同人サークル「鉛の飛行船」でごくセンシティブな作品を発表している人です。常々新作を心待ちにしていたのですが、まさかここで新作が読めるとは。
作品名は「ドライブ」。車で逃避行を続けるジャージ姿の少女と青年。青年は腹を刺されており、次第にいのちが失われていく。流れるラジオから推察される二人の関係は非常に曖昧。兄妹なのか、誘拐犯なのか、銀行強盗なのか。ただ一つ明らかなのは、少女は「ここではないどこか」へ連れて行ってもらうことを望み、青年はそれに応えたということ。いのちの最後の灯火を確かめるようにセックスを重ねるふたり…。待っただけの甲斐があった、とつくづく感じる内容です。確かに他の作品に比べると浮いていることは間違いないでしょう(次の作品はセキケンですし)。ですが追われる者の絶望、暗闇に慣れていく少女の心理描写、そして死を描くことによって、他の作家では真似のできない深いオハナシになっています。また画面が非常に洗練され完成されているところも素晴らしいところです。神経質なコマ割りによって、そしてジャージ姿の少女を丹念に描くことによって、実に説得力のある画面になっているのです。絵の魅力は相当なものがあるといえましょう。オハナシが痛いために抜けやしませんが、エロの面の配慮もなされているところも見逃せないところです。ともかく、長い不在を埋め合わせてじゅうぶんにお釣りがくる、トリハダの立つような作品になっているのですね。こういう作品を見るにつけ、「漫画を読んでいて良かった、データを集めていて良かった」とつくづく思います。もうひとつ、私が編集者でないことに、忸怩たる思いも抱くのですが。太宰治の作品に、作家と心中してもいいと思うほど作家に惚れ込む編集者のエピソードがありますが、その編集者の気持ちがよく分かります。隔月ペースでもいいですから、定期的に作品が読みたいと強く思います。
Wings 4月号 | 新書館 | <漫画・雑誌> | 485円 |
ボーイズラブには「順序」があると思うのですね。オタク要素を持った女子たちは必然的に、ある「順序」に沿って、ボーイズラブにたどり着くと考えているのです。「りぼん」や「なかよし」に始まり、「花ゆめ」などを経由して、その中に潜むオタク要素に反応した女子たちが「ある地点」にたどり着き、その後はボーイズになだれ込んでいくという。この「ある地点」に当てはまる雑誌の代表が、他ならぬこのWings(そしてASKAとかサウス)だと思うのです。
…えー、この仮説は間違いないです。絶対そうです。WingsとASKAに代表される「おたく系少女誌」は、現実から距離を置いた、広い意味でのファンタジイに依拠した作品を載せることを旨としています。そしてボーイズラブにおいて展開される男の子同士のラブは、そうしたファンタジイとまったく同じ構造を持っています。違いはセックスシーンがあるかないか、それだけ。少女たちはエロのない、「健全な」雑誌で十分経験を積んだ後、エロのある…求心力は強いもののやや後ろめたい面もある…ボーイズラブへと進んでいくのです。女性のみなさんはどう思います?
ところで。さすがに伝統と実績のある雑誌だけあって、中身の詰まった印象を受けます。なるしまゆり「少年魔法士」は線が実に整理されていますし、よしながふみ「西洋骨董洋菓子店」はベテランの手練を見ることができます。橘皆無「DATA」も同様。80年代から積み重ねられてきたこっち系の絵柄が、うまい具合に極まっているさまを見ることができます。押上美猫「ドラゴン騎士団」のような若々しい(=ほほえましい)作品や、西炯子「蝮」のような「どーなっとるんじゃい」といいたくなる作品もありますが、全体的に非常によくまとまっていると思います。
今回特に気になったのは、まず楠桂「ホラーのおすすめ」。もう15年(!)彼女の作品を読み続けていますが、やっぱり絵の面でもオハナシの面でも実に楽しませてくれるのですね。カリカチュアライズがうまい一方、見せるところはきちんと魅せる。近年いっそう鋭くなった線が心地よいです。それから新連載の水月博士「真夜中の帝国」。楠本まきを思わせる「貧血系」の絵柄。生命力の薄そうな、タナトスを体現したような主人公の少女。他の作品と絵柄の文脈が異なっているせいもあってか、異彩を放ちまくっています。なかなか読める雑誌じゃあないですか。定期購読を真剣に考えています。
drap Vol.10 | コアマガジン | <漫画・雑誌> | 752円 |
後発ながらもめきめき頭角を現している雑誌。男の目で見るせいかどうかは分かりませんが、ずいぶん内容が濃いように見えます。特に目立つのがボーイズラブにありがちな、非・リアル系の絵柄が少ないところ。とても人間とは思えない、デッサンの崩れた輪郭や髪型がボーイズラブでは許容されていますが(「サイレント」を参照してくださいね)、この雑誌ではそうした絵柄は極力排除されているように思います。それから、これは純粋に私の好みなのですが、「可愛い男受け」が多いのがいいんですね。可愛い男は受け!これぞ世界の真理!萌えー!
ですから当然島崎刻世「無敵のLove Attacker」、ばるご介三郎「温泉ロマンス」、しのはらなぎさ「ちいさな本屋さん」、ちょっと変化球の太平洋「きっと愛してる」あたりが気になるところです。特筆すべきは「温泉ロマンス」。この一コマをご覧ください。12歳と称しても違和感のない英一さん(手前)が29歳?ちょっと凄いことになってません?限りないイメージが浮かびません?当然この英一さんが、温泉で後輩(後ろ)から激しく…きゃー!!
まんがタイムDash! | 芳文社 | <漫画・雑誌> | 286円 |
新しい四コマ雑誌です。別冊扱いで、次号予告もないので、次が出るかは分かりませんが、内容はかなり魅力的です。四コマで目立つところは有馬しのぶ、下地のりこ、唐沢なをきといったところ。よくもまあ唐沢なをきの原稿をゲットしたものです。
それから四コマだけではなく、普通のコマ漫画も重視しており、深森あき「うかがう男」、志村貴子「少年の娘」、赤田雑貨「ナマケモノの父」が載っています。これがまたなかなか凄い出来。ごく不器用な形でしか…でもミエミエの形でしか…「好き」という気持ちを表すことができない女の子が魅力的な「うかがう男」。結婚を前にした女性がとらわれる心の闇を描いた「少年の娘」。ボンクラに見える親父(探偵)と娘が巻き込まれる狂気を鋭い絵柄で描いた「ナマケモノの父」。どれも非常に読ませてくれます。それにしてもこの人選。志村貴子を起用する、それだけで編集の感覚の鋭さを感じます。志村もそれに応えて鋭い作品を描くこと!
今のところ次が出るかどうか分からないのが残念ですが、これは面白い雑誌ですので、是非次も出してほしいと思います。その節はまた志村貴子を…。
2001年3月5日(月)
銀河帝国の弘法も筆の誤り | 田中啓文 | 早川書房 | <SF・単行本> | 580円 |
ジュブナイルものや、ホラー/ミステリで活躍する作者が、満を持してSFに殴り込みをかけた作品です。この作品の評判は「メビきち」や「すきまページ」で聞いていたのですが…やっぱり表紙のインパクトにヤラれちゃいましたね。そもそも帯の「わたしたちはこの作品を推薦できません」というところがイカしてます。ページをめくると「田中啓文に捧ぐ」と…自分に献呈かいー!その裏には「アイザック・アシモフにも捧ぐ」ですと。人を食ってるにも程があります。何よりステキなのはその制作方法。編集者が考えた「銀河帝国の弘法も筆の誤り」というタイトルに合わせて、純粋にダジャレで一本作品を作ってしまうのですから。筒井康隆が絶賛したというのも頷けます。まあ、方法としては昔の筒井と共通するものがあると思いますが、とにかくダジャレで作品を作ってしまうというやり方は、現在の状況にどこかマッチしたところがあるように思います。SF的に破綻している?そんなに美味な生命体なら絶滅させずに繁殖させるはず?そんなこという人は嫌いです!
テスタロト 1 | 三部敬 | 角川書房 | <漫画・単行本> | 900円 |
「菜々子さん的日常」でスマッシュ・ヒットを飛ばした作者の、本格ストーリー漫画。「ドラゴン」に連載中の作品です。舞台は中世ヨーロッパを感じさせるもの。世界はひとつの宗教の二つの宗派に分かたれている。主人公の尼僧カプリアが所属するのは、異端審問官のグループ。主人公はまだ駆け出しなので、現状を甘く見ているところがあるが、そこはさすがに異端審問。他のメンバーは宗教の名のもとに、そして自分が信じる「正義」のために、異端と判定された者を容赦なく叩き殺していく…。むふふふ。ドキドキしますなあ!
まずは絵の魅力が強いのが良いですね。カプリアは「菜々子さん」のごとき可愛さを持ってます(当然サービスシーンもあります)。加えてキャラクタの造形とアクションも実にしっかりしています。巨大な散弾銃を軽々扱うレオニダスのかっこいいこと。黒を基調とした画面構成が映えること。それから「ほたる」で見せたダークなオハナシが、長編連載という場を得て、有効に機能しているところも見逃せないところです。絶対的なものとして設定されている「正義」と、実際の現場において現れる正義の差が描かれ、「正義とはなんなのか?」という宗教的・哲学的な主題が現れるのですね。それはもちろん、大文字・カッコ付きの「正義」が、有効性を失っている現在だからこそ、訴える力を持ってくるわけです。いやー、面白いです、これ。
2001年3月3日(土)
ヒカルの碁 11 | ほったゆみ&小畑健 | 集英社 | <漫画・単行本> | 390円 |
プロ試験もついに決着のときを迎える。めきめき力を伸ばしていくヒカル。佐為との関係も、少しずつ揺らいでいく…。やっぱりええですなあ。第一に少年漫画として非常に優れている点を評価したいです。全くの弱肉強食の世界を描くことによって、必然的に生じる「たたかい」。それに全力を持ってあたる魅力的な人々。ジャンプ作品の基本的構造がここに生きているのですね。そしてそれを通過することで、ヒカルは一回りも二回りも大きくなる。燃えますなあ!第二に敗れた人々にも暖かい視線を注いでいる点がぐっと来ます。奈瀬、椿、何より伊角。勝負の世界は非情なので、彼らの今後は辛いものになることが予想されます。ですが作者ふたりは、彼らにもきちんと目を向け、その後まで描こうとしています。ですから読者も作者たちの選択に納得するわけです。そして第三に、強く薫りたつショタ/やおいのにおいにも。伊角誘い受けですか?
アックス Vol.19 | 青林工藝社 | <漫画・雑誌> | 933円 |
特集は外国のオルタナティブコミック。こうした特集は自らを「オルタナティブコミック」とカテゴライズしていることを意味しているので、やや危惧を感じます(サブカル至上主義ってわけですね)。ですが、今まで知らなかった情報を知ることができるので、その意味では歓迎したいと思います。今後も続けていって欲しいものです…特にアジアの情報を。
今回目立ったのは島田虎之助「モントリオールの聖アレクサンダー」。世界中の消防士が集まるスポーツ大会で、ひときわ異彩を放つ大男、ウクライナのアレクサンダー。彼は「聖人」として尊崇を受けている。なぜならただ一人、地獄のようなあの場所から生還したのだから…というものです。ノホホンとした絵柄からギャグマンガのように見えますが、描かれている内容は意外なほどにまっすぐな「いい物語」。ロシア民謡からの引用が読者のこころに鋭く訴えかけてきます。あと気になるのがオカジマアヤコ「コンケイブ」。今の若者が感じている空気をそのまんま無前提で描き出していて、ある意味もの凄く嫌な感じの漫画になっていると思います。みんなで同じ空気を共有する…はいはい、よかったね、と毒づいてみたくもなります。ですがそれは私が年を食ってしまったがために出てくる言葉。彼女らにとってはそれが「リアル」なのでしょう。そのリアルに依拠して漫画を描こうとする姿勢には共感するものがあります。
2001年3月2日(金)
坂口尚短編集2 紀元ギルシア | 坂口尚 | チクマ秀版社 | <漫画・単行本> | 1600円 |
実に丁寧な造本が好ましい短編集の2が出ました。作品と作者に対する愛が感じられて、なんだかこころ動かされます。今回の収録作品は「紀元ギルシア」「ゼファ」「エストレリータ」「8月の草原」の4本。いずれもSFをモチーフにしています。さすがに今となっては古い表現が目立ちます。あの頃、いかに「アキラ」が影響力を持っていたかが分かるのですね。坂口が必死に大友風(メビウス風かも)の画面構成やタッチを取り入れようとしているのが伺えます。しかしやはり絵柄の奥深いところで、師匠手塚のタッチが現れてくるところが興味深いです。加えてネタは独特。世界そのものが活発な生命力を持って蠢いている点で共通しているのですね。もちろん「アキラ」などとの差別化のためもあるのでしょうが、「Version」などを読んでも、坂口のSFがここにあることが分かります。
激しくて変 III | V.A. | 光彩書房 | <漫画・アンソロ> | 876円 |
特殊系/サブカル系のエロアンソロも3号目。今回も濃いラインナップです。執筆者は順に、沙村広明(表紙)、町田ひらく、早見純、明治カナ子、小瀬秋葉、牧神堂、華麗王女、阿宮美亜、牧田在生、町野変丸、ゆうきあきら。いやー、これは凄い!なにが凄いかといえば、痛すぎて&特殊すぎて全然抜けないのですな。最盛期のフラミンゴを軽く越える特殊さを持ってますし、そうでない作品は極度に痛いのですね。
前者の例としてはまず小瀬秋葉「虫の味」。地方大学の寄生虫研究室の講師をしている女性。彼女は実験材料として自分の腹の中に虫を飼っている。そして趣味は腹の中にいる虫を料理して食うこと。夫はよき理解者として彼女の虫を出すことに協力する…。具体的には何をするかといえば、彼女の体内のサナダムシを取り出すのですね。知ってますか?サナダムシの取り出し方って。下半身を体温と同じ温度のお湯につけ、肛門から少しずつ引っ張り出すのです。その描写の精細なること!そしてこの場合駆除することが目的ではなく増殖させることが目的なので、途中で切って頭だけ体内に残すのですね(頭が残っていれば程なく再生する)。「大変お得」だそうで。この人の場合「フラミンゴ」に載った作品も特殊でしたが、これもまた絶句するような特殊さを持っています。人間ならざるものとのセックスというんでしょうか、そうしたものへの志向が感じられるのが面白いです。加えて割烹着、木造家屋、毛糸のパンツといった生活臭を作品に書き込んでいるところが実に非凡です。特殊といえば華麗王女「白昼」もなかなかのもの。前回の続きなんですが、高飛車で美人の秘書の肛門にガラスの円筒をぶち込み、そこに生きたタコを入れます。リチャード・ギアのハムスターも真っ青!加えて白目をひんむいた顔、鼻の穴と口に指を突っ込まれ、無様に変形した顔を丁寧に描くこと。いやあ、心が休まりますなあ。
一方痛い方といえば、町田ひらく「半仏半獣」、早見純「ラストインパクト」、牧田在生「ほしにねがいを」と続きます。ひらく、早見は今更説明する必要がないタイプの、自家薬籠中のネタ。幼女がさんざんに陵辱されるひらく、女子高生が不条理にレイプに巻き込まれていく早見と、カタルシスのかけらもありません。陰惨きわまりないです。そしてびっくりしたのは牧田在生。主人公のミハルは小学校高学年の女子。教育実習の先生に淡い憧れを抱いている。一方家庭環境はもの凄いもの。母子家庭で母親は水商売、母親のヒモは成長してきたミハルに手を出そうとする。そしてミハルの主な役目は、母親の留守中、ボケてしまった祖母の世話をすること。呼ばれて教育実習生の下宿に行くものの、そのとき来ていたクラスメイトたちは皆気味悪がって帰ってしまう。そしてミハルは実習生の友人にヤられてしまい、家に帰れば帰ったでヒモの男の慰み者になる。泣き叫ぶミハルを前にヒモの男は切れて、出ていってしまう。それについていく母親…。えーっと、「父ちゃんどこさ行った」って歌、知ってますか?ぐうの音も出ないほどの不幸の連続攻撃。もはやここまでくると笑うほかないレベルに到達しています。もう一つ救いがないのが、ネタ的に根本敬や山野一と同じ視点を持っているのですが、絵柄が少女漫画の要素が入ったかわいらしいものであること。さすがの私も「もう勘弁してください」と泣き言を言いたくなってくる内容です。
さらに輪をかけて凄いのが編集人のお言葉。いうまでもなくタコ多田氏なのですが、要約すると「2号からは大赤字。間違いなく「激しくて変」は4号で臨終」というのですね。後継のアンソロを出すとは書いてありますが。とにかくすべての面で強烈な印象が感じられます。もちろんこの極端さは強く評価できるのですが、暗黒パワーも強烈です。ああ、鬱だ…氏のう…
CAT'S WORLD 2 | OKAMA | 角川書店 | <漫画・単行本> | 960円 |
テロリストたちの「全人類ネコ化計画」も最終段階に。そのなかで、ネコ化ウイルスを作り出したエチュカの意図が、そしてカカを守り続けてきたサンの過去が明らかになる…この巻で完結。やっぱり絵にはほれぼれするところです。抽象化ここに極まれり、といったところでしょうか。特に豪快に単純化されたオコサマの描き方!「手抜きなんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、それは明らかに意図的なこと。…まあ、何を目的にしているかはよく分かりませんが、少なくとも読者をある精神的高揚に導くのは間違いありません。
それにこの作品は単に「絵だけ」の作品ではありません。メインのオハナシに絡まってくる、それぞれのキャラクタのオハナシが「読ませる」ものなのですね。タイニーな見かけに似合わず、エチュカやサンが抱えている動機は、かなり切実なものです。それは一方で、この作品が単純なファンタジーであることを許さなくします。「気軽に読めるファンタジックな作品」として考えたときには、マイナス要因になるものでしょう。ですがもう一方で、この作品に深みを与えています。
全体的に見るとこの作品は、どこか出っ張っていたり、どこか凹んでいたりする「ゆがんだ真珠」であるように思います。ですがこの作品はいい意味での「バロック」であるように思います。
ジンクホワイト 1 | 小泉真理 | 少年画報社 | <漫画・単行本> | 571円 |
主人公マキは美大を目指す女の子。芸術科のある高校に転入するが、芸術科には空きがなく、やむなく普通科に転入する。美術部に入ろうとするが、そこは芸術科以外は事実上入れない排他的な空間。その悔しさをバネに、画塾に通うことにする。そして出会いが…。
ペンネームをちょっと変えての新作です。「ヤンキンアワーズ」連載作品。見た目が4コマだったり、いつものちょっと下品なギャグがあったりするので、いつもの作品と代わり映えしないように見えます。ですがなかなかどうして。本人はあとがきで「実体験とは距離を置いてます」と書いてはいますが、芸術科の連中から受けた屈辱や、画塾の描写、多くの人には縁の薄い「美大受験生」の描写など、経験していない人では描けない迫力とリアリティに満ちています。間違いなく若き日の小泉真理が実際に経験してきたことなんでしょうね。そしてそうした状況のなかで悩み、あがき、恋する男女の姿を描いていきます。…決して大仰なドラマを作ることなしに。このあたりから、そして「ジンクホワイト」という安い絵の具から取ったタイトルから、作者の意図が見えてきます。作者のやろうとしていることは、リアルな青春ドラマを描き出すことなんですね。安易にノスタルジーに溺れるのではなく、挫折も、ねたみやそねみなどのいやな感情も、そして恋も笑いも含み込んだ青春のさまを描こうとしているのです。4コマギャグやエロネタだけじゃないよ、ということを如実に表現しているのですね。これは今後も期待大です。
ピナピナ | 栗生つぶら | 宝島社 | <漫画・単行本> | 657円 |
空白を含み込んだ可愛らしい絵。まずはそこに惹かれるところです。ですがオハナシは結構ダーク。恋愛がうまくいっているときでも、主人公の女の子たちはそれが破綻してしまった先を観想してしまうのですね。もちろん恋愛がうまくいかないオハナシであればなおのこと。実は彼は浮気してるんじゃないか、といった不安が、どす黒く広がっていくのですね。空白をうまく生かした画面構成が、不安を否応なくかき立てます。ですから見た目の可愛さに見合わない、興味深い内容になっていると思います。
熱血SF短編集 霊界トトカルチョ 熱血SF短編集 コックローチマン |
島本和彦 | エンターブレイン | <漫画・単行本> | 780円 |
昔懐かしい「ワンダービット」の再販です。全4巻なので、すべての作品が再録されるわけではないようなのがちょっと残念。ですが内容はかなりのもの。「燃えよペン」「逆境ナイン」「無謀キャプテン」の頃の、名作を連発していた頃のシマモト先生の勢いが感じられます。表題作になっている「霊界トトカルチョ」や、「コックローチマン」も面白いのですが、他の作品もなかなか面白いです。たとえば「正義」とは何かを高らかにうたいあげる「これが正義だ!」。生まれたばかりで「正義とは何か」がわからない正義のヒーロー、バーニンガイ。そこに現れるヒーロー、ジャングルJ。彼は「俺が正義であり俺と戦うものが悪なのだ」と明快だ。しかしそこに次々と現れるヒーロー/ヒロインたち。彼らはみな自分にとっての正義を持っており、それに従って戦っている。なので当然全員一致した「正義」は現れない…。シマモト先生といえば、漢の魂を感じさせるさまざまな名言で知られており、得てして口先ばっかりであるかのように思われがちです。マネッコの多くがそうであるように。ですがシマモト先生が本当に面白いのは、その言い切りに関してぐちゃぐちゃ考えるからなんですね。その思考実験があるからこそ、シマモト先生の作品は深みを増すのですし、言い切りも説得力を持つのだと思います。前作を持っている人には勧めませんが、シマモト先生の入門としてはかなりいいんじゃ、と思います。
てきぱきワーキン▽ラブ 6 | 竹本泉 | エンターブレイン | <漫画・単行本> | 620円 |
ノホホンとしてますなあ。「やろうと思えば死ぬまで続けられる」体制を作り上げたことが注目すべきところです。ヒカル、ナオミ、エダルト、ナーナのキャラがきちんと出来上がっているため、後は適当なシチュエーションを放り込めば一本オハナシが出来てしまうのですね。結果、すっかすかの…だからこそ最高に気持ちいい…オハナシになるわけです。今回目立つのは三人組が組合活動をやるところ。基本的に豊かな生産力を持った余裕ある世界であるために、組合活動も実にノンビリしたもの。従来の組合活動の常識をはるかにぶち破る衝撃的な展開。「組合かつどうー」などといいながら、ただだらだらしているだけなのですから。さ、最高だ…。ただ、そうであるために、自発的に終わらせたってのも分かる話です。何も考えなくてもオハナシが出来てしまうというのは、ある意味作家の創造性の終末を現しているのですから。もう一つの理由、雑誌が休刊したために連載が終了した、という形を取りたくなかったというのも凄く良いんですけど。
ゆずのどんぐり童話 | 須藤真澄 | エンターブレイン | <漫画・単行本> | 1200円 |
そろそろ死期が近いと思われるゆずですが、漫画のほうではまだまだ元気。「どんぐりくん」で白痴美=ホントの意味でのお馬鹿さんが醸し出すゆかいさを見いだしたますび先生。この本でも大馬鹿なゆずが童話の主人公になって大活躍します。おへんじが「あーい」ってのが。限りない馬鹿さを感じさせます。
Bstreet Vol.4 | V.A. | ソニー・マガジンズ | <漫画・アンソロ> | 950円 |
ミステリをテーマとしたアンソロもはや4号。執筆者は順に木々、東城和実、しまじ月室&Marr、雨宮智子、雁須磨子、亀井高秀、斉藤岬。今回は目玉の(?)冬目景こそ載っていませんが、それにしても豪華なメンバーであることには変わりありません。なかでも目に留まるのはやはり雨宮智子と雁須磨子。雨宮の作品は、前回から始まった、アメリカの片田舎の町を舞台にしたもの。ちょっと不思議な事件をネイティブアメリカン系のドクターが解決していく…というものです。やっぱりいいですなあ。アメリカの田舎が共通して持つある種の「切なさ」が描かれていて。今回はネタが戦争帰りの男、ということもあり、よりいっそう切なさが増しています。それから雁須磨子。もう絵柄とかぐずぐずで、凄いことになっているのですが、オハナシはさすがに読ませるのですね。なんだか盆暗で、ぱっとしない男が、探偵稼業では生き生きするという…。いい感じです。後は亀井高秀がいい感じ。コワモテで人を食った女性ってそれだけでなんか感じ入るものがあります。
マンガ・エロティクス・エフ Vol.2 | 太田出版 | <漫画・雑誌> | 700円 |
ほう、これは。華倫変「あぜ道」。ずいぶん久しぶりの登場です。さばさばした性格の「芳子」、一番オリジナルに近い「玉江」、そしてニンフォマニアの「ミレマ」という三つの人格を持つ少女と、彼女の面倒を見る少年。「病気」のせいかいじめられる彼女。また突然「ミレマ」が現れ、輪姦されることもしばしば。帰りが遅くなったある日、彼はさんざんに輪姦された彼女と出会う。歩けなくなっている彼女をおぶって帰るうちに、彼は彼女の将来に思いを寄せる。誰が彼女を救うのか、と…。いい作品です。おそらくは彼も彼女を救うことはありません。彼女は救われることなく、田舎の閉鎖的な社会の中で不幸に死んでいくほかないでしょう。おそらくは望まない妊娠をして。華倫変はそうした苛烈な状況を、一方で容赦なく描き出します。可哀想な彼女をなんとかしてやろうといった、ありがちな慈悲を込めることなく。「桶の女」でも描かれた、現実の「どうにもならなさ」。そのドライな、かつリアルな視点が、この作品をほかの作品とは決定的に異なったものにしています。ですがもう一方で、この作品はどこかリリカルです。いやってほどに苛烈な現実に直面しているがために、ふたりはそれから逃れる世界を観想できるのですね。ほんのわずかな、そして実体のない救い。まだまだすばらしい作品が描けることがよく分かります。華倫変は次回も登場とのこと、実に楽しみです。
あとはボーイズっぽい絵柄で切ないオハナシを描く柴田眞紗子「秋風」、闊達な絵とお馬鹿なオハナシが心地よい伊藤チカ「根本サキ千代」が面白かったところです。
コミックリベル Vol.1 | 日正堂 | <漫画・雑誌> | 371円 |
ある意味鳴り物入りで登場した、中とじの月刊雑誌です。
コンセプトはかなりはっきりしていますね。「車・バイクとミリタリー」。前者は両刃剣、そうま竜也、水原賢治、MO・MO。どれもこれも「ブルヴァール」みたいなオハナシで、懐かしいタイプのオタクの欲望が現れているように思います。…私自身車が好きな女の子ってのを見たことがないので=そういうのは全部フィクションだと強く思いこんでいるので、ちょっとカラくなってしまいますけどね。そうま竜也と水原賢治を連れてきたのはなかなかいい眼力だと思います。それから後者については松田大秀、滝沢聖峰、田中雅人、そして小林源文といった人が描いてます。いまミリタリーがきちんと描ける作家をすべて揃えた、という感じですね。田中は除きますが。それにしても田中雅人って…いやいや。
それぞれの作品はなかなかのものだと思います。ゲンブン先生の「ウサギの黒騎士」とか、鬼気迫るものがありますし。あのバウアー中尉がウサちゃん、ってのはかなり悪夢的なものがあります。ですがどうにも一般性に欠けるようなラインナップなんですね。車ネタはともかく、ミリタリーネタがそれほどウケるとは思えないのですよ。編集上のミスなども相まって、どことなくちぐはぐな印象が否めないのです。最初から芳しい危うさを放ちまくっています。3号雑誌にならないといいのですが。
オトナでよかった! | 唐沢よしこ&なをき | エンターブレイン | <一般・単行本> | 1200円 |
「週刊アスキー」の連載をまとめたものです。後半は比較的穏当なネタが多くなって、ちょっとつまんなくなってしまうのですが、前半はじつにスリリング。ろくでもないUG系のチャットに参加したり(とりあえず新参者は全員獣姦ホモ野郎呼ばわりされるようなところとか)、風俗に行ってきたばかりの男が集まる風俗オフ会に参加したりとか。ちょっとこっちの妄想も入ってますが。さすがに唐沢夫妻、濃い(第一世代的)オタクネタが満載で、楽しませてくれます。
ECMの真実 | 稲岡邦彌 | 河出書房新社 | <一般・単行本> | 2200円 |
キース・ジャレット、パット・メセニーといった前衛的なミュージシャンのアルバムをリリースすることで知られているECM。マンフレート・アイヒャーによって作られたこのレーベルが、いかに生まれ、そしてどのように現代音楽を取り入れ、現在に至るかを描いた本です。
私にとってはECMとは、現代音楽の有力な版元です。NEWシリーズってやつですね。アルヴォ・ペルトの「タブラ・ラサ」をはじめて聴いたときの衝撃は、今でも忘れられません。仕事に疲れクサっていたときに、このアルバムがどれだけ心の支えになってくれたことか。全くの無音から少しずつ立ち上ってくるヴァイオリンの旋律は、マックス・ピカートのいう「沈黙の世界」を思わせたものです。神も仏もないことが分かり切っている現代だからこそ、響いてくる深い宗教性。現代の悲歌。ですからECMには恩義を感じてるというわけです。…NEWシリーズを支えていたのがヤッピーだったと知って、「ぐげえ」とか思ったことですが。
2001年3月1日(木)
快楽天 4月号 | ワニマガジン社 | <漫画・単行本> | 314円 |
三浦靖冬再登場。この人「トラブルチョコレート」のコミカライズも手がけてたんですね。頭身の小さい可愛らしい絵柄で切ないオハナシをやるところが侮れません。幼なじみの絵のモデルをつとめる女の子。だが彼には彼女ができる。隠しきれない思いを抱え苦悩する女の子…という。それを単純なハッピーエンドにしないところもナイスです。他には最近ブチキレてることこの上ない…だからこそ面白い…月野定規、絵の荒れこそ目立つものの痛さは変わらない米倉けんご、久々登場でわれわれの骨を抜きまくってくれる夏蜜柑と、豪華ラインナップは健在。美少女漫画のひとつの到達点なのは間違いないでしょう。
ステンシル 4月号 | エニックス | <漫画・単行本> | 476円 |
今回は待望のこがわみさきが登場。タイトルは「しあわせインベーダー」。主人公はラーメン屋の娘。進路決定を前にして、将来について悩む。ラーメン屋を継いでもいいし、進学してもいい。進路をめぐって友達とも衝突する。そんな彼女の前に現れるひとりの青年。かれは「金星からの侵略者だ」と名乗る…というものです。これは吃驚。緻密なプロット、意外な展開、強いドラマ性。「参った!」と叫んでしまったことですよ。連載…は無理かもしれませんが、せめて隔月で読んでみたいものです。季刊ペースってなんちゅうことですか。それから天野こずえ「AQUA」。水の星になった火星で、ゴンドラ漕ぎを目指す灯里。女の子が同性に抱く憧れと、「女性らしくかっこいい女性」を描いているところがいいですね。エロを前提としない女らしさというのもいいものです。後は「かっこいい男を描かない」ところがイカしてる南京ぐれ子、若々しい感性が好ましい霜月かよ子といったところが引っかかったところです。後は袴田めらの再登場を望むばかり。
ヤングキングアワーズ 4月号 | 少年画報社 | <漫画・雑誌> | 324円 |
堤芳貞の読み切り「キティホーク標本No.2」がいいですね。まあそりゃ随分と説明不足な作品ではあるんですが、アーティスティックな作品を作ろうとしているところを評価したいと思います。この読み切り枠を維持して欲しいですね。それから小野寺浩二「燃えろ!癒し男」。とうとうアワーズにも登場ですか。「癒し男」ってなんか怪人みたいでイヤですね…って実際ある意味ひどく「怪人」なんですが(根本敬的意味で)。島本和彦の引用が光る!あとはナイブズの憎しみが鮮明に描かれる「トライガン・マキシマム」、巫女さん戦隊結成をはかろうとしている(もちろん大賛成!!!!!!!)「朝霧の巫女」がよかったです。
まほろまてぃっく 3 | 中山文十郎/ぢたま某 | ワニブックス | <漫画・単行本> | 950円 |
宿敵・リューガの登場により、一気に切なさ満開の展開になっています。残された日々を悔いなく生きるために戦いに赴くまほろ。その直前の優との楽しげなデートがあるために、よりいっそう印象は強くなります。いままで少しずつ準備してきたものがここに来て開花したといえましょう。ところでカバーをめくると…。
狼の眼 | 岩原裕二 | 角川書店 | <漫画・単行本> | 560円 |
「地球美紗樹」が快調な岩原の初期作品集です。初期作品には全然目が届かなかったので、こういう形での刊行はうれしい限り。昭和初期を舞台とし、謎のエネルギーを巡って少女と軍が戦う「鉄の世紀」、蛇を飼ってる女の子が主人公の「蛇」、深いトラウマを負った男が銃の密輸組織に対して戦いを挑む「狼の眼」の3本が収録されてます。やっぱり絵の魅力が強いですね。「クーデルカ」でも指摘されたオハナシのたどたどしさは感じるところですが、「蛇」なんかは心理描写がしっかりしていて実に読ませるものがあります。またアメコミの影響が強い「狼の眼」も、アメコミの魅力を前提にして読むと、かなり引き込まれるものがあります。アメコミのダークさが実によく現れているのですね。のびのび自分の世界を展開していけば、オハナシもいいものになっていくと思います。今後も楽しみ。
ももえサイズ 1 | 結城心一 | シュベール出版 | <漫画・単行本> | 743円 |
まさかこの本が出るとはねえ…。感慨深いものがあります。悪魔の体を持つ女子高生・ももえ。ももえがカマで斬ったものの存在はこの世から消えてしまい、その存在はももえが肩代わりすることになります。簡単にいうとももえは斬ったものの能力を得て、別の存在になっていくのですね。ですからももえの肩書きも、そして作品のタイトルも、ものを斬るたびに増える訳です。無限に伸びていってハシラだけじゃ済まなくなるタイトルに大笑いです。これは明らかに編集のお手柄ですね。ハシラの「ものしり館」の文章のレベルの高さからも、それが伺えます。「超魔術合体ロボギンガイザー」(主人公は井上和彦で五分刈りの暑苦しい男)すか…。あ、ちなみにサイズって大きさのことじゃなくてScythe(死神とかが持ってるカマ)です。
Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:51 JST