平松伸二その1〜

一気に下まで行きたい


・「愛修羅 ザ レジェンド」全3巻 平松伸士(1996、集英社)
・「どす恋ジゴロ」(1)(1998、集英社)
・「どす恋ジゴロ」(2)(1999、集英社)
・「どす恋ジゴロ」(3)(2000、集英社)



愛修羅

・「愛修羅 ザ レジェンド」全3巻 平松伸士(1996、集英社)

「当HPに平松作品が入ってないのはおかしい。しかし個別の作品として済ますわけにはいかない作風をしているし……」と思い、「おすすめコーナー」に平松伸二ページをつくってまったく更新しないままはや1年が過ぎてしまった。
超有名な作品は置いておいて、比較的短いモノから紹介しよう……と考え本書をと考えていたら、3巻がなかなか見つからなかったのです。

新宿歌舞伎町で男性ストリッパーをやっている涅室修次は、妻の沙羅、息子のと幸せな生活をしていた。しかし、ある日謎の怪人に襲われ、愛も行方不明になってしまう。それには、沙羅の故郷・パンドラ国の内紛がからんでいた。沙羅はこの国の6番目の王女だったのだが、いろいろあっていられなくなり日本に来て修次と結婚したのだ。
パンドラ国は王族の圧制で民衆が苦しんでいた。国王・パパドロは、超能力者・ザイーラを救世主に仕立て上げ、民衆コントロールに利用するずるがしこい男であった。しかし、ザイーラは国に凶変が起こると予言。それは「アシュラ伝説」が現実になることを意味していた。
「アシュラ伝説」とは、かつての国王の6番目の娘の子供が王を倒す、という伝説である。この話を恐れたパパドロが、沙羅の子供・愛をさらったらしい。

修次は己を鍛え上げた拳法・涅室般若兵法を使い、沙羅とともに愛奪還を決意するのだった。

少し前まで「外国からどこかの小国にやってきた主人公が、そこのお家騒動に巻き込まれ、ヒーロー的な活躍をする」という冒険物語(むろんフィクション)がけっこうあったのだが、その荒唐無稽さからか最近はあまり見られないようだ。そういえば「カリオストロの城」もそのパターンだな。

本作は、おそらくフィリピンのマルコス大統領うんぬんかんぬんの情勢やインドのサイババなどの比較的最近の時事を下敷きにしてはいるものの、基本的には「外国から来た主人公がどこかの国で大暴れ」な話である。
とくに息子をさらわれた修次が「涅室般若兵法」の使い手であり、それを駆使してパンドラ国王直属暗殺組織の刺客と戦う序盤は、そのいい意味での荒唐無稽さと作者の劇画的リアルを追求した活劇描写とがマッチしてかなりの盛り上がりを見せる。
「平凡な青年が次第に自分の獣性に目覚めて……」みたいなまだるっこしい展開じゃない。偶然、もともと修次は「般若の面を被った謎の老人に、山奥で5年間幽閉され涅室般若兵法をたたき込まれた」のである。

次々とやってくるパンドラ国の刺客(山田風太郎忍法帖的な術を使う)や、敵か味方かわからない超能力者・ザイーラの謎、そして2歳に満たない愛が国王を滅ぼすという予言はどのようなかたちで成就されるのか……など、興味は尽きない一大伝奇ロマンとなっている。

修次の行動があくまでも家族愛を根底にしているところも、アクションものとしては珍しい。
(01.1209)



どす恋ジゴロ

・「どす恋ジゴロ」巻の壱 男芸者 1998年1月24日発行(集英社)

判型:B6
シリーズ:ヤングジャンプ・コミックスBJ
価格:530円(本体505円)
(収録作品)
第一話 男芸者
第二話 スーパー・スター
第三話 菩薩
第四話 関脇
第五話 横綱
・巻末読切 ジェラシー THE KILL

ビジネスジャンプ、スーパージャンプ掲載。一夜をともにした女性に艶を取り戻させ、運をもたらす(あげチン)と言われている関脇・恋吹雪。角界一のイイ男で、「男芸者」と悪口を言われながらも「それは最高の誉め言葉」と返す。ただ勝つだけを考えるのではなく、観客を魅了し、喜ばせてこその相撲だという信念を持つ。無類の女好きではあるが、ただの女好きではない。

そんな恋吹雪が、毎回悩める女性と一夜をともにしては、「艶」をさずけていくお話。

青年マンガでは、「あげチン」を持った男が「理想の女」を探して旅をして、行く先々の悩める美女とイイ仲になっては問題を解決し、去っていくというパターンが昔からある。基本的に脳天気で、私はこういう作品をキライではない。っていうか好き。
しかし、やはり展開はご都合主義が多いし、現代でコレをやるにはちょいと辛いかな、という気も正直する。すでにノスタルジーの範疇に入るのではないかと思ったりする。

ところが、そうしたパターンをまっちょうじきにやって、なおかつ新しさを盛り込んだ作品が本作なのだ。
少なくとも単行本第2巻までは、「理想の女」のような一種の聖女(処女)信仰もないし、恋吹雪は徹底してクールなヒーローだ。ジゴロとしての自分に達観している雰囲気があって、それがイイ。がっついていないというか。
それと、「恋吹雪が『女の艶を取り戻す』」というのも、何か神秘的な力があるわけではなく、女の悩みを取り除いてやるようなはからいをするので理にかなっている。

また、「旅から旅へ」といった自由な雰囲気とは逆のしきたりの世界である相撲界で、「女たらし」というイメージを持ち、「上を狙える『関脇』という地位が、客を楽しませるという意味でいちばん愛着がある」と断言する恋吹雪がどのように生きていくか、という興味も織り込まれ一見何でもない設定がマンガになるとまったく飽きないのだ。

……かといって、もともとぶっとんだ発想の多い作者の飛躍がないわけではない。1話完結の物語には、必ず以下のような「新作相撲甚句」が筆で書いたような文字で書かれるのである。

雪国生まれの
粘り腰
相撲道とは
芸なりと 定めて
土俵をつとめます
言い寄る女は数あれど
艶を失くした女こそ
己の芸が必要と
夜の土俵をつとめます
ア〜〜〜〜〜どす恋 どす恋
(新作相撲甚句作詞 呼出し 伸男 「第一話 男芸者」より)

なお、巻末読切の「ジェラシー THE KILL」がまたすごい。自分の妻を、100万円で一晩貸す、と言う奇妙な夫。そしてその美しい妻が凶悪な暴力団組長に買われて……という展開。これはちょっと読んでいただくしかない。
(00.1017、滑川)



・「どす恋ジゴロ」巻の弐 喧嘩相撲 1999年1月24日発行(集英社)
判型:B6
シリーズ:ヤングジャンプ・コミックスBJ
価格:530円(本体505円)
(収録作品)
・第六話 合掌捻り
・第七話 雪国の女
・第八話 スキャンダル
・第九話 喧嘩相撲
・第十話 世界最強の男
・巻末読切 女教師REIKO

ビジネスジャンプ、スーパージャンプ掲載。基本的には第1巻と変わらないが、やはり何でもない展開にうまさが光る。「第9話 喧嘩相撲」は、いじめられっ子の少年・清詩(きよし)に恋吹雪が相撲を教えてやり、しだいに強くなっていくというだけの話だが(当然、恋吹雪には清詩の美しい母親にちょっと下心もある)、恋吹雪と千代嵐(千代大海がモデルか……?)の対戦と、清詩といじめっ子との対戦が相似形をなして物語を盛り上げ大変に面白い。
「第10話 世界最強の男」では、あきらかにヒクソンがモデルのヒムゾン・グラシアスなる柔術家が登場、恋吹雪と対決することになる! 意外なキャラクターも登場し、パンクラス派の平松伸二の格闘技好きっぷりが冴える作品である。

巻末読切は、教育問題への平松氏のストレートな回答だと考える。基本的に強引な展開の中に、ほんの少しナイーヴなところが泣ける。
(00.1017、滑川)



・「どす恋ジゴロ」巻の参 悪童 2000年7月24日発行(集英社)

判型:B6
シリーズ:ヤングジャンプ・コミックスBJ
価格:505円+税

ビジネスジャンプ、スーパージャンプ掲載。やっぱりウマいよなぁ。ジャンプ系の人(……と一緒くたにしていいかどうかわからんが)は読みきりとか1話完結がみんな異常にウマいんだよな〜。読みやすくて、まとまってる。

この巻では、30年前に事故で死んだ力士・舞の華の恋人であった女性・梅千代が恋吹雪にかつての舞の華の面影を見、散り花を咲かせたい、と願う「第13話 散り花」かなあ。
舞の華の付き人だった恋吹雪の親方は、密かに梅千代に恋い焦がれていた。どうしても舞関のことを忘れられない梅千代の願いをかなえてやりたい、でも恋吹雪に好きだった女が抱かれるのはオモシロクない……というところがすっごいよく出ていた。

関係ないが、親方の奥さん(つまりおかみさん)、こういう人っているよなぁ。なんか妙にリアルなんだよな。それでいてチャーミングに描かれている。

後半は、若き日の、角界に入る前のツッパっていた頃の恋吹雪の物語。続きモノ。
(00.1028、滑川)

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