あなただけではないよ
〜灰野敬二

 

 黒である。闇である。夜である。灰野敬二のまわりには、常に闇がまとわりついている。が、その闇は、人を飲み込む単なる暗黒ではなく、精神の暗い面でもない。かれは、人間の解消され得ない、解放され得ない心の動きをうたっているが、だからといって人を狂気や悪意に引き込むことはない。灰野敬二のまわりの闇は、浄化された闇だ。灰野敬二は、自らのうたによって、夜を清める闇の司祭だ。ジョン・ゾーンはかれを"Enigmatic Noise Troubador"と評している。

 灰野敬二は、存在そのものが誰とも似ていない。まずはその風貌。前髪を切り揃えた長髪に黒ずくめ。知っている人が見たら一目で分かり、一度見たら忘れることはない。その演奏。痙攣するようにギターをかき鳴らし、暗黒の中で金属の透明な響きを立てる姿は、独特の香気を放ち、観客の心に滑り込む。そして奏でる音楽も、作り出すCDも、他の存在とは大きく異なっている。

 灰野敬二のCDはほぼ例外なく黒い。ジャケットは、黒い紙の上に、黒いインクでタイトルが刷ってある。解説はなく、黒い紙が一枚入っているだけだ。CDそのものも黒でコーティングされ、インクの盛り上がりでようやくタイトルが判別できる。内部に潜むソフトも同様、黒い。闇の中に蠢く魂のうただからだ。

 現在灰野敬二は日本国内よりどうやら海外の方で受けているようだ。日本国内には灰野敬二を扱ったサイトがほとんどないのに対し、海外のサイトにはかなり充実した情報がある。灰野敬二のうたの独自性が評価された結果かもしれない。ここで例に挙げるサイトも、日本語でないものが多くなるが、ご容赦頂きたい。

 

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