マッスル超宇宙マッスル超絶マッスル世界
一気に下まで行きたい

この地区は、広義の「ぶっとび界」においてもっともメジャーだと思われる、ある意味「筋肉(腕力ではない)でものごとを解決する世界」というか、肉体が存在感を主張しまくるマンガを紹介する地区である。このジャンルで超有名なものとしては、「聖マッスル」(ふくしま政美)があげられる。そのコンセプトは80年代に入っても「北斗の拳」を筆頭にさまざまなカタチで継承されていくが、それがどのように変容していったか(あるいはしなかったか)というむずかしい議論は忘れ(私もわかんねーし)、とりあえず「マッスル」の1点により紹介していきたい所存であります。また「マッスル」はその超人性において、「スーパーナチュナル超・超人伝説スーパー」地区とかなり深い親交を保っているが、ここも厳密には区分せず、ラフな感じでひとつお願いします。

・「スーパーレディ レナちゃん」(予告編)木持隆司(2001、木持アート出版)
・「野獣警察 ベスト総集編」 みね武(2001、芳文社)
・「ガリベン番長」 向上 輝(1990、週刊少年マガジン、講談社)
・「闘破蛇烈伝DEI48」(4) 島久、前川かずお(2000、講談社)
・「ゲッターロボ號」全7巻 永井豪、石川賢(1991〜93、徳間書店)
・「タイムパトロール ユカちゃん」(前、後編)木持隆司(1999、2000、木持アート出版)
・「カンドリ・ブラッド」 たなか亜希夫(1994、秋田書店、グランドチャンピオン14号、15号、16号〜?)
・「マグナム坊主」 みね武(1985、日本文芸社)



・「スーパーレディ レナちゃん」(予告編)木持隆司(2001、木持アート出版)

スーパーレディ レナちゃん

同人誌。コミティアで購入。「海のプリンセス エミちゃん」「タイムパトロール ユカちゃん」といった肉弾美女系冒険ファンタジーマンガの木持アート出版が放った第3弾、の予告編。予告編と言っても40ページ以上ある。

人形づくりで暮らしているらしい老夫婦・カシムグレイス。しかし実は彼らは、家臣の反乱によって危機に瀕している謎の海底大陸・パラティオの王家側の家臣であった(ちなみに王家一族は魔法で石にされてしまっているらしい)。
彼ら老夫婦に人形づくりを依頼した不思議の国のアリスみたいな少女が、突如
浅草サンバカーニバルみたいなムチムチ系美女に変身、実は天界のカシウス山に住む女神ララだった。ララは女神としてパラティオ大陸の内乱を鎮めようとしているらしい。このためカシムとグレイスに接触したのだ(「カシウス山」についての説明は今のところなし。その他の伏線はいろいろあるが、説明が複雑になるので割愛)。

一方、海洋冒険家を気取り飛行船で旅をする老人・船越総一郎がいた(なぜ海洋冒険家なのに飛行船……?)。彼と彼の孫娘レナちゃん(主人公なのに登場の仕方がさりげなさすぎ)、レナの兄・元太郎、みんな揃ってエジプトかなんかを遊覧飛行している。
総一郎はチンギス・ハンの墓を探している(繰り返すが彼は海洋冒険家である)。元太郎は、海賊キッドの財宝を探している。ちなみに元太郎はスチーブンソンやマーク・トゥエインの小説を読んで漁師をやめ、実家のお土産屋もおっぽりだして冒険家を志したという、ある意味行動原理自体が冒険野郎なヤツである。

女神ララ

チンギス・ハンの墓と海賊キッドの宝を探している二人が同じ飛行船に乗っているのもどうかと思うが、当然妹のレナもそんなおじいちゃんと兄が心配でたまらず、家に連れ戻そうとして飛行船に同乗している。レナは実は超人スーパーレディで、女神ララによりパラティオ大陸を救うよう命じられる(どうも書いてて唐突な気がするが、とにかくそういう話なのである)。

レナたちの乗った飛行船を攻撃しようと、魔女の手下(当然半裸でムチムチのおねーさん)たちが空を飛んでやってきた……というところまでが今回。

作者独特の、ファンタジーというより「おとぎ話」といった感じの世界観は健在。また映画「グラディエーター」みたいな古代ローマをモチーフとしたデザインや、出てくる女の子が全員ナイスバディで半裸、という法則も守られている。冒険家のおじいちゃんと元太郎の服が「ちょっとそこらにタバコ買ってきます」みたいにぞんざいなのに対し、レナちゃんはやたら大ゴマを占領しては無意味なパンチラをかますという扱いの違いもスバラシイ。女神ララの格好があまりに派手なので、変身後のレナのコスチュームが主人公として目立てるのかどうかがちょっと心配だけど。
3部構成になるらしい。
(01.0506、滑川)



・「野獣警察 ベスト総集編」 西塔紅一、みね武(2001、芳文社)

野獣警察

80年代を通じて連載されていたアクション劇画の、雑誌形態の総集編。中綴じ。
気が付いたら、かなり初期に紹介した「マグナム坊主」と同じ作者の作品だった。しかし、リアルタイムで手に入るという嬉しさにこうして紹介文を書いている。

主人公・日暮掟(ひぐれ・じょー)は私立探偵。だが「探偵」はほとんど便宜的な肩書きで、本職は政財界の大物や悪事で大儲けしている実業家などのスキャンダルを嗅ぎ出しては恐喝して大金をせしめることを生業としている。通称「糞蝿(クソバエ)」。お偉方の汚い黄金にたかるハエというわけである(ちなみにタイトルの「野獣警察」という言葉は作品中でほとんど使われない)。

基本設定だけを見るとたいへんに汚いワルの知能的な話を想像するが、本編はまったく違う。話はほとんどの場合日暮が何かを嗅ぎつけ、スキャンダルに首を突っ込み、国会議員などからカネをもらう約束を取り付ける。だがその議員が裏切り、カネの代わりに銃弾を、というわけで何人もの手下を放って日暮を殺そうとする。それを日暮が返り討ちにしてジ・エンド、というパターンが圧倒的に多い。
1話が30ページしかないのでお話の運びもスピーディで、突飛な導入部から激しい銃撃戦まであっという間の、実にスカッとする物語である。

有り体に言ってしまえば大薮春彦の犯罪小説や海外のガン・アクション映画の再生産の一言で済んでしまうシリーズではある。しかし、本作ではページ数が少ないためか入り組んだストーリーはいっさいナシ。昨今のアクション小説のように、リアリズムを追究していった結果の血なまぐささや現実世界の設定上のシバリ(街中で銃を乱射してなぜすぐ警察に捕まらないのかなど)から解き放たれた面白さがあるし、マンガ・アニメ系のアウトローが洗練されすっかり毒気を抜かれてしまったのに対して(よくも悪くも最近の「ルパン三世」とか)、酒、カネ、女、銃器にまみれた生活を送る、ワルぶっていても最終的には悪に正義の鉄槌を下す(ここ重要)まじりっけのないヒーロー像には捨てがたいものがある。

「ぶっとび」的観点では、前述の「マグナム坊主」や「サラリーをもらうからサラリーマン、ドロボーをするからドロボーマン」が合い言葉の「ドロボーマン」(原作/石橋渡)などの方が高い。しかし本作は単行本にして30巻以上の長編であるため(現在は絶版?)、主人公は死なないしシリーズ通しての日暮個人の境遇に関する変化もほとんどなし、いくらスキャンダル絡みだとはいえこれだけ国会議員を殺してたら議員がいなくなってしまうんじゃないかという、結果的に日本最強ともいえるヒーローになっているところが頼もしい。

さて、この総集編でもっともぶっとんだ話としては「クレイジー・キャッツ」があげられる。
レストランの駐車場で、あやまって大金持ちの徳田宗親の飼い猫・マドンナをひき殺してしまった日暮掟は、徳田からものすごい恨みを買って命を狙われる。日暮は徳田がオーナーであるマンションにおびき寄せられるが、ここは愛猫家専門のマンションで、住人全員が徳田を神のように崇めている。

屋上で全裸で縛られて転がされ、今にも銃殺されんとする日暮。ここからの急展開がすごい。日暮は徳田のスキを見て彼の銃を奪うのだが、その瞬間に手に手に包丁だの日本刀だのを持ったマンションの住人たちが、カルトの信者みたいに日暮に襲いかかってくるのだ。

「マドンナ様の恨みを晴らしてやる われら愛猫家の天敵め 殺してやる」

とか言って……。
まあこのエピソードそのものがペットブームを揶揄したものであることはわかるが、極端に書きすぎである。そしてまた、それが原作者西塔紅一の持ち味なのだ。

この他、日暮と愛し合っているが肝心なときに必ず邪魔が入って結ばれずにいる美人警部・岬マコ(処女であることを気にしている)や高利貸しのオバチャン綾小路小百合(日暮がカネがないときに仕方なくセックスの相手をして、無利子無担保で金を借りている)などのサブキャラクターがときどき出てきては、けっこういい味を出している。
(01.0311、滑川)



・「ガリベン番長」 向上 輝(1990、週刊少年マガジン29号〜41号、講談社)

防御を突き抜けてヒットする超絶拳法、それが天祥拳!!

ガリベン番長

・神秘系格闘技マンガの極北
1984年から週刊少年ジャンプに連載された拳法アクションマンガ「北斗の拳」は人体に108ある「経絡秘孔」(ツボの一種)を突くことによって肉体を内部から破壊するという衝撃的なアイディアで一世を風靡した。
「人体の急所を突くことでの一撃必殺」という概念は拳法マンガにおいて古くから存在しているが、それの最終局面が「北斗」だと言えるだろう。
それは格闘技の神秘性をあえて排除した(かのように描く)「糞リアリズム」の70年代作品「空手バカ一代」から、神秘・オカルトブームへの必然的な流れであったかもしれない。
ストーリーが発展する上での「技のインフレ」現象と、時期的に中国拳法や日本古流武術の神秘性がクローズアップされていったこともあり、「男組」(太極拳)や「男大空」(神骨拳)、小説では夢枕獏のキマイラ・シリーズ(円空拳だっけか)など、70年代後半から80年代に「神秘系格闘技」を扱った作品は数多く生み出された。
ここにあらたなる概念が入るには、90年代に入ってからのUWFを中心とした総合格闘技ブーム、そして「黒船」と言われたグレイシー柔術の登場を待たねばならない。

さて「北斗の拳」は「神秘系拳法マンガ」としては最大のヒット作である。そして最終形態であったとも思う。が、行き詰まろうと何だろうと突き進むのが良くも悪くも「少年マンガ」である。90年代に入っても幾多の「亜流北斗」が生み出されるが、私の知るかぎりアイディアの秀逸さ、どん詰まり感、懲りすぎがアダになったという意味で最高峰に位置するのが、本作なのである。

・番長色の薄い「番長」マンガ
主人公・三上播磨は、中国二千年の歴史を持つ「天祥拳」の伝承者である。
しかし父が試合で死んでしまったため拳法家になる気はなく、常にガリベンにいそしんでいる。そんな播磨に不満な、ちょっとグレてる親友・高杉輝也、通称テルがいる。播磨は平穏無事な高校生活を送りたいのだが、テルが不良の拳法家(?)に襲われたりするので、やむなく天祥拳で戦わなければならなくなる。

本作は表題に「番長」と銘打っているわりには、「番長マンガ」のテイストは限りなく薄い。「学業と、悪との戦いの両立」が当初のテーマであるため、けっきょく番長マンガか拳法マンガか、はたまたハリマの「ガリベンと番長」の二重生活のハラハラを見るマンガか印象が散漫になってしまっている。「天祥拳」という拳法のオリジナリティ、敵拳法の悪趣味具合などがイイだけに、惜しい展開である。

・不気味な拳法家群
ハリマを次々と襲う拳法家は不気味のひと言。肉体内部を粉砕、骨のみを砕いて人間を蛇のようにする「蛇骨拳」烏丸時彦(熱帯魚を異常にかわいがるシーンは「北斗〜」のハート様を思わせる)。「蛇状になる人間」はメジャー誌における悪趣味度合いとしては相当なモノ。

ハリマと同じくガリベン少年の伊住院光(「王様のブランチ」に出ているほのぼのおでぶではナイ(笑))の運転手・比留間は、血管を食い破り生体の止血作用すら破壊する「吸血蛭形拳」の使い手。働かない若者を異常に憎んでいる。「敵の血を出させ、『気』をためさせない」という戦い方は、それなりに理にかなっている。

そして「摩理亜神舞拳」の伝承者・天草加生留の手下、双子の狂一狂二。彼らはそれぞれ「蟷螂双無拳」「仁王馬蹄拳」を使う。よくある「2人合体すると最強の力が出せる」というヤツだが、その不気味オリジナリティ度は見逃せない。
さらにハリマの2大ライバル、伊住院光の「華玉雷皇拳」と、前出のナゾの転校生・天草加生留の「摩理亜神舞拳」までクルと、完全に因果地平へ飛来して行く。「ガリベン番長」というタイトルだが、もはやガリベンでも番長でもない。

・物語は早くも佳境!!
「スーパードクターK」を模したゲストキャラが出てきたパロディ的な回はご愛敬として(もしかして作者が元アシとか?)、単なるツッパリ少年であるテルが実は「知能指数180を超える天才児を集めた特殊教育機関『ジニアスウエイ』に所属していた過去が判明するなど、ストーリーも盛り上がってくる。
そして天草加生留は「ジニアスウエイ」の手の者であり、この組織こそ古代中国から続き、現在も日本国家をファシズム的に支配する別名「天賦覇王団」だったのだ。ハリマの父はこれに反抗して、試合で天草の父に殺されていた……。ジニアスウエイに対する反乱分子を根絶やしにするために伊住院をさらい、ハリマに勝負を挑む天草。天祥拳の奥義をきわめた父が勝てなかった男の息子・天草に、ハリマは勝てるのか?

ブロックしても拳のエネルギーが突き抜ける超人拳法・天祥拳に勝てる拳法がそうあるとは思えない。だが「摩理亜神舞拳」は、拳を当てるスキもないほどに超スピードで移動する拳法であった。「実体は影となり影は実体と化す まさしく化影−−疾風の拳」なのだ。その究極奥義は「残影舞踏」−−まあ分身の術みたいなモノ。敵の実体がわからず苦戦するハリマに、かけつけたテルは伊住院のつくり出す光球で明かりをつくり、分身の影を出して実体を見いだす作戦を思いつく。伊住院が死力を尽くしてつくった光球で見えた実体!

テルと伊住院の友情、そして最後まで戦った父を思い、ハリマの放った拳は、天祥拳二千年の歴史にもない、彼の天才性が生んだオリジナル・ブローであった。ハリマの前に天草は倒れた……。

・さらば! 戦え! ガリベン番長
そしてハリマを倒せなかった天草にも、ジニアスウエイの追っ手はせまる。彼をかばうハリマに、天草は友情を感じる。自分もまた彼の拳友(とも)になったのだと……。
国家を操る組織はデカい。彼らはそれを倒すべく、戦いの渦中に自らを投じていくのであった。

なお、私の知るかぎり単行本は出ていない。
(99.0503、00.0825加筆訂正、滑川)



・「闘破蛇烈伝DEI48」(4) 島久、前川かずお(2000、講談社)

いつも比較的入手困難な作品ばかり紹介して心苦しいが、本作はバリバリの現役連載中、すぐにでも本屋さんへGO! できるのだ!

別冊ヤングマガジン連載。そのヴァイオレンス、セックス、そして熱血、すべてわかったうえでの極端描写はギャグか本気か? 実際ねらっているらしいのだが、なんつーかそれも含めて本当に痛快なマンガである。ここにあるのは以前も書いたが「メチャクチャのコスモ(秩序)」なんであ〜る。

気の弱いいじめられっ子の少年・泊破武男(とまり・はぶお)は、沖縄に古くから伝わる、空手より古い「手(でい)」の、さらに空手が取り込まなかった秘技「裏手(うらでい)」の真正継承者であった。
「裏手」とは、男女の48種類のまぐわいの型から発達させた格闘術であり、それを継承するには「繋ぎ女(つなぎめ)」という48人の女性と交わらなければならない。そして一人の繋ぎ女にひとつ、計48種類の技があるというわけなのだ(この技もひとつひとつが男女の体位から発せられるもので、そうとうトンデモナイです)。
強い格闘家なら、真正継承者でなくても繋ぎ女の匂いをかぎわけられるため、裏手を継承したいがために次々襲いくる格闘家(ほとんどが忍法か魔法に近い、もんのすごい技を持っている)を破武男は倒していく−−というのが基本設定。

つまり、この基本設定の枠内でどれだけ毎回飛躍できるかがポイントになる。今回の単行本第4巻では、「繋ぎ女とまぐわった状態で抜かずの7発をやらないと双方が死んでしまう」(義ノ三十七/尻兄弟)、繋ぎ女が真正継承者以外の男を愛してしまった場合どうなるか(義の三十八/夫婦聖喝(ふうふせいかつ))などが面白い(全部面白いんだけどネ)。
また、「世を支配するのは常に男でなければならない」と考える謎の集団「ンタマ一族」、もともと裏手に対しては不可侵だったが指導者が「オータムーン」という人物に変わったために破武男を敵とするようになった「亜鬼一族」、すごい性技を持った繋ぎ女4人がいるという伍快楼(ごかいろう)、真正継承者の技量を試すために繋ぎ女の体内に毒を注入する「毒尻(ドクチビ)七兄弟」(「義ノ三十七/尻兄弟」に登場)など、描いててキリがないほどの濃いキャラクターが頻出する。

なお読む人は必ず前作の「闘技創世奇伝DEI48」(全1巻)を読むこと。これ基本。公式ホームページや、作中に出てくる沖縄出身4人組アイドル(全員繋ぎ女)「ミミガーズ」ファンページもあるよ!
 ↓(00.0410、滑川)

DEI48オフィシャルページ

沖縄ミミガーズランド



・「タイムパトロール ユカちゃん」(前、後編) 木持隆司(1999、2000、木持アート出版)

「ぶっとび」初めての同人誌紹介である。
古代ギリシャとアマゾネスと未来世界を合体させたような一種の理想社会を営む「マリン星」
そこには宇宙パトロールがあり、それに所属しているのがユカちゃんである。
宇宙パトロールはマリン星出身の稀代の悪女、リサリンが地球のあらゆる時代で歴史上の美女となって権力者や指導者を操っていることを知る。
そして、リサリンが
「コロンブスの愛人となって
アメリカ大陸を独り占めしようとしている」

……という野望をうち砕くため、タイムマシンで出動するのであった。

(コロンブスの愛人になっても、アメリカを征服することはできないような気もするのだが、そんなことはこのマンガではまったく関係な〜い!!
本作は、ムリヤリカテゴライズしようとするならば、
「ムキムキに近い豊満な肉体を持つ美女が、肉弾戦を繰り広げる」というジャンル(そういうジャンルがあるのです)、「女闘美もの」とか「アマゾネス系」とか言えばいいのだろうが、そのような分類が無意味なくらい独特のパワーに満ちている。

まず、絵が(お見せできないのがざんねん)「何系」というかだれの影響を受けたのかまったくわからない。
強いてあげるならふた昔前の劇画か。女の子の造形にはボインボイ〜ンではあるがちょっと少女マンガ入っているような気もする(少なくともアニメ絵の影響はゼロ)。

さまざまなモノのデザインも、宇宙パトロールだというのに古代神話的コスチューム(「宇宙パトロール」のキャップは長老みたいだし)で、しかももちろん女の子は
全員、アマゾネス風ビキニ
である。
メカも、メカというより神話上の乗り物に近く(竜頭の一人乗り宇宙船に、宇宙服もナシに立ったまま乗っているとか)、「公害で自らの星を破壊する地球人は救うべきか否か」を延々議論するところは、やはり「古代の神々」のイメージである。

しかし、パトロールのメンバー・スギ(男)が、
「おことばですがねキャップ
あっしはこの任務 イヤですぜ!!」

と時代劇みたいな言葉遣いを使ってたり(宇宙パトロールはやはり職人肌なのか……)、ナゾのハイブリッド漫画なのである。
そう、この作品は「マンガ」とか「コミック」とか「劇画」という名称より、あくまで「漫画」という表記がふさわしいような気がする。

しかも全体の展開としては、「地球人を救うかどうか」の議論が長々と続いた後、強硬に「ほっておけばいい」と主張するスギを、
「主人公・ユカが、とつぜん色仕掛けで説得する
(しかも4ページかけて)」

というあっと驚く展開となり、急転直下でお話は「続く」となる。

とにかく本作には「作者が自分の好きなモノをぜんぶ詰め込んだ」といった体の、商業誌ではぜったいに(そう、ぜったいに)味わえないサムシングがあるのだ。

その後、後編ではリサリンがひとつ目の巨人と巨大な怪魚を召還、ユカたちタイムパトロールを襲おうとするが、パトロールメンバーのマリイ巨大化、海上でひとつ目巨人との肉弾戦を繰り広げ、さらにはリサリンも巨大化して巨大化女同士のキャット・ファイティングが数十ページにわたって繰り広げられる。

「コロンブスをアメリカに行かせては、その後新大陸をめぐって多くの惨劇が起こる」ことを懸念していたパトロールであったが(なんか前半ではコロンブスの新大陸発見を止めようとしていたようなフシもあったが)、「歴史が変わる」っちゅーことでそれはできないのであった。

人類がまっすぐに進化・発展することを祈って、マリン星へと帰還するユカたちなのであった……。

コミティアに訪れる機会があれば購入、購入する勇気がなければ中身を見ることだけでもオススメする。(99.0830、00.0217加筆訂正、滑川)



・「ゲッターロボ號」全7巻 永井豪、石川賢(1991〜93、徳間書店)

世界征服を狙うマッド・サイエンティスト、ランドウから世界を守るため、新ゲッターを橘(たちばな)博士とともに開発した神隼人一佐(もちろん初代ゲッター2搭乗者だ!)。
彼は卓抜した運動能力の持ち主・一文字號をスカウト、ゲッター搭乗を命ずる。
こうしてゲッター1に一文字號、ゲッター2に橘博士の娘・橘翔(しょう)、ゲッター3に大道凱(だいどう・がい)が乗り込み、地球規模の破壊を企てる超強大な敵に立ち向かっていくのだった……。

なぜ本作が「マッスル世界」にカテゴライズされるのか。
実際、本作は「ぶっとびマンガ 電子版」のどのジャンル分けにもとうていおさまらない物語である。超人的な戦士の話ではあるが「巨大ロボ」の存在は無視できないし、かといってこのようなロボットマンガなど、そう簡単に出てくるモノではない。

あえて言うなら、「巨大ロボットの筋肉(=肉体)を
描いている」作品だと思うのだ。

もちろん、これは「エヴァンゲリオン」のようなバイオ系設定の意味ではないし、永井豪ちゃんの「キングボンバ」「獣神ライガー」などともニュアンスが異なる。

もともと、永井豪/石川賢の「ゲッターロボ」「ゲッターロボG」というマンガは、「切り裂かれた巨大ロボの傷口(!)からオイルがしたたり落ちる」描写などで、「人間が巨大ロボに乗り込む」という、アニメや特撮ならともかく、マンガではまだるっこしいと思える設定に「肉体性」を持たせてきた。
それをさらに強化したのが本作だと考えるワケである。

搭乗者自体に超人性が要求されるロボット「號」のみならず、世界各国で開発されたロボットがランドウを倒すために立ち上がる。ステルスが変形する「ステルバー」(アメリカ)、戦車をデフォルメした感じの「グスタフH24」(ドイツ)、女性のシルエットを持つ「BB5」(イギリス)、両足が超巨大な土管みたいになっている「ロボスーンT520」(カナダ)……。
それぞれがとんでもない個性を放ち、圧倒的な迫力で迫ってくる。

「ウルトラマン」や「マジンガーZ」以来、「なぜ敵は1機ずつ攻めてくるのか」、「なぜ局地戦ばかり行うのか」、「毎週壊された街はどうなるのか」など、「週1回1話完結」のために用意されたアニメや特撮の設定には、常に素朴な、あるいは意地悪なツッコミが入れられてきた。

その設定自体を「戦争の中での局地戦」、「量産型の敵ロボット」などに改変することで「巨大ロボモノ」の体裁をなんとか整えたのが「ガンダム」であり、その設定自体を保持し、「構成上の理由だけでなく、物語上の理由」を付けたのが「エヴァンゲリオン」「ウルトラマンティガ」であるということができる。
ではマンガ版「ゲッターロボ號」はどうかというと、

・「なぜ敵は1機ずつ攻めてくるのか?」……1機ずつなどで攻めては来ない。超巨大移動型基地「ドラゴンタートル」などと世界の連合軍が戦う総力戦である。
・「なぜ局地戦ばかりなのか」……局地戦ぽいのは最初だけ。後は総力戦である。
・「壊された街はどうなるのか」……どうなるのかも何も、一般市民も兵士もバカスカ死ぬ。だってこれは戦争だから……。

つまり、「一台の巨大ロボがじゅうぶんに戦局を変えてしまう、超巨大兵器による総力戦」が「號」の世界なのだ。
石川賢作品の中でも人間の「虫けら死」度合いはかなり高い。それに反し、ゲッターその他の巨大ロボ・兵器は圧倒的な「肉体性」を誇示し続ける。

アニメは未見……というか1、2回見てパスしてしまったのだが、まあ単行本にして5巻の途中までは、ギリギリ基本設定をおさえていたのではないかと思われる。
しかし、5巻の後半からは、その「ギリギリ」である「ゲッターロボ號」すら登場しなくなってしまうのだ。

「巨大ロボによる地球規模の世界戦争」というムチャクチャから、

「人間には制御不能なエネルギーを持つ本当のゲッターロボ」

が登場するというさらなるムチャクチャ(むろんいい意味)
へと物語は飛翔する。

この後、「宇宙の根源とは何か?」というようなものすごくデカい話になっていく。
石川賢の超絶的名作「虚無戦史MIROKU」と同系統の展開だと言えるが、基本設定が「アニメ向け巨大ロボットもの」であるため、そのつもりで読んでいくと飛躍というか「持っていかれ度」はすごいものがある。

「あまり知られていない作品を紹介する」という本コーナーの主旨には合わないほど有名な作品ではあるが、「どうせ巨大ロボもの」という偏見は言うにおよばず、「ガンダム」とも「エヴァ」とも違うし、やはり超絶的名作の桜田吾作版「グレートマジンガー」とも趣を異にする、驚異的作品としてここに「ぶっとび」の称号を与えたい。

現在大都社から再刊されている。(99.0609、滑川)



「カンドリ・ブラッド」 たなか亜希夫(1994、秋田書店、グランドチャンピオン14号、15号、16号〜?)

気が弱い、いじめられっ子少女の香取(鹿取? 名前失念)しのぶは、ある日プロレスラーの藤原似のおっさんから、女子プロレスのチケットを渡される。そのチケットで見た試合に出ていたのが、「女子プロ最強の『男』」の異名をとる神取忍であった。彼女の強さに感動するしのぶ。しかし観戦の帰り道、交通事故にあってしまう。どこまでも不運なしのぶ……だが、それを見つけた神取が、自分の血を輸血してくれたのだ。 以来、怒りが頂点に達すると、しのぶは神取忍に変身していじめっ子をギタンギタンにやっつけるのだった。

実在の人物に変身するという大胆さと、「怒りのあまり変身」という痛快さで非常に好きだったのだが、確か雑誌そのものの休刊で中断してしまったはず。
その後、国会図書館にも内記マンガ図書館にも該当する号の「グランドチャンピオン」がないと知り、以来滑川にとって幻の作品となり果ててしまっている。プロレスマニアの人なら、切り抜きとか持ってるんだろうなあ……。(99.04、滑川)



・「マグナム坊主」 みね武(1985、日本文芸社)

 漫画ゴラク連載。麻布・唐仙寺の住職、喜多枕成仏は、別に秘密諜報部員とかウラの仕事をやっているとか、そういう基本設定はない。普通の坊さんである。しかし、拳銃の弾を受けても筋力ではじき出してしまったり、「気巧」みたいのを使ったりマンションから飛び下りても平気だったりするので、いつも事件に巻き込まれてしまうのだ。

「マグナム坊主」という題も「ビッグマグナム黒岩先生」のように本当にマグナムを持っているわけではなく、単なる比喩である。だがそれだけものごっつい男といえるわけだ。

 「成仏その1・闘仙坊推参」では、宝石泥棒を繰り返すナチの地下組織・ラストバタリオンと戦う(いきなり話がデカい)。実はここのリーダーはケンブリッジ大学時代の同級生・寺沢だった。成仏は墓石だのお寺の鐘だのを使って対抗する。銃は使わないところがシブい。

 「成仏その2・マフィアの頭突き男」では冒頭から墓場で未亡人とヤる。「死んだ夫に私の元気な姿を見てほしいのです」って……。マフィアのトラブルに巻き込まれた成仏は、墓石を頭で割って投げつけるわ、敵の拳銃を指だけでねじ曲げるわ、ムチャクチャやって最後に頭突き男と頭突き対決。背中に墓石を背負って突進、その勢いで飛び出した墓石と頭突き男の頭が激突。頭突き男の負け。

 「成仏その3・処女と白馬の騎士」では謎の女子大生失踪事件が発生。実は邪教集団の祝祭の儀礼のためにさらわれていたのだ。M機関の情報員・ジャンヌダルクは鎧を着て馬に乗って邪教集団をやっつけるが、なん でそんなかっこうしているのかの説明はまったくナイ。美学ってヤツであろうか。ジャンヌに協力する成仏であった。

 「成仏その4・ネオ・バイキングの魔女」では世界的な美人歌手・メリシサが実はバイキングの首領。成仏はケンブリッジ大学時代の友人・ヤラブのサルバト国王の王冠の強奪に巻き込まれる。コンクリートに縛られ海に静められるが、怪力で鎖を断ち切って生還。刀すら通さぬ鉄の筋肉で、バイキングをやっつける。

「成仏その5・花と仏」では、華道の家元・華泉流の相続争いに巻き込まれる(しかしいろいろ巻き込まれるね)。強欲な姉たちから家を守りたい、と願う麻衣子を助けるが、彼女は銃で手に傷を負ってしまう。跡目は、華道の勝負「花闘」で決められるため、手が自由に動かなければ負けてしまう。麻衣子は成仏に自分の手の替わりになることを頼むのだった。

……とまあてんこ盛りの全1巻。ゴラクで連載中は大喜びで読んでいたのだが、すぐ終わってガッカリした。同時期「野獣警察」もやっていたので、忙しくて最初からその予定だったのかもしれない。原作はないから、それだけみね氏の個性がよくわかる1冊である。

「どうしたら読めるか」―古書店で比較的入手しやすい(と思っていたらいつの間にか入手困難に)。



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