◆ 1999年5月上旬 ◆

5/1〜10
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5/10(月)……ロスロリ園

 吉本松明さんの同人誌「みるく☆きゃらめる」で幼女系のロリ漫画についての文章があったが、こういった系統の漫画について前から思っていることがある。
 月角やもりしげみたいなホンモノ系の人たちの作品はときに「ヤバい」といわれる。でもそういった幼女といたしてしまうような作品よりも、エロなしの作品のほうが本当はヤバいのではなかろうか。幼年向けの少女漫画雑誌などに掲載されている、ただただ愛くるしい作品。そういった作品は、今まで意識していなかった人たちを目覚めさせてしまう可能性がある。エロありの作品の場合、発行部数が少ないこともあって、わざわざ買い求めるような人はすでに目覚めている場合が多い。これはヘヴィスモーカーに葉巻を与える程度のものだから、その人に与える変化の度合いとしてはさほど大きなものではない。アルコール度数50%の酒に、60%の酒をブレンドするようなものだ。
 ところがエロなしの作品の場合、堂々と発行部数の多い雑誌に掲載されているし、書店でもよく目につく。なんの気なしに買った人がそれを読み、そして幼女の素晴らしさに目覚める。そんなことが想像できるのだがどんなもんだろう。例えばふくやまけいこ。例えば「カードキャプターさくら」。こういった作品は完成度が高いだけに、いとも簡単にそれまでは通常の暮らしを営んでいた人々を新しい世界に導いてしまいそうな、そんな気がしてならない。もちろんエロありの作品も免疫のない人には劇薬なのだが、間口の広さ・敷居の低さといった面で、人によってはエロなしの作品のほうが作用しやすいってことがあるんではないかと思うしだい。

【雑誌】エースネクスト 6月号 角川書店 B5平
 5月26日発売の少年エース7月号における貞本義行「新世紀エヴァンゲリオン」復活に合わせて、今まで少年エースに掲載された全話収録(単行本未収録分含む)の別冊総集編が5月21日に発売されるらしい。B5版オフセット印刷で780ページ。しかも各界著名人によるイラストなどもつくらしい。こりゃこれまで単行本を揃えていた人にはたまらないお知らせですな。俺は実は単行本は買ってなかったので、これを機会に漫画版のほうを通し読みしちゃおっと。
 大野哲也「天使になるもんっ!」。たいへんにダメダメである。けなしてるわけではなく、むしろ誉めている。高度に煮詰められた、オタク的にトロトロで甘ったるいカットの連続に腰が砕けるやら骨が抜かれるやら。小本田絵舞「あしはまファミリー計画」が読切で掲載。4コマ形式の、ちょっとだけHな味付けを施した、女の子ばかりで一人だけ男というヌルいほのぼのファミリー漫画。適度なサービス、堅実なお話。キッチリしたいいお仕事。石田敦子「からくり変化あかりミックス!」は今号も面白かった。とてもかわいい絵柄のわりに、扱っているテーマは意外に深く、癒し効果抜群。押しつけがましくないあたりがとてもいい。単行本もいよいよ7月1日発売決定。石田敦子としては初コミックスなんだそうな。作:大塚英志+画:森美夏「木島日記」。毎度妖しく怪しく美しい。線がとてもかっこよく、絵を眺めているだけで作品世界に浸れる。

【雑誌】ヤングマガジン 5/24 No.23 講談社 B5中
 平本アキラ「アゴなしゲンとオレ物語」。今回はゲンさんと、彼を敵視する忍犬のポチ(ジン)が公園で醜い争いを繰り広げる。毎度ゲンさんは能無しだし、やることは低レベル。最低の人間ぶりをサッパリと楽しめてアクの強い楽しさ。江川達也「THE LAST MAN」はいつのまにやら連載50回めに突入。何やらまんま「デビルマン」な展開で、たいへんなことになっている。第40回ちばてつや賞準大賞受賞作、ター「此処ヘ堕チテイク」。他人より背がデカいというだけで、周囲の人から違う目で見られている女の子が、同じ学校のチンピラ野郎とケンカに。そんななか、クラスでは目立たず本ばかり読んでいた、孤独な雰囲気をたたえた男・河野と近づいたのをキッカケに、彼女は自分の新たな可能性に気がついていくのだが……といったお話。作品自体の雰囲気は悪くないし、描写もダイナミックでそれなりだが、物語の展開はいまいち舌足らずで説得力に欠けるように思えた。とくにラストは唐突。印象的なコマとかもけっこうあるので、長所を保ちつつ整合性を高めていってくれるともっと面白い作品を書けるかも、という感じ。

【雑誌】ヤングコミック 6月号 少年画報社 B5中
 克・亜樹も描いているコンビニ系エロ漫画雑誌に、山川直人が初登場。タイトルは「ナルミさん愛してる」。しかも連載である。まじめでちょっと優しい一人暮らしの女性、ナルミさんの日常をぬいぐるみのドミノが見つめるというお話。わりと安いエロ系の作品が多いこの雑誌の中では、ほのぼの暖くノスタルジックでもある山川直人の作品は著しく浮いている。でもどんな雑誌であれ、山川直人の作品を読める機会が増えるというのはうれしいのであった。

【雑誌】ヤングキング 6/7 No.11 少年画報社 B5中
 佐野タカシ「イケてる2人」。久しぶりに佐次と小泉が。幸せトロトロ。有村しのぶ「HOPs」も、くっつきそうでなかなか最後まで行かなかった主人公のあずみとバクが結ばれそうな感じ。ライトでちょっとH。アツアツである。そして今号のヤングキングの目玉は、久々登場、吉本蜂矢「デビューマン」。今回は小学校時代のイジメっ子にとっつかまった千代彦をトビが助けるというお話なのだが、展開はいつもながらにステキにマヌケでちょっと下品で、ドライブ感のあるテンポのいいギャグの連続がたまらなく面白い。最後のページに「本格連載準備中!!近日登場!?」とあるが、いつの日になるのやら。

【雑誌】ビッグコミックスピリッツ 5/24 No.23 小学館 B5中
 なんといっても一番の話題は巻頭カラー、山本直樹の4年ぶり週刊連載「ビリーバーズ」であろう。無人島で、何かの新興宗教らしき教えに乗っ取り修行を続ける、二人の男と一人の女。やけにもったいぶって取り繕った言葉つきで、お互いを励まし合いながら暮らす3人だが、その奥底には何やら妄念も見え隠れして……といった感じの出だし。正直なところどんな話になるかはまだ全然分からないが、面白くなりそうな雰囲気。わくわく。中川いさみ「大人袋」。大人・953「歌わない」の3コマめで「現場カントクさん現場カントクさんたくさんかぶったヘルメット〜2つ私にくださいな〜」というセリフがあるのだが、これを頭の中で「おおブレネリ」の節で歌ってしまいどうもうまく音が合わないなと思ったが、よく考えてみると「ももたろう」の節で歌えばいいのだな、と気づく。だからなんだといわれても別に困らない。作:坂田信弘+画:中原裕「奈緒子」。いよいよレースは最終局面。一つ一つ、想いを積み重ねて雄介に託していくさまに鳥肌が立つ。

【雑誌】週刊少年ジャンプ 5/24 No.24 集英社 B5平
 尾田栄一郎「ONE PIECE」。今回はそれまで魚人から逃げ回っていたウソップが一転男を見せる。きちんと計算されてはいるんだろうけど、それだけの効果はきちんと出す、熱く勢いのあるネームのセンスは秀逸だ。桂正和「I''s」。やはり扉のパンチラであろう。本編もたいへんに甘がゆく、俺の心の初恋部位を刺激してやまない。作:真倉翔+画:岡野剛「地獄先生ぬ〜べ〜」は今回で最終回。このホームページではあんまり触れることは多くなかったが、コミカルでときに泣かせ、それからわりとあざとくHであったところなど、けっこう楽しんではいたのだ。ご苦労さま。


5/9(日)……時間芸術

 本日もサッカーJFL、横浜FCの試合を観戦。今日の相手は横河電機。4-0で快勝(詳しくはこちら)。3試合消化して2勝1分で2位(全9チーム)に浮上したが内容的にはチームで勝っているというよりは、個々の選手の力で勝っているという感じ。相変わらず得点はセットプレー中心で、流れの中で相手を崩す形はできていない。とはいえ、3試合消化してだいぶメンバー間の連携はフィットしてきた感はある。それにしてもここのところ毎週通っていたので、アルフィー作のダサいサポーターソング(歌詞はこちら)を覚えてしまいそうなのがちょっとイヤ。

 以下5月4日のコミティア時に兄が買った分の同人誌。

【同人誌】「みるく☆きゃらめる」1号/2号 <みるく☆きゃらめる>
 Ionisationの吉本松明先生と、その相方である石川ひでゆきによる同人誌。1号は馬鹿漫画特集で2号はロリ漫画。下らぬことに対して実に真剣に取り組み、自分の中で設問をきっちり設定して資料を引用しつつ力の入った論理を展開していく、松明先生のお仕事ぶりに圧倒される。その語り口の真面目さと扱っているものの柔らかさ、さらに石川ひでゆきの確信犯的な美少女絵とのステキな調和。いや、これはホントに大したもの。またその文章は、町田ひらくや唐沢なをきといった題材を取り上げていながらも、俺の書くようなものと違って実に逃げがない。松明先生は一人の見事な男である。
 ちなみに今日のタイトルは「TIME ARTS」ってことで「タイマーツ」ということで。

【同人誌】「「とらつぐみ」 藤ノ木いらか/百井葉月/午砲はるき <Hee-Haw>
【同人誌】「SHORT30」 藤ノ木いらか/百井葉月/午砲はるき/むつきかや
 どのメンバーもレベルが高く、力のあるユニットという印象。「SHORT30」のほうは、ギャグありファンタジーありの、ショート30連発。「とらつぐみ」は変身モノの短編3本を集めた作品集。「SHORT30」のほうはそれぞれにセンスは感じるが、一編一編が短すぎて食い足りず。「とらつぐみ」のほうはその点、ある程度のページ数なので読みごたえはあり。どの作品も読み口はあっさりと上品で、絵もそれぞれの味わいがあってうまい。ただ、この2冊を読む限りでは良くも悪くも上品に収まっちゃっているような気はする。あと一歩ずつ前に進むと、かなりイケるとは思う。主要メンバー3人の中では、藤ノ木いらかが一番絵柄が淡白で好み。

【同人誌】「シャーウッドの森」「Tableau3」 志賀彰 <憂貧局>
 俺たちが到着していた時点ではすでに完売だったのだけど、志賀さんがキープしといて下さって大感謝。これだけでもこのホームページを作っていた甲斐があったというもの。
 直接知り合えたからということはまったく別にして、志賀彰の力量はかなり高いレベルにある。続きモノである「Tableau」は冬目景ライクな青春モノ。といってもタダのマネで終わっているわけではなく、きちんと自分のストーリーを展開していてとてもいい。ページ数が多いため(今回は漫画部分だけで58ページ)、読みごたえもバッチリ。ベタの部分の黒々としたツヤがたいへん気持ち良く、背景の描き込みや構図取りも効果的。それからコピー誌の「シャーウッドの森」もこれまたいい。荒涼とした大地で老人と二人で暮らす少女。彼女は不可思議な金属の柱(「木」と呼ばれる)に、友達として語りかけるが……といったお話。そのバックグラウンドにあるお話は語られないので、その点では読み足りない部分もあるのだが、この短さでも描かれているシーンやキャラクターは印象的。読み足りない部分は今後また再挑戦していただくということで……。それにしてもこの2冊合わせて300円というのはかなり安いのではないかと。

【同人誌】「学乱獣欲」Vol.6 藤島隆多 <百貫堂>
 百貫デブなヘヴィ級の男達の、パワフルで汁あふれるハードコアホモ漫画。サムソンに投稿したりもしている人らしい。ハードで強烈ではある。ただ、前にも2冊くらい読んでるしちょっと飽きた。同じハードコアホモでも、山田参助は飽きないのだが。山田参助は多分に観念的であるが、こちらは肉弾系であるのもその理由かもしれない。

【同人誌】「マイブルーヘブン」「プッチィス」 池部ハナ子
「マイブルーヘブン」は「あ!ホクサイ」(辰巳出版)に安寿はなこ名義で掲載された3作品と、望月かなとの二人誌に収録した作品を再録してまとめたもの。女性ならではの柔らかい感性で描かれた、ちょっとHな漫画はみずみずしくて温かくて、ほっと和む。胸もお尻も大きくはないが、身体の線が柔らかくて滑らかで魅力的。「プッチィス」は三和出版の動物漫画雑誌「コミックプッチィ」に掲載されたもの。三和出版だけに獣姦モノだ……というのはウソである。動物が自然に登場人物たちの生活にからみ、重要な役割を果たしていくほのぼのとした漫画という感じ。まあ手堅い。
 今回は新作はなかった池部ハナ子だけど、ここらへんの作品を今まで読み逃していた人にとってはありがたい再録ともいえる。

【同人誌】「理数館情報誌 ケルティックラメンツ補遺」 原田みどり
 中世アイルランドの修道士のぼやきを下敷きに、換骨奪胎して自らのお話にしてしまった掌編。しっとりとファンタジックな絵柄がなかなかにお見事。ケルト的な雰囲気は出ている……ような気がする。ケルト人の知り合いはいないので本当にケルト的なのかはよく分からないのだが。肉太なペンのタッチに好感する。


5/8(土)……七つの輪は炭火を治める人の子に

 来年はオリンピック。五輪イヤーなわけだが、しばた家的にはそれに先駆けて七輪イヤーが到来している。つまり、毎年暖をとろうとする家族連れ等を一酸化炭素中毒で死に至らしめている悪魔の道具、七輪を購入したというわけだ。そして炭。ぷりぷり県には香水のような香りを発するおしゃれ炭という炭があるのだが、それとはまったく関係なく炭火で肉や魚をあぶるのである。魚や肉から脂がじうじうとにじみでて炭の上に垂れて、ちゅうんと音を立てた日には、もうたまらないとか思いませんか。そんなわけで今日もいわしだの鶏肉だのをあぶって夕食のおかずにしたわけですばい。これからはこの魔法的アイテム七輪を車に積んで、河原にでも出かけて肉や魚や野菜などを焼いてもしゃもしゃと食べまくろうかなあという感じ。ただ問題は、そういう良い感じにスミビズムな料理を作ると、自然とビールを呑みたくなってしまう点。そんなわけで、車が好きで、なおかつ酒を呑まないおともだち募集。僕たちと一緒に、炭火焼的料理を食べながら漫画の話でもしませんか?

【雑誌】FEEL YOUNG 6月号 祥伝社 B5平
 内田春菊「目を閉じて抱いて」が連載再開。とはいっても、ずいぶん休載期間が長かったようで、それまでのお話が俺には全然分からない。これっていつ以来の掲載なんだろうか。少なくとも俺がFEEL YOUNGを読み始めてからは初の掲載だと思うのだけど(ちなみに読み始めたのは昨年の3月くらい)。三原ミツカズ「ハッピー・ファミリー」は、ちょっと家庭の危機だったのだが、いちおう丸く収まりこのエピソードは終了。
 次号から南Q太のシリーズ連載「恋愛物語」が始まるそうでけっこう楽しみ。

【雑誌】YOUNG YOU 6月号 集英社 B5平
 谷地恵美子「明日の王様」。有がTVドラマのシナリオを完成させるために奔走する。絵柄はスマートだけど、なかなかど根性でポジティブ。実際の世の中はこのように簡単には行かないのであろうが、お話にまっすぐな面白さがあって素直に楽しめる。武内直子「武内直子姫と富樫義博王子の結婚ぱ〜んち!!」。相変わらず腐っておりませり。姫と王子のアツアツぶりが充満していて、ページ数のわりに読み進めるのにたいへん時間がかかる。榛野なな恵「Papa told me」。相変わらず高品質ではあるのだが、最近知世の小賢しさがどうも鼻についてならぬ。こんな女の子が実際にいたら、可愛いとは思えどさぞかしムカつくことだろうなあ。

【単行本】「花粉航海」 小野塚カホリ 宝島社 A5
 買おうかなーどっしよっかなーと思っていた単行本なのだが、この前の文科系Webサイトオフでも話が盛んに出てたことだし、迷ったら買いだなあとか思って購入しておく。彼ができてセックスをするようになってから日も浅い女子高生が、お隣の家に住む小学6年生の男の子を誘惑し、その身体を自由に弄ぶ表題作「花粉航海」がいい。ヒロインのおねーちゃんは、年上の男に対しては受け身であり、年下の少年には攻め手である。その立場の違いによる豹変がなかなか興味深い。華やかで格好のいい描画、コンスタントに読ませるストーリーなど、小野塚カホリはなかなかいい仕事しているなあという感じ。
 余談ではあるが、この「花粉航海」だが、男と女を逆にすると途端に「小学6年生」と書けなくなったりするんだから不思議なものである。別にそういう規則があるってわけではないんだろうけど、出版社側が「○学生」などと表記を直して自主規制してしまうのだ。みかりんの作品とか見るとそこらへんはよく分かる。難を避けるためにおおっぴらに書くのを控えているのだけど、そういうのってつまんないことだよなあとか思う。

【単行本】「ストレンジラブ」 田中ユキ 講談社 A5
 マニア筋待望の田中ユキ初単行本である。Uppersなどで、短編をメインに作品を発表し続けてきた人で、繊細で美しく、またなまめかしさを含んだ描線がとても魅力的。思春期の男女の、不安定で移ろいやすい心理の描写が絶品。とくに巻頭の「白い恋人」は素晴らしく完成度が高い。収録作品の詳しいストーリー等は、上記でリンクを張っておいた兄貴のページを読んでいただければと思うが、この瑞々しい才能の萌芽はぜひぜひ押さえておいてもらいたい。なお、Uppersでは次号とその次の号で、前後編の作品が掲載されるらしい。この単行本を読んで心にひっかかってしまったアナタはきっと読むべきである。

【単行本】「イッパツ危機娘」3巻 原田重光 講談社 B6
 今回も危機娘たちは加速度的に、普通ではあり得ないような強引な危機に陥り続け、間一髪で脱出し続ける。俺としては1巻のクーニャン編のほうが好きだったのだが(とくに脇役キャラが)、2巻以降は状況の危機度はアップしているがギャグ的には少し滑り気味かなという気がしないでもない。端々の馬鹿らしさはやはり健在だし、その強引さに惹かれるものはあるのだけど。

【単行本】「フローズン」1巻 山崎さやか 講談社 B6
「マイナス」等の作者、沖さやかが山崎さやかと名を変え、講談社に活躍の舞台を移してから初の単行本。それまでずっとアメリカで暮らしていた女の子、相ヶ瀬桃花が、両親の離婚のゴタゴタから逃れるために日本の祖父の家で暮らすことにする。学校も日本の高校に移った桃花だったが、何ごとにもあいまいでハッキリいわない周りの人々に怒りを募らせていく。気が強いけど、感情が昂まりすぎると一転号泣する、桃花のストレートで激しいキャラクターがかっこいい。何ごともズバズバと切り込んでいく言動には胸がすくものがある。「マイナス」ほどにダークではなく、根っ子の部分はポジティブな感じのする作品。もっと各キャラクターの業を執拗に掘り下げて行ってくれるとうれしいけど、それは作者のほうがしんどいかもしれぬ。

【単行本】「おやつ」2巻 おおひなたごう 秋田書店 新書判
 週刊少年チャンピオン連載作品。徹底的にクールなスットボけぶりが素晴らしい。とくにこの巻では、高校野球の決勝が行われているグラウンド内で、野球を思わぬ方向に利用して争われる謎の競技、パワーホライズンが出色の出来。1巻よりも2巻のほうが、かなり面白くなっている。一見地味だが、そのギャグスタイルはかなり斬新。いずれこの作品については詳しく語るつもり。


5/7(金)……OA春泥

【雑誌】COLORFUL萬福星 Vol.5 ビブロス B5平
 けろりんの4色カラー漫画「Body Language2」が幸せな雰囲気で良い。4ページと短いながら、恋人たちのイチャイチャぶりが十分に濃厚で微笑ましい。町野変丸「SCSI」。性器がSCSIのコネクタであり、ウルトラだのワイドだので合ったり合わなかったりする漫画。ちなみにSCSIは「ステキなちょーセックスインターフェイス」らしい。町野変丸がこういうネタを漫画にするとは思わなかったのでちょっと意外。それにしても町野変丸のマシンスペック、メモリ1000MBというのはなかなかにスゴイぞ。TAGRO「TWO PIECE」。この人のCGは、CGなのにモノクロで紙に印刷しても自然な感じなのがいい。グラデとかが妙にテラテラしてなくて。今回は、お腹の部分がなくて上半身と下半身が分離している女の子の話。普通だったら絶対できないような体位でやったりしてて楽しい。う〜ん、セクスパレイト。粟岳高弘「隣星1.3パーセク」は次回で最終回とのこと。

【単行本】「カケル」8巻 竹下堅次朗 小学館 B6
 主人公カケルが、恋人・葵が別の男に強姦された過去を知り苦悩する8巻。かなり重苦しい雰囲気ではあるが、その中でお金持ちのお嬢さまでアイドルである女王(鈴木)玲子がかわいくて心が和む感じ。あと、竹下堅次朗は女の子を描くのがうまい。何やらみずみずしさがあってよろしい。

【単行本】「陰獣」 作:江戸川乱歩+画:バロン吉元+監修:小池一夫 B6
 江戸川乱歩「陰獣」を漫画化した作品。なんだか関わっている人間が揃いも揃って濃厚。ただ、出来栄えとしては思ったより大人しい印象。個人的には「芋虫」あたりを漫画化してほしいところだけど。


5/6(木)……山田カバチ

 モーニングで6月26日創刊のマガジンZの予告を見たのだが、永野のりこのかいじゅう少女マンガ「STAND☆BYみ〜ちぇ!!」というラヴリーげな作品が掲載されるらしい。いちおう立ち読んでみて、気に入ったら買うことにしよう。このほか、垣野内成美、長谷川裕一、熊倉裕一(「王ドロボウJING」改め「KING of BANDIT JING」)の名前も。さらにはまたしてもデビルマンもの、作:永井豪+画:衣谷遊「AMON デビルマン黙示録」というのも開始されるとか。今日も今日とてデビルマン、明日もどこかでデビルマン。

 それはさておき、世の中では「ヒトは皆死ぬ」とかいいますな。でもアレってホントにホントなのだろうか。ひょっとしたらほかのヒトは全員死ぬけど俺だけは不死だったりするかもしらんし、人知れず不老長寿だったりする方もこの世にはおられるかもしれない。そもそも自分が本当にヒトであるかどうか。もしかしたら誰かに作られた恐ろしく精巧なロボットなのかもしれないし、漫画の登場人物だったり、実はK9だったりするのかもしれない。可能性としては非常に小さいとは思うのだけどゼロではないはずだ。なんかそういう可能性がチラリとも脳裏をよぎらない、考えようともしないお方というのは、あんまり好きではないけど長生きしそうな気はしなくもない。

【雑誌】週刊少年チャンピオン 5/20 No.24 秋田書店 B5平
 能田達規「おまかせ!ピース電器店」は、仕事に対する無責任で自分のマンガに対する異様なこだわりを持つ漫画家、安田セイタロにケンタローがなんとかして漫画を描かせようとする。モデルがおそらく安井誠太郎なわけだが、あまりにも生々しくっていやもうたいへんである。安井誠太郎の漫画は読みたいけど、この調子じゃあしばらくは掲載されないだろうなあ。西条真二「鉄鍋のジャン!」。今回は何はともあれ、キリコの乳である。とくに意味もなく、そしてさりげなく乳だけのコマが差し挟まれるあたりは狙ってるなという感じ。ちなみに次の課題はダチョウ。生きたまま唐揚げ?それとも丸焼き?

【雑誌】ヤングマガジンUppers 5/19 No.10 講談社 B5中
 それはそうと早売りの本屋さんでは田中ユキの単行本出てましたぜ。
 サガノヘルマー「SATELLITEぢゅにゃ」は最終回だが、なんだかどうにも不完全燃焼。ちと残念。咲香里「春よ、来い」はなかなか手堅くまとまっている。華やかな絵柄も好感度が高いし。抜けのいいペンタッチが気持ちいい。泉谷圭吾「HEAT UP!!」は第2回。売り文句が「Uppersを震撼させた不気味新連載!!」。そんなに不気味ではないが、無駄に狙いまくったエロチックなビーチバレーシーンが、あざとくて馬鹿馬鹿しく楽しい。

【雑誌】ヤングジャンプ 5/20 No.23 集英社 B5中
 奥浩哉「ZERO ONE」は第2回め。主人公の少年に興味を持つ女の子も出てきて楽しみな展開。そして奥浩哉は、5月19日に未掲載&未発表、それから無修正原稿(どんなんだろ)を完全掲載した短編集完全版「赤」「黒」の2冊が同時発売されるらしい。これはかなりうれしいニュースである。山口譲司「BOiNG」。ぼいんなる女神が街に出て、はるかなる乳房の力でいろいろと街に福をもたらす。なかなかでかくて形が良くて柔らかそうで、ええぼいん描きますな。ビバボイン! 作:夢枕獏+画:くつぎけんいち+脚本:生田正「怪男児」。好きだった女の子がほかの男の手に落ちていることを知った、怪男児、あやめの武骨かつうつろな表情がなんか馬鹿馬鹿しくて楽しかった。あとヤンジャン創刊20周年企画として、創刊号に掲載された手塚治虫「どついたれ」の第一回めを復刻掲載。さすがにキャラクターも立ってるし今でも読まされるのだが、第一話だけ読ませてあとは単行本「手塚治虫名作集」でお楽しみくださいってところが、かなりコンチキショウ的。

【雑誌】モーニング 5/20 No.23 講談社 B5中
 巻頭カラーは、作:田島隆+画:東風孝広+監修:青木雄二「カバチタレ!」。絵もお話も「ナニワ金融道」的。若干絵は青木雄二御大よりもスッキリしているものの、まあ例によって例のごとき青木雄二テイスト。「部長島耕作」などに続いて、これまた一つのリバイバルものといえる。ヒラマツ・ミノル「ヨリが跳ぶ」。ヨリがヒロコのレベルに迫るまでに急成長。でもさらに上を行かなければヒロコは超えられないのだから、これはまだ発展途上なわけだ。ヒロコとの対決、第3ラウンドが楽しみ。吉田基已「水と銀」が再登場。読切で一挙62ページ。ペンでガリガリ描き込まれて、なおかつ爽やかでどこか艶のある絵柄はマニア筋注目の的。前回の主人公だった女たらしな三枚目系の森と別れた、後輩の華海と、彼女に密かに想いを寄せていた森の友達の青木が今回の主役。身体から始まった二人だが、それだけにお互いに引けめを感じてしまう二人の紆余曲折が描かれる。青春の青臭さとなまめかしくも痛々しいエロシーンなど、描写に揺るぎない力があってとてもよろしい感じである。新人好き、読切好きな人はチェック必須。

【雑誌】ヤングキングダム 6/4 No.6 少年画報社 B5中
 佐野タカシ「イケてる刑事」。毎度見事に腐り切っていて、見事というほかない。オタク的トロトロさ加減でいえば、「うさぎちゃんでCue!」とかのほうが魂腐敗度が高いが、ストレートなエロ度でいえば「イケてる刑事」に軍配があがる。吉田聡「DUMPERS」は今回で最終回だが、ちょっと中途半端かな。大石まさる「みずいろ」は2色カラー。ヒロインの川上さんが、発育がたいへんによろしくダイナマイツで眼福。大石まさるは背景の描写とかも美しいけど、意外にエロチックなところがまたいい。
 次回からはきくち正太が新連載を始めるらしい。タイトルは「Da-You!」。一つ楽しみが増えるかな。

【雑誌】東京H(少年天使6月増刊号) 一水社 B5平
 実用重視的隔月エロ漫画雑誌。沙村広明の2ページ鬼畜系イラスト「人でなしの恋」が掲載されているのもウリの一つ。
 まずは友永和「パイ▽パイ」(▽はハートマークの代用)。母乳の出る人妻と少年二人がプール脇でくんずほぐれつ。ステロタイプで今となっては古くなりつつある作風なのだが、濃厚なエロ魂は健在。デカくて柔らかそうな乳、飛び出る乳首、豊富な液体。昔っからいやらしくて俺は大好きな実用系作家の一人である。玉置勉強「天文部」。メジャー誌も経験して、ますます洗練されてきた。何気ない日常的な部分の描写もうまい。ゼロの者「とりとめのないハナシ」。乳の描き方が独特。よくあるパンパンな釣り鐘型ではなく、いちごのようにちょっといびつで指がぐにょりとめり込みそうな柔らかな質感が特徴で、なんだかとても生々しい。美女木ジャンクション「空元気 愛▽」(これも▽はハートマークの代用)。なんか今回はやけにちんちんのエラの張りっぷりが邪悪でいい。とくに扉の次のページあたり。ちんちんといえば美樹カズ「ROOM」のも、血管の浮き出し方がハンパでない。今にもプチリと切れてしまいそうな感じ。


5/5(水)……ハツコイのこった

 昨日のオフでもはた迷惑ながら力説してしまったことだが、最近初恋がしたくてたまらない。俺の心を甘酸っぱく燃え上がらせる、そんな初恋を。今必要なのは愛ではなく恋だと思うの!しかも初。甘い恋愛に身を焦がし、胸をきゅんきゅんいわせてみたいの。ラブレター!交換日記!そしてA!(キスではなくあくまでA)むふー。ああん、若いうちに初恋を浪費したりせず、大事にとっておけばよかった……。

 まあそんなわけでコミティアで買った本の感想第2弾。俺の買った分はこれにて完了。兄購入分は後日書く。今回のコミティアでは時節柄、1999年の7月というノストラダムスの予言する終末を意識した作品がぽちぽちと見られたが(なんといっても1999年7月以前に開催される東京コミティアはこれが最後だし)、次回の東京コミティアは8月30日。さてどうなる。2000年問題が顕在化するのももうすぐだが、8000年後くらいには「10000年問題」が浮上することを僕たちは忘れてはならないと思うのだ。

【同人誌】「PARKING!5」 <PARKING!>
 前回のコミティアでは落ちてしまったPARKINGだが、今回は無事発行。最終号である。漫画は山本昌幸、山名沢湖、山川黄予美、南研一、TAGRO、虹野末路。いわゆる「評論班」と呼ばれる文章組は、小田中、ムネカタアキマサ、本田健、ついでに俺(ここらへん実際に知り合いの方も多いのだけど評モードなので敬称は略)。
 漫画のほうは山本昌幸、TAGROの作品がページ数も多くて読みごたえあり。とくに今回はTAGRO「LIVEWELL」がすごくいい出来。自殺願望者の彼女と一緒に暮らす男。彼女は医者のカウンセリング直後は躁状態になり、あとはしだいに鬱になるという一週間を繰り返す。「殺してくれ」という彼女。その言葉に何度でも傷つき続ける男。TAGROの絵柄はカッチリとしてコミカルだが、魂を削るかのごとき叫びは痛々しく響く。泣かせやがって……。パイクなどで描いている作品と違って、今回はクッキリとした手描きと思われる描線。こっちのほうが俺としては好みである。南研一の一連の漫画は、清き追憶を感じさせる作風。短いながらも読後感はしめやかで良い。
 文章組は何やらみんな一発狙っている感じ。やりますなあ。思いつきの一発ネタ(小田原ドラゴン「おやすみなさい。」に着想を得た漫画に登場する女の子ランキング)でお茶を濁した自分が恥ずかしくもあり。ほかの人のと比べてみて、俺って創作は向いてないなあと痛感。PARKING!みたいなテーマ・分量フリーのものより、「これについて何行書いてー」というレビュー系のほうが性に合っているような気がする。

【同人誌】「MATE3」「EVERY CAT IS GOOD MATE」「nove4〜7」 小野夏芽 <KENNEDY U.S.M.>
「MATE3」と「EVERY CAT IS GOOD MATE」は、オーストラリアンフットボールの選手たちを題材にして、彼らの日常を描く作品で、こちらは新刊。「nove4〜7」は、仲の良いイタリアの青年たちのグループの青春を描いた物語。小野夏芽の作品を読んでスゴイと思うのは、キャラクターたちがその作品世界の中でちゃんと生きているということだ。既製の漫画でしばしば見られる、「行くぞ」といえば「おう」というような、敵が出てきたらとりあえず闘っておくというような、条件反射的に行動しているかのごときキャラクターたちとは一線を画す。「MATE」シリーズはオーストラリアンフットボールの選手たちを題材にとっているが、彼らはけしてフットボールをさせるためだけに作られたキャラクターなどではない。家族もいれば恋人もいる、偉大なプレイヤーに憧れたりもする。怒りもすれば笑いもするし、ときには真剣に悩む。物語の必要上ポッと出てきたわけでなく、一人ひとりがそれぞれに思考し、背景を持っているのである。
 線は少ないのだけど実に無駄がなく洗練された、真性イタリアンな絵柄はどこで獲得したのか不思議になるほど。イキでシャレててカッコイイ。人間ドラマも作画も、非常に高いレベルで完成している逸品。いや、大したもんである。

【同人誌】「ILLEGAL STYLE Version 1.01」 山本マサユキ <山本内燃機出版>
 ヒロインの名前は「PARKING!5」掲載作品と一緒。どちらかといえば、PARKING!よりこっちの作品のほうが出来が良かったと思う。男と二人で暮らす、ちょっと記憶などが定かでなさげな女性イチコ。男は彼女を愛しているのだが、なぜか彼女の行動を制約しようとする。とくに文章を書くことを強く禁ずるのだが、それは文章を書くということが彼女の記憶を覚醒させてしまうキーになっているからであり、今の彼女との生活を保ちたいと願う男にとってはしてほしくないことだったのだ。
 今回は絵柄的にやけに黒田硫黄っぽいなと思ったら、ちょうど山本マサユキ自身が「大日本天狗党絵詞」を読んだ後で影響を受けた旨を後書きで語っていた。「天狗党」でシノブが素性を隠して、何も知らない男と貧しいながらも小さい幸せな生活を築き上げるくだりをイメージしていたとのこと。山本マサユキにしては血も出ないし、ラストもハッピーだけれど、作品的には面白く完成していた。ラフな鉛筆タッチも味があってとてもいい雰囲気。素直に居心地がよろしく面白かった。いいわこれ。

【同人誌】「バンパイヤ」1〜2 果竜 <竜の子太郎>
 キラキラと少女チックでかわいい絵柄が特徴。成績優秀、運動神経良し、声楽の成績もトップ、負けず嫌いの優等生の女の子・みやこの前に、それ以上に才能を持った少女・千代子が現れる。千代子はみやこが大嫌いな、ヘビ的なしつこさを持った先生・松尾の妹だった。何をとっても自分より上の千代子に最初みやこは嫉妬するが、ふとしたきっかけで二人は肉体関係を持つようになる。そんな千代子は、実は兄により束縛されていてその網から逃れようともがいているのだが……という感じのお話で、以下は続刊。
 上品で少しだけエロチックで、端整なよくできた世界。背景とかは省略が多いけど、そういったディテールもしっかり描き込めばそのまんま商業誌に載っていてもおかしくないレベル。

【同人誌】「すこやかなまんが」1+2/3〜5 大西彩 <すこやかな大西>
 今回の新刊でシリーズ最終巻なのだそうだ。伊藤潤二にちと近めの絵柄で、おどろおどろしくねじ曲がった奇想あふれる世界を描く。小人が乗っかっていて、それを汁に沈めたり麺で首を締めたりして、イジメの気分良さとおいしさを同時に味わえるラーメンをだとか、なんとも奇妙なアイテムがてんこ盛り。おとろしげな絵柄だけど、読み口は軽く、ギャグっぽいところもある。なかなか楽しいセンスをしていて良かった。

【同人誌】「創 KIZ-6」 <ART FACTORY>
 1997年発行。執筆者は漫画が山川直人、やまかわきよみ、ハルノ宵子、BELNE、大黒真希、驢馬。文章で山下晴子、中村公彦、岩田次夫。力のある人たちが揃っているので読みごたえあり。なかでも印象に残ったのが山川夫妻の作品。山川直人「匿名希望」は、気がつくと知らないパーティ会場の前に立っていて、だまされまいとするあまりパーティのすべての楽しみを放棄してしまう男のお話。黒々としたゴリゴリのカケアミがやはり好き。やまかわきよみ「最後のラヴレター」は、自分の中にいる理想の人に対して送るラヴレターのお話。やまかわきよみのいまやちと古いかもしれないけど、完成度の高いキラキラした少女漫画絵は、俺はかなり好き。絵もお話も骨格がキッチリしているのがたいへんにいい感じであるな、と。

【同人誌】「Plastic Earth'99」 <まるちぷるCAFE>
 執筆者は紅茶羊羹、おがわさとし、山名沢湖、高川ヨ志ノリ、なかせよしみ、星菜見栄春、果竜、交野佳奈。1999年にやってくるという世界の終わりをテーマにし、「商業誌に太刀打ちできる本」を目指して作られた本。面白いのは商業誌に太刀打ちできるのかを実験するために、「この本の版権売ります」と巻末で訴えていること。実際のところ、こういう本にはこういう本の良さがあると思うし、商業誌には商業誌なりの良さがあるので、一概に太刀打ちというのも何かなと思うが、その実証してみようという志の高さは買えると思う。
 志高く作られた本だけあって、メンバーも粒が揃っている。まずおがわさとし「鏡の中の…」。ビッグコミックスピリッツ「木の時間」で注目した人もけっこういると思うが、この人のペンのタッチ、それから効果的な大ゴマの使い方は好きだ。1999年の後、世界中で「鏡の中に自分の死に顔を見た」という人の報告が多数寄せられる。主人公の青年は、それが現在滅んでいない地球のパラレルワールドである、滅んでしまった地球の映像なのではと推測するが……。ラスト、皆が広大な空を見上げるシーンがとくに印象的。山名沢湖「WORLD END RABBIT」。1999年の到来を「12年でいちばんかわいい年賀状がかける年」として無邪気に喜ぶ女の子と、シニカルなその彼氏のお話。相変わらずキュートでちょっぴりファンタジックな魂もあってええ感じ。山名沢湖自身のサークル、突撃蝶々は今回新刊はなかったけれどもそのぶんはほかの本で楽しませていただいた。といってもこの本は2月コミティアの新刊なのだけれども。
 星菜見栄春「未来を見つめるその瞳」もなかなかよくできている。教育実習生をしている女性が、現代の子供たちの一見絶望的な未来感に驚嘆させられるのだが、実はそれぞれがそれぞれの方法で未来を見ているのだなあと後に気づかされる。絵柄も端整できれいだし、ポジティブなお話はちょっと元気づく。果竜「地球の中のとある国のマーニャ姫とメイドとねこのお話」。上記「バンパイヤ」などもそうだったが、この人の絵柄はなかなかに華やかでいい。お話は美しくかわいく、そしてちょっと哀しい。うまいのう。

【同人誌】「DISCOVERY OF LOVE」 きづきあきら <GRAIL>
 誰からも好かれる快活な女の子・亜紀をめぐる二人の男子と一人の女子の物語。亜紀にはもともと付き合っていた彼氏がいる。そして亜紀の行動をずっと陰から観察しているストーカー少年が一人。そのストーカー少年からの手紙も契機となって、亜紀は彼氏の自分勝手な振る舞いに気づかされ別れようとする。彼氏のほうは亜紀があきらめきれず、逆にイタズラ電話などの嫌がらせに走る。ストーカーにつきまとわれる恐怖と、元彼氏の嫌がらせで精神的ダメージを受ける亜紀の支えとなっていたのが親友の菜摘。彼女もまた、口にこそ出せないが亜紀を深く愛する一人だった。四者が四様に傷を抱え、全員が不幸になっていく物語を、亜紀を愛する三人それぞれの視点から三部構成で巧みに描く。きづきあきらのペンタッチは、太くカッチリしているが身体のラインの描き方や表情など、妙にエロチックな雰囲気があってソソる。絵もうまいしストーリー運びも手慣れていて、すでにすっかり安定感が出てきた。もう一歩ブレイクするのは難しいかもしれないが、買って間違いのない作家さんになっている。

【同人誌】「World's Dead」 藤川毅 <GRAIL>
 GRAILでは藤川毅、きづきあきら両人とも新刊を出していたが、俺はむしろ藤川毅のほうが今回は気に入った。学校でイジメを受けている少年が、自分をイエス、学校をエルサレムになぞらえ、自分の業を成就させ世界が死を迎えるための儀式を行おうとする。虐げられし者が、自分を神聖化して世界を裁かんとするその哀しい妄念を、シャープで細かなペンタッチの乾いた描線で理屈っぽく描く。かなり閉塞したその世界は、何やら神戸の事件の少年Aの供述も想い起こさせる。この作品もまた1999年の世界の終末を前に着想された息苦しいお話で、20ページの短編ではあるが読みごたえがあった。コマ割りもしっかりしているし、挿入される聖書の言葉も効果的でネームの力強さもある。レベル高し。


5/4(火)……文科にかけろ

 2月のには行けなかったので半年ぶりのコミティア。収穫はわりと多めかな、という感じ。コミティア終了後、月下工房のサイトウさんの呼びかけにて行われた突発的文科系Webサイトオフに参加。参加者が20人近く(18人だったかにゃあ)に膨れ上がり、盛大にオタク話なぞ。参加者内訳はサイトウさんのところの日記参照。OHP周りだといつも掲示板に書き込んでくれているメビウスさんや沼田さんたちと初めてお会いでき、なかなか楽しうござった。本日は酒を少しだけセーブしたので、激しい失敗とかはしてないと思うのだけど、ほかの人の目から見てどうだったかはよく分からない。とりあえず巨乳も美乳も貧乳も微乳も、俺は好きだニャ、というわけで。
 で、以下はコミティアで買った同人誌。とりあえず読むのに時間がかかりそうなものとかは明日以降。< >内はサークル名。

【同人誌】「Works」 西沢一岐 <青空倶楽部>
 ヤングサンデーで「ホタルロード」を連載した西沢一岐のところの本。ハリウッドで映画のライターをしている隻腕の男と、彼のアシスタントになった女性の会話でお話は進行。才能にあふれる彼に憧れるアシスタントだけれど、彼は末期分裂症にある女性の思考を常にモニタリングしており、その女性と深く精神的なところで結ばれていた……というお話。
 西沢一岐は黒々とした絵のタッチもしっかりしているが、話作りも同様。このお話でもページ数は短いながら導入でしっかり読者を引き込み、魅力のあるキャラクターで魅せ、ラストも鮮やかに締めくくる。原作付きだった「ホタルロード」はけして成功とはいえない作品だったが、この人って自分でストーリーも作ったほうが生きるのではないかなあと同人誌を読むと思ってしまう。一般受けはしにくいかもしれないが。

【同人誌】「エッグバン」 淘汰
 作風としては粟岳高弘に近いかな。全編CGで、グロテスクな怪物と美少女という組み合わせの作品が主。怪物も少女も絵のタッチ的に統一されていて、画面の中で翻然一体とした統一感がある。のどかでちょっぴりグロテスクでファンタジック。わりと良い。

【同人誌】「マクロス七 第1号」「ヒロリンといっしょ 第1号」  ぼそけち2号 <ぼそけち商会>
 和む絵柄である。線は簡単だけど、藤子アニメ的なバランス。「マクロス七」は「マクロス7」とはあんまり関係ないお話で、戦闘機の形態に変型できるスーパーロボット少女が隕石から出てきた怪物と楽しげに闘うお話。「ヒロリンといっしょ」は、演劇部に入った少年と声優志望の女の子ヒロリンの他愛なき青春物語の模様。いずれも軽く描かれた感じながら居心地のいい絵が魅力的。

【同人誌】「Night-Marchenの幻想雑誌2」「星間連絡船」 村山慶
「星間連絡船」はカラープリンタで印刷されたB4の紙を、折り畳んで8ページにした豆本。「Night-Marchenの幻想雑誌2」はB5サイズのコピー誌。細身で首のすわりがちょっと不安定な感じの少女のキャラクターが、絵は若干古めだが魅力的。SF風味あふれるお話も小品ながら興味深い。

【同人誌】「エルザ」 夏目わらび <水燈>
 描線がシャープで耽美な作風。死にそうになっていたところを拾われた少女エルザと、彼女を助けた少年のちょっと哀しく切ない物語。ちょっと小生意気なエルザだがその正体は実は……。ちょいとジュネ、ちょいとナルシス。画面はなかなか美しく、ページ数もけっこうあって読みごたえあり。

【同人誌】「Blanc」 鈴木ちょく <直立不動産>
 スミベタがつややかで、端整な絵柄が特徴の鈴木ちょくの本。人体実験の素材として使われている男と、彼の世話をしている女性研究者の絆の物語。キャラクターとかはなかなか魅力的だけど、ストーリー的には少し説明が不足気味かなという感じではある。察さる人は察することができるのだろうが。

【同人誌】「Die Puppe」 タカハシマコ/野火ノビタ
 タカハシマコ/野火ノビタの合同誌。ともに「お人形」がテーマ。タカハシマコは、お人形遊びがやめられない女の子が、自分のお人形にそっくりな女の子にイジメられるのだがある日残酷な仕返しをする。野火ノビタは、お人形になりたがっている少女と、お人形的少女を求めるロリコンおじさんのお話。両方とも商業誌で活躍する人だけに手並みは鮮やか。とくに野火ノビタは、商業誌で描くときより若干線を省略している感じで、その力の抜き加減がスッキリしてかえって良い雰囲気。

【同人誌】「山田参助作品集 青いイナリズシ」 山田参助
 さぶなどに掲載された、ハードコアで豪快なホモ漫画を集めた作品集。タイトルがとてもいい味わい。この人の精密で劇画タッチな絵柄で繰り広げられる、恐ろしき別世界はたいへんに素晴らしい。毛むくじゃらの男達が、男の純情を発揮して、ぼそりとしたちんちんを露出させからみ合う。超巨根演歌歌手、シブケンさん登場の一連のシリーズのファイト一発的豪快さも相変わらずスゴイ。そのハードな世界に抵抗なくば、見かけたら買えとオススメなのが山田参助作品。強烈なり。


5/3(月)……コスモとギジェッと

 ソシオ・フリエスタであるところの俺は、本日もサッカーJFL、横浜FCの試合を観戦しに行ってきたというわけだ。今回の相手は水戸ホーリーホック。横浜FCと比べると、全体的にガタイのない選手が多く、練習のときから「今日は勝ちかな」とか思っていた。ホーリーホックで俺が知っている選手は、元ベルマーレ平塚のDF渡辺卓しかいなかった。実際に試合が始まっても実力差は歴然。結果は4-1で横浜FCの勝利。遠藤(元ジュビロなど)が1点と、パベル(元ジェフなど)がハットトリック。前回のジャトコ戦と比べると、相手との実力差が大きかったせいか、ディフェンスの弱さ等のボロがあんまり出なかった。ボランチ高木がボールを持ちすぎだとか、渡辺一平はヘディングは無敵だけどそのほかは大ざっぱだとか、FW有馬のチャンスをことごとくつぶすヘナチョコシュートだとか、気になる点はいくつか。チーム全体でいえば、中盤でゲームを作れる選手が相変わらず不在で、ディフェンスの連携も悪い、不用意なバックパスが多いとか課題はいろいろ。ここらへんは芝の練習場が確保できてもっと練習できれば、ある程度は改善されそうな気もするのだが。というわけでこのページを読んでいる人で、芝が張ってある広大な空き地を横浜近辺にお持ちでそれを練習場に提供してもよいという方がいらっしゃいましたら横浜FCにご一報するといい。

 で、観戦から帰ってきてからはたまっていた未読単行本の処理。

【雑誌】ペンギンクラブ 6月号 辰巳出版 B5中
 ちゃたろー、飛龍乱、わたなべよしまさ、みやもと留美……と、ずっと前からおなじみって感じの人が今も主力で、新鮮味は全然ないのだけどそれだけに個々の作品の作風はこなれている。きっちりお仕事している雑誌。
 巻頭カラーは亜麻木硅「BUNNIES GAME」。対戦格闘モノで勝負する男女一組。負けたほうが一枚服を脱ぐという条件で、女の子が連戦連敗。素っ裸になってそのまま……というまあ平凡な展開ではあるのだが、女の子はちゃんとかわいくやることはやってそれなりにH。飛龍乱「DARLING2」。この人も手堅い。基本的なテイストは昔と一緒なのだけど、時代に合わせてちゃんと絵は洗練させている。お話も兄妹の近親モノということで時流にもフィット。ぷっくりとした肉付きの女の子の絵柄が好きなのだ。ちゃたろー「でんじゃらすマンション!」。巨乳に触手に液に汁。絵はとても作りものっぽいのだけど、誌面の余白がなくなるまでぎちぎちにエロ系のアイテムで埋め尽くす徹底ぶりはかなりすごい。わたなべよしまさ「秘密兵器」もいつもと変わらぬ味。ゴム風船みたいな胸と、あんまり色っぽくない表情とそれなりにヌケるエロ。何年経っても変わらない。変わらないといえば飼葉駿「きっず・とれいん」も。ミニマルな小学校ギャグを延々積み重ねて今月で148回め。あと2回で150回でありますか。5月中旬には久しぶりの単行本も出るそうで。
 なめぞう「大人だね山チー!」は、今回も濃厚で暑苦しい。山チーと女の子がイチャつくシーンで、二人の様子を海の方向から眺め手前にはミジンコ、向こうのほうに二人……というダイナミックな構図の1ページぶち抜きのコマがあって、これがなかなかインパクトがあった。

【単行本】「HOTEL CALFORINIA」上下巻 KKベストセラーズ A5
 祝再版。偉いぜKKベストセラーズ。
 元はヤンマガKCで出ていたのだが、すぎむらしんいち作品の中でも入手が困難で、俺も最後まで読んだのはこれが初めて。ヤンマガKCは全5巻だったのだが、4、5巻といったあたりがとくに手に入れづらかったのだ。
 物語はHOTEL CALFORINIAという、人里離れた山奥に新築された場違いに豪華なホテル。経営者が借金だらけになって破産して夜逃げし、残された従業員たちが大雨によって交通が遮断されたホテルに取り残される。電話なども通じず、陸の孤島と化したホテルで生活を始める従業員たちだが、そこに借金を取り立てに来たヤクザ、山奥で隠棲していた多数の老人たちなどまで絡み合って物語はゴロゴロと転がり続ける。極限状況の中繰り広げられる妙にのどかでおかしな生活、適度な色気、それからキャラクターたちに迫り来るピンチ、後半のアクションシーンの連続など、お楽しみがてんこ盛りで一つの作品世界として非常に高いレベルで完成している。まとめて読むと、そのテンポの良さ、演出の巧みさ、構図の巧みさ、適度に遊びのある設定などなどに驚かされる。元は5冊構成だったのを上下巻にまとめているわけだが、それだけのボリュームを一気に読んでしまった。とても質の高いエンターテインメント。感嘆。

【単行本】「キュービック城の秘密」 泉晴紀 ソフトバンクパブリッシング A5
 泉晴紀もキテレツな漫画を描いているものだなあというのが第一印象。不法居住者が無秩序に増築していったプレハブなどにより、複雑怪奇に入り組んだ多重構造になってしまった街、キュービック城が舞台。そこで得体の知れない「歌姫」と呼ばれるモノが目覚めたという噂話から端を発し、チンピラやらフリーターっぽい若者、それから国家などを巻き込んで歌姫の争奪戦が始まる、といったお話。登場人物は無闇に濃厚で、お話の進むペースもなんだか持って回っていて全体に奇妙なノリ。以前コミックビームでやっていた「Se-Ki-La-La」にも近い雰囲気がある。面白いかと問われると、それほどでもないというのが正直なところ。

【単行本】「ギジェット」 さべあのま 白泉社 A5
 発行は1988年。妻を亡くし、娘のギジェットと二人でニューヨークで暮らすシナリオライターが、昔の恋人だった従妹の女性と再会する。この二人がくっつくというのは自然な流れでもあるのだが、母との思い出を大事にしているギジェットは(相手方の連れ子の娘が気に入らないこともあって)それをなかなか受け容れられない。でも結局は、父の幸せ、母親のいる家庭を望むギジェットが二人のキューピッド役を果たしてしまう……といったお話。
 もう10年以上前の作品だけど、さべあのまの柔らかくて軽やかでシャレた絵柄は古びていない。あんまり後継者のいなさそうな作風であるだけに、新作を読みたいところではあるけど、まあ本人が描かないんならしょうがない。この作品も鮮やか軽やか、ハッピーエンドで締めくくる。「ミス・ブロディの青春」ほどではないけどしっかりと読ませる作品。

【単行本】「コスモスエンド」1/2巻 トム笠原 集英社 新書判 A5
 うちの兄、本田健が昨年11月のコミティア売りの同人誌、「PARIKING」4号で「記憶の中にしかない漫画のレビュー」という感じの原稿を書いたのだが、タイトルも作者も忘れていて存在だけは記憶に刻み込まれていた作品がコレ。
 かなり古典的な宇宙モノのSFで、この銀河の崩壊を防ぐために宇宙探査船の乗組員たちが目的地を目指すというのが大まかなストーリー。ブラックホール、ウラシマ効果、ワープ、ビッグ・バンなどなど、今では陳腐になってしまい漫画に登場することがめっきり減ってしまったアイテムがてんこ盛り。発行は1982年だが、このころはまだこういう作品が許された時代だったのだ。今読んでみると、マジメにSFしようとしている意気込みは感じられてそれなりに面白いのだが、いかんせん古臭く、あえて掘り起こしてみるほどのものでもないかなという感じ。
 兄のレビューに関しては、正しい部分もあれば記憶の中で美化されてしまった部分も(かなり)ある。人間は自分の都合のいいように過去の記憶を書き換えてしまうものなのだなあとか思ったりもした。ま、とりあえずPARKING4号を読んで気になっていた人は読むのも一興。

【単行本】「視感 吉田光彦の世界」 吉田光彦 けいせい出版 A5
 退廃的で妖艶でエロティックで変態的。発行は1983年だから、すでに15年以上も前の単行本だ。妖しく気怠く前衛的な作風は、今読んでもたいへんに味わい深いが、中盤までは漫画じゃない部分が多く読んでてかったるかった。まあ今となっては古本屋でもあんまり見かけない本だと思うが、怪奇で耽美で不健康な美の世界をお求めの方は手にとってみてもいいかも。


5/2(日)……見ざる聞かざる海猿でござーる

 ギョヘー。つげ義春のマネ。ギョヘ、ギョヘギョヘ、ギョギョ、ギョヘギョヘ。BEAVIS&BUTTHEADのマネ。
 昨日のコミティアオススメサークルで、武富健治のサークル、胡蝶社(K13a)を書き忘れていた。かなり妄執漂う特殊な作風がヴェリグー。

福神町綺譚」オフに出席。藤原カムイ氏以下、約15人くらいで上野で飲み食い。まんがの森のおしぐちたかしさんや、ウルトラジャンプの編集長さんといった有名な方も参加されていた。一次会は中華小皿、二次会はカラオケ。藤原カムイ氏と奥様の仲睦まじきさまが印象的。奥様はいい感じの人妻でござった。

【単行本】「ボーナス・トラック」 山田章博 日本エディターズ A5
 掲載作品は「鋼鉄のパンドラ」「ジュディと燃える秘宝の谷」「ドラゴンスレイヤー」「POST MAN」「忍秘図」(「図」の字は口のカコミの中に、上が「口」、下が「面」という字)「甦る愛」「酩酊愚人」「夜話」「あとがきコミック」、それから「ラスト・コンチネント"海外版"」のイラストレーション。作品の初出時期は1983〜1991年。10年以上前の作品もあるが、そのころからすでにこれだけの画風を完成していたというのだからスゴイ。山田章博の圧倒的に美麗で精緻なペンタッチは、他の追随を許さない。俺は漫画は絵だけでは感心しないタイプではあるのだが、山田章博は別格。やっぱスゲエわ。この単行本収録作品では、4色カラーの「鋼鉄のパンドラ」に出てくる少女がとてもよろしい。「忍秘団」はVANDA初出の作品なのだが、そういえばそんな雑誌もありましたなあ。

【単行本】「天使の釣り鐘」「天女の酒」 奈知未佐子 小学館 B6
 俺は奈知未佐子作品は、「風から聞いた話」あたりから読み始めどんどん過去へと読み進めていったのだが、おとぎ話系の作品は絵本を除いてこれでほぼコンプリートのはず。ベタベタな少女漫画や歴史漫画も描いているようだが、そちらのほうは立ち読みしたところ面白くなさそうだったので買うつもりはない。
 奈知未佐子の描くおとぎ話は、ときに大の大人もほろりとさせられる。後味爽やかに清らかな感動を与えてくれるのだが、作品の質がコンスタントに高品質なのも大したもの。心にしみいる、柔らかく優しいぬくもりがある。一見するとすごく地味なんだけど、単行本でまとめて読むとなんだかとても泣けてくる。だまされたと思ってぜひ。今だったらプチフラワーコミックスの「紫姫の千の鶴」あたりが一番入手しやすいと思う。

【単行本】「海猿」1巻 佐藤秀峰 小学館 B6
 荒れ狂う海で、人の命を救うため奮闘する海上保安官の物語。ヤングサンデー連載作品だが、その心根は非常に少年漫画臭いど根性物語である。作風としては曽田正人に近い。絵柄的には曽田正人ベースに岡村賢二っぽさもちょっとある。事故はどんどん致命的、切羽詰まったものになっていく中、人々の魂の叫びが爆発する。生か死かの極限状況で繰り広げられる物語は、激しく熱く力強い。魅力的な女性キャラクターも登場しはするが、大筋はあくまで男臭い。まだまだストーリー面での詰めなどで甘いところも見られるが、最近の若手漫画家の中で、これだけ力づくな作品を描く人は珍しいので今後も期待したい人ではある。

【単行本】「まちこSHINING」3巻 藤野美奈子 小学館 B6
 これにて最終巻。芸能界にデビューしてキラキラすることを夢見る田舎の天然系女子、まちこがドタバタするギャグ作品。藤野美奈子の、いつのまにか話があさっての方向にエスカレートしていく作風は、この作品でも健在。ただ、ところどころ光るものはあったが、最後までキャラクターが立ち切らなかった感は否めない。ギャグが上滑りしている感じがした。最終話の脳天気な展開はなかなか良かったので、主人公がも少しガツンとくるキャラクターであれば……。ちょっと惜しい。

【単行本】「SATELLITEぢゅにゃ」2巻 サガノヘルマー 講談社 B6
 遠い未来の物語。罪を犯した囚人が流される辺境の惑星MOON Jr.を舞台に、移動式中学校の間で繰り広げられる異常的変態的の争いを描いたお話。サガノヘルマーのアクが強くてエロチックな作風はこの作品でも健在。中学生により改造された大人=先生が、歯茎から細かい触手を発射して、敵方の中学生をマインドコントロールするシーンがこの巻では見どころ。


5/1(土)……かっとばせ!カキハラくん

 来る5月4日はコミティア。いつもは会場に行ってからカタログを買っている俺だが、珍しく事前にティアズマガジンを入手したので、俺と好みが似通っている人にオススメなサークルを紹介しておこう。たぶん洩れは何個もあるんじゃないかと思うので、「俺のところはどうよ?コラ」などとご意見のあるサークル等あったら、ぜひ掲示板にアピール賜りたく。それからそのほかの人でもオススメのサークルがあったら教えてプリーズ!

 とまあいろいろ挙げてみたけど、基本的にコミティアならそうそうサークル数も多くないので全部見て回れるはず。だから自分の足で周り目で見て確かめるべし、というのが結論なり。

【雑誌】マンガの鬼アックス Vol.8 青林工藝舎 A5平
 花輪和一の刑務所日常漫画のシリーズ、「願いますの壁」。やっぱりスゴイ。とくに今回は初っぱなの、刑務所作業場の見開きが見もの。こまかく絵が描かれているのでちょっと見にくいが、絵の各部の名称が異様に細かく書かれているのが花輪和一らしい。それから服役囚たちの動作などの描写が、これまた執拗で病的ですらある。ドラマチックでもなんでもない刑務所の日常を描いているだけなのに、描写の細かさだけでここまでの迫力を出してしまうのは圧巻。東陽片岡「沖縄デー斗争の夜」。いつもと全然変わらない。このノリをいつも変わらず出せるというのは、ある種天才の所行だと思う。キクチヒロノリ「くるくるきいきい」。意味なんてどうでもいい。この描かれている事物のイカれた造形さえあれば……。
 巻末の「マンガ評論新人賞」に関しては、最終銓衡対象作品タイトルを見ているとなんか古臭い感じがする。入選作の文章もちとうっとうしい。呉智英の総講に、「対象を把握し分析し、文化全体の中に位置づけることが評論の本義である」「対象と格闘し、その異議(原文ママ)を読み解くと同時に、文化、社会、歴史に対する見識も必要である」「何も知らないまま、自分が思ったことだけを述べたところで、それが何十枚になろうと、評論とは呼べない」とあるが、そんなもんかいのう、と首を傾げてしまう。ちと頭が固いような。まあ「この賞における評論とは」という基準を示しているわけなのだから別にいいんだけど。ただ、そういう立場にしか立てずほかの立場を排除してしまうようなら(呉智英がそうだというつもりはないが)、その評論はおそらく相当に窮屈なものになってしまうだろうし、世の中を動かせないだろうという気はする。
 私事になるけど、俺自身はこのホームページでやっていることは評論だとは思っていない、というかそういわれると居心地が良くない。また、俺ふぜいと一緒にされては評論畑の人も心外であろう。「漫画評」「感想」くらいがちょうどいいかな、と。

【雑誌】漫画ホットミルク 6月号 コアマガジン B5平
 表紙に「G=ヒコロウのあの連載やってます。」とあるのは、もちろん「みんなはどぅ?」を指している。好きな人はチェック&リード。俺としては日記漫画より読切のギャグもののほうが好きではある。瓦敬助「菜々子さん的日常」。男子がほとんどいない学校の中でも、とりわけ開けっぴろげでガードの甘い奔放な女の子、菜々子さんの日常を、数少ない男子の一人が見つめつづけるという連載。この雑誌には珍しくSEXはしないが、大らかな雰囲気が気持ち良く、またプリプリした菜々子さんが色っぽい。この人はなかなかいいのでオススメしておく。みかん「フタリノコト」。りえちゃん14歳的なファッションで、もちょっとエロシーンなどを生々しくしたみたいな、業深げな作風で目立つ。猫井ミィ「HOME」は「scene:1」とあるので連載となる模様。

【雑誌】花とゆめ 5/20 No.11 白泉社 B5平
 中条比紗也「花ざかりの君たちへ」。楽しそうなのはたいへんよろしいのだが、男ってそこまで我慢できるもんでもなかろうと思いつつ、まあ楽しいからいいかという感じ。高尾滋「素顔の風景」。前号で水泳を諦めた少年が別の道にチャレンジする姿に、今回の主人公の女の子が元気づけられる。きれいで端整で爽やか。絵柄的には完成されてて文句なしなので、あとはストーリー面でもっともっとボルテージが上がってくれば最高。とはいえ、そういう部分を伸ばすっていうのはなかなか難しいことではあるんだが。

【単行本】「ロマンス」6巻 高見まこ 集英社 B6
 既刊分のストーリーなどはオスマン参照のこと。この巻では吾郎が運命の女・玉緒に出会い結婚する。玉緒は東京に働きに出てきた未亡人なのだが、そのとき社会主義者の運動に与していた吾郎は、チラリと見かけたその姿にたちまち恋をする。情熱的な吾郎のアタックに玉緒もしだいに心惹かれていくが、一つところに居ついてはおれない吾郎の性に不安な予感もよぎる……といった展開。燃え盛る火のように、次々と女性の心に火をつけ相手を燃やし尽くし、そしてほかの女性へと移り火していく吾郎の熱と危うさ。その熱に溶け出す女性の姿がなんとも色っぽい。下品にならずなおかつ扇情的。

【単行本】「宙舞」1巻 作:小林信也+画:秋重学 小学館 B6
 高校のころ、大好きな女の子・舞子のために水の上を歩いたことがある少年・宙樹。二人でいればなんでもできると信じていた二人の心は、その後すれ違ったり離れたりまた近づいたりしていきながらもつれあっていく。翔びたいと思いつつも、なかなか果たせない、やるせない青春を描く。秋重学の絵柄は爽やかで鮮やかだが、そのぱっと見からは想像しにくいくらい赤裸々でハードな物語である。がむしゃらに、あちこちにゴツゴツとぶつかりながら進んでいく青春模様は、果てしなく青臭くてもどかしい。この二人が、いつかかっこよく羽ばたけるといいなあとも思うが、地べたを這いずりまわる悲惨な展開もまた悪くないなと思う底意地の悪い俺。

【単行本】「殺し屋イチ」4巻 山本英夫 小学館 B6
 主人公のイチたちのグループに親分を殺害されてから、暴走を続けるヤクザの若頭の垣原。そのあまりの暴れぶりに上層部の組織から絶縁されるが、狂気に支配される垣原はさらに暴虐の限りを尽す。自分を楽しませるだけの痛みを求めて。イチのアンバランスで病んだ精神状態も面白いが、この巻はやはり垣原。圧倒的に主役である。情や容赦など薬にしたくともない。自分を狙う暗殺者が与えてくれるであろう、今までに味わったことのない次元の痛みを思い浮かべて勃起しているときの陶然とした表情は常人の領域をはるかに超越している。ちょっとほかに類を見ない、血なまぐさいぬるぬるとした圧倒的な迫力を持つ作品。必読。もちろん俺にとって。

【単行本】「幕末学園伝リョーコ参る!」 尾崎晶 ヒット出版社 A5
 最終巻。学園超能力番長系闘争エロ漫画。人体実験等、陰謀渦巻く学園に何か使命を帯びているらしき転校生がやってきて、学園内の支配的勢力と対決するというのが大ざっぱなストーリー。この作品の場合、とくに1巻が絶品で、ケンカものをやるかと思えば濃厚でどうしようもないディティール(三下の下らないアクションだとか)に話が逸れまくり、何を目指しているんだかという先行き不安感が楽しかった。ストーリーの中の一エピソードに過ぎないエロに不必要なくらい力を入れてたりといったアンバランスさも味。キャラクターたちの一本ネジのハズれたボケっぷりも笑える。また、エロシーンはかなり濃厚でパワフル。ちんちんの描き方に気合いが入っているのが俺としてはうれしい。全力でドツキ漫才を、しかもナチュラルにやってる感じであった。2巻、3巻あたりは本筋のストーリーを進める必要から、ボケが少なくなったのはちと残念。


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