つれづれなるマンガ感想文6月前半

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一気に下まで行きたい



・「週刊少年チャンピオン Vol.30」
・「コミッボンボン7月号」
・「週刊プレイボーイ」6/29
・「コミッボンボン6月号」
・「フジケン」(1)〜(3) 小沢としお(1998〜99、秋田書店)
・「ヤングマガジン アッパーズ」6/16
・「デッドマンズ・Q」(前編) 荒木飛呂彦(オールマン掲載)
・「グラップラー刃牙」板垣恵介(週刊少年チャンピオン)
・「実録 爆走族」全10巻 雄樹慶(ヒット出版、1986〜89)各480円
・「族 レディス忍」(1)雄樹慶(1990、ヒット出版)
・「湘南バトルボーイズ」(1)〜(4) 浜 連太郎(1990〜91、ヒット出版)
・「アキハバラ電脳組 パタPi!」 ことぶきつかさ(1999、小学館)
・「愛蔵版 日本極道史 昭和編」第1巻 村上和彦(1988、竹書房)
・「おいら女蛮」 全4巻 永井豪(1974〜76、1998、マガジン・マガジン)




・「週刊少年チャンピオン Vol.30」

・「バロン・ゴング・バトル」(田口雅之)
今回で最終回

なんでよ!? どうしてよ!!!??
あちこちで感想を聞いていたし、「くそナントカ」っていうセリフもよく耳にしたもんだが……。
人気がなかったのか!? そんなことはあるまい!
あきらかに打ち切りっぽいラストが気になってしかたがない。これが本当に作者の
望んだ終わり方ではないでしょうどう考えても。
納得いかないなあ。
(99.0617、滑川)



・「コミッボンボン7月号」

・「激釣人(げきちょうじん) ランカれ! ボーズ」(まんが:はやさかゆう、原作:大和海人)
先月号からはじまった、バス釣りマンガ
「バス釣りの名人がもっともステイタスが高い」第一小学校に転校してきた黒鱒坊主(くろます・ぼうず)が釣り技を見せる。
「ランカれ」とは「ランカーバス(みんなが驚くような大物バス)を釣りあげろ!」ってな意味。

本作のポイントは何といってもボーズがする「バーチャルアー」(ルアーに感情移入することによって水中のルアーの動きを完璧にイメージする)だろう。「シミュレーションマンガ」の方法論は釣りにも使えるんだね。

・「ターンエー ガンダム」(ときた洸一)
アニメのコミカライズ。
月刊ペースで、週刊ペースのアニメストーリーをまとめる苦心のほどがうかがえる。
新モビルスーツ「ボルジャーノン」(ザク)の登場でシメるところもカッコいい。

・「写ゲキBOY シュート」(まんが:一式まさと、原作:いしぜきひでゆき)
今回で最終回。
宿命のライバル・逆光寺照明との写ゲキ対決。
「相手の正面を正確に撮れるか」、飛行場での勝負だ。
う〜ん、知恵を使って勝つ主人公・秀人はいいぜ〜。

作画のヒトはメカものが得意そうなので、次回作はソレ系のが読みたいです。
(99.0617、滑川)



・「週刊プレイボーイ」6/29

・「天より高く」(宮下あきら)
「最高の大和撫子」を連れて来いと言われ、魔界からやってきた大王の次男坊・ソラが人間界で騒動を巻き起こす、
という内容で、もうずいぶん長いことやっている。

最近は「民明書房」に入社、「週刊SORA」立ち上げのために奔走している。

人気アイドル「末森良子」のバッコンバッコンのハメ撮り写真を巻頭グラビアに持っていきたいと考えたソラは、スエモリ主演の映画「ポッポ屋」の舞台挨拶に乱入。どうやら、スエモリに直接依頼をするようだ。
どうなるソラ!?

……ところでこの「ポッポ屋」という映画、鳩売りのオジサンと少女の心の交流を描いた作品らしい。

すばらしい!
(99.0615、滑川)



久しぶりに読んだ ・「コミッボンボン6月号」
(今月号でないところがメチャシブ!)の感想。

・「写ゲキBOY シュート」(まんが:一式まさと、原作:いしぜきひでゆき)
カメラホビーマンガ。
「最高の焼きそば」の極意を盗むために、カメラ少年・秀人がしかけを施したカメラで写ゲキする。

「写真を撮る」ことを勝負に結びつけなければならない苦心が見られるが、
これぞ新ホビーマンガの醍醐味と言えよう。

今月も熱くゲキるぜっ!!

・「闘神 デビルマン」(原作:永井豪、作画:岩本佳浩、(c) 永井豪/ダイナミック企画)
旧作アニメ版「デビルマン」のテイストをリメイクすることを意図とした作品(であると思われる)。
今月で最終回。
よい意味での子供向けの設定、「新デザインのデビルマン」という大胆さ、(初期は)1話完結の怪奇モノ形式、すごい描き込みの絵など、まだ通読したわけではないがコミカライズの佳品の予感。

単行本化希望(全1巻くらいの分量か)。

・「ゲームソフトをつくろう」(こーた)
ガーン。これも今回で最終回。
盛り上げや「泣かせ」のツボを心得ていた作品だけに、短期終了は惜しいよーん。(99.0610、滑川)



・「フジケン」(1)〜(3) 小沢としお(1998〜99、秋田書店)

波浜高校1年のフジケンこと富士山健作は、脳天気なスケベだがケンカはバカみたいに強い。
仲間にはシブいオッサンにしか見えない桜田紋二、サーファー系イイ男なのにブスにしか興味のない加納豊樹、正統派不良タイプ・秋山優二がいる。

彼らの、ときにはシビアにケンカしたり、ときにはのんべんだらりとした日常を描いた作品。

最初は「『稲中』ヤンキー版?」と思っていたが、こまいギャグとか、「泣かせ」の描き方とか、しみじみと才能を感じます。

とくに「コギャルを思いきりデフォルメしたタイプのブス」トモは、「マンガに出てくるブス」の基本パターンである「自信のあるブス(例:新喜劇の山田花子的キャラ)」の枠に収まらない、深みのあるキャラクターだ。
この「トモ」が秋山とつきあっていて、それをイイ男の豊樹がうらやましがるっていう図式がまずタダモノではない。
それに、小さい頃義父にレイプされて以来、極度の男嫌いになってしまった親友・マコト(女の子)をかばう義理堅い一面も持っているトモはシブいね。

マコトとフジケンの関係もなかなかにあなどれず、男嫌いのため腕っぷしが強いマコトは、同じようにケンカ大好きのフジケンに思いを寄せているが、どう自分の気持ちを表現したらいいかわからない。うぎゃあ! それじゃラブコメじゃねえか!しかし、マコトの半生とか屈折ぶりがきちんと描かれているので、
そこには深みがあるんですよ!(99.0608、滑川)



・「ヤングマガジン アッパーズ」6/16

・「渡部譲吾物語」 平松伸二
3号連続100ページ特大掲載の第1回。
「アッパーズ」はこれ目当てで購入。「渡部譲吾」は、格闘技団体「パンクラス」に所属する実在の格闘家。つまり実録モノである。だが気持ちイイほどにフィクション大爆発!
「リアルファイト」を標榜する団体のマンガがこうまですばらしく飛躍するというのは、作者、団体、雑誌が「ワカッテル」状態なんじゃないかと思いますね。
第1回は大学ラグビー部に所属していた譲吾が、パンクラスの高橋義生と出会うまでなんだけど、「世紀末覇王になりたいからレスラーになる」と語る譲吾。
ラストページの惹句(なんつーんだっけ? タタキ?)は編集者が書いてるんだろうけど、
「心・義・棒!! 世紀末こそが性器末!!
 それが時代に選ばれた男の『俺ジナリティー』!!
 次号、ケンゴの夢が加速!!」

っつって渡部譲吾が自分のナニにタトゥーを入れているところで「続く」。すばらしすぎる。

・「ちんぽ刑事」 丘咲賢作
ものすご〜くちんぽが太く長い刑事のマンガ。今回は「ちんぽVSメカちんぽ」前編。すばらしすぎる。(99.0605、滑川)



・「デッドマンズ・Q」(前編) 荒木飛呂彦(オールマン掲載)

「ジョジョ」終了後の荒木飛呂彦第1作。「犯罪者を破滅させろ」と依頼を受けたナゾの男。どうやら「普通の人間」ではないらしい。彼はなぜ「仕事」を請け負うのか? 彼が望むことは何か? そして、彼はどういう「ルール」の世界で生きているのか?男の一人称で始まる導入部で一気に引き込まれる。

本屋で「『鼻をなくしたゾウさん』というたいして売れてなさそうな本を見て……『どうして鼻なんかなくしたのか?』と気になったがすぐやらなければならないことを思い出した」(大意)なんて一人称、たまらんですよ。「小説風」なんだけど、ちっとも「小説にあやかった」って安易さがない。

この導入部から本題へ入るんだけど、「ある限定されたルールのもとでの戦い」という、荒木飛呂彦の真骨頂。今回の「ルール」は、このテの(ネタバレになるから書かないけど)モノの中では突出して斬新だと思いました。

ところで、「前編」のオチで「男」の正体がわかるんだが、何もこうする必要はなかったんじゃあないかと思うんだけど……いかが?(99.0604、滑川)

その後、知人の指摘により本作の「ルール」のひとつが某小説の設定を参考にしたもの(パクリとは言わないまでも)ではないかという指摘がありました。それが本当だとすると、その事実がマンガそのものの面白さを減じることはないにしろ、「オリジナリティー」ということに関しては「突出して斬新」というのは言い過ぎだったかもしれん。これだからほぼリアルタイム感想は苦手なんだ……。それがヘタレな私の「俺ジナリティー」だ!



・「グラップラー刃牙」板垣恵介(週刊少年チャンピオン)

「地下闘技場トーナメント編」がひとまず終了した(勇次郎がらみでまだ何かあるかもしれないが)ので、ここらで「トーナメント編」全体の感想を少し書いてみたい。

「幽遊白書」の後半、「天下一武道会」な展開に嫌気がさした作者(富樫義博ね)が「見開きでトーナメント表」をのっけておっぽり出す、という暴挙? に出た。そのトーナメント表には、「その後の展開は自分で想像してください」というポジティヴな意味合いがゼロだったとは言わない。

だが、「見ていて本当に飽きない、計算されたトーナメント表」をつくり、なおかつそれを数年にわたって本編で描き上げた、という点において「刃牙」には最大級の賛辞を送りたい。

「刃牙」でよく指摘されるのは、「人間努力次第で何でもできる」的な思想が通底しているということだろう。だがそれは、熱血少年マンガの基本でもある。

「刃牙」が面白いのは、「人間努力次第で、何でもできる。それは、通常の『何でも』という意味合い以上の『何でも』である」という風に、上限が異常に高い位置に設定されている点(つまり「ぶっとび」的要素)だ、とひとまずは言うことができる。

だが、それだけを手放しで描いてしまってはデキの悪い宗教宣伝マンガみたいになってしまう。「刃牙」の深さは、個人的に以下のセリフに表されていると考える。

「武道家ってのはさ」
「こーゆーときは不便ですよね」
「どんなに闘うことを拒否しても」
「襲われたときは身につけた技術(わざ)で闘うしかない」
「ねェ黒川さん」

(単行本第18巻、第155話「日本刀VS刃牙」)

これは父・範馬勇次郎との戦いに臨み、刃牙が居合術の達人・黒川に勝負を挑んだときに言ったセリフ。黒川は「日本刀VS素手」の戦いなど成立するわけがないと拒否するのだが、刃牙の殺気に身の危険を感じて闘わざるを得なくなる。

つまり、「人間はそのときどきに持っているモノ(根性でも、技術でも)で戦っていかざるを得ない」ということを言いたいんじゃないかと思うんスよね。どっかに。(99.0604、滑川)



・「実録 爆走族」全10巻 雄樹慶(ヒット出版、1986〜89)各480円

真夏の夜にバリバリ! 土曜の夜の天使さヨロシク!!!
 ということで最も暴走族が盛り上がった(らしい)70年代末から80年初頭の、
巻頭一円を舞台に繰り広げられる暴走族の抗争を実録風に描いた劇画。

どの程度実録なのかは不明だが、実在した(らしい)暴走族の
ステッカーがたくさん載ってたりして臨場感がある。

作者は本当に元暴走族だそうだし。

巻を追うごとに、当初かなりハードな実録調で展開した抗争劇もだんだんフィクションぽくなっていくが、
プリミティヴなパワーは最終巻まで続く。

まあ毎回毎回、対立する暴走グループだの暴力団だのとイザコザを起こしては抗争になっていく、
というおなじみな展開なのだけど、
終盤に来ると登場人物たちがコトを小さくしようとするので(あまりデカくなるとみんなブタ箱行きだから)、
それほど大きな話にはならずリアリティと物語的飛躍を折衷したような着地をしました。
この点、主人公や他の登場人物がレーサーになったりアメリカに行っちゃったり
あるいは脇役に広域暴力団の息子スゲー大金持ちがいたりといった「マンガ的飛躍」がないぶん、すごくリアルな感じはする。

それにしても謎の多いマンガであった。フラリと立ち寄った古本屋でかなりの頻度で見かけるナゾ、何版も重ねているのにその作品名を聞かないナゾ、
「爆走族」だが「湘南爆走族」ではないし、しかし少年画報社の「ヒットコミックス」ならぬヒット出版から出ているナゾ……。

このナゾを一挙に解決する方法は……そう、積ん読の「マンガ地獄変」をひもとくことだ!!!!!
本作は、「マンガ地獄変」の番長&グルメマンガ特集にまるまる一章さかれている。
ストーリーダイジェストや作者プロフィルなどはすべてそちらを読んだ方が早いので
そうしてくだちゃい。

本作は、敵対する暴走族や暴力団との抗争という描きようによっては重くなる展開が、
クッション的なベタギャグや個々のキャラクターの愛嬌によって救われている。
死人が出たりかなりシャレにならない展開のはずなのだが、読後感は意外にサワヤカである。
少なくとも元祖「実録モノ」映画「仁義なき戦い」や、同じ暴走族マンガの「ホットロード」よりも殺伐としていない。
こうした「愛嬌」はツッパリには不可分のモノであると思うし、だからこそ10巻まで続いたのだろう。

決して達者とは言えないが独特の絵、実像を知らないかぎり描けない暴走族のリアリティに、ついついひきこまれてしまう作品である。
「湘南爆走族」のバッタモンだと思ってるとソンする。読むべし。
(980922、0929、99.0316、0601、滑川)



・「族 レディス忍」(1)雄樹慶(1990、ヒット出版)

レディス忍

暴走族のレディースのマンガということで、番外編的な話かなー、番外編ってすごく面白いってことがないからなー、と思ったので積ん読していた。

そして読み始めると、
「生徒会役員もつとめる優等生・しのぶは、暴走族『幻』のメンバーにレイプされてしまう。これがきっかけで不良になってしまったしのぶは、自分をレイプした男たちに復讐を誓うのだった。」
……ってな導入部だったので、やっぱり湿っぽいつまんない話かなー、と思ったら、おもしろかった。

まず、「実録 爆走族」と同じ世界で、「爆走族」では主人公であった「和田竜次(たつじ)」(神奈川の暴走族を統べる「全日本」のリーダー)が雲上人みたいな感じで登場するのがシブい。
物語全体も、「全日本」と「幻」との抗争という「正史」が織り込まれつつ、話の中心はしのぶと、彼女を好きになってしまう「幻」の下っ端・健吾とのラブストーリー(……というにはあまりにもリアルで悲しいんだが……)になっているあたり、「爆走族」の世界を違う角度、下っ端の視点から見ている風であなどれない。

絵はなんだかレディコミ調。(99.0316、0602、滑川)



・「湘南バトルボーイズ」(1)〜(4) 浜 連太郎(1990〜91、ヒット出版)

バトルボーイズ

「実録 爆走族」の雄樹慶が、変名で描いた作品らしい(参考文献:「マンガ地獄変」)。

春介の勤める「日の出モータース」の真ん前には、タレントの卵やアイドルが多く通うという女子校「フェアリー女学院」がある。芸能部もあるこの学院は、当然美少女ぞろいだ。
いつも仕事をしながらデレデレと学院の女生徒たちを眺める春介。仕事をサボっては覗きに来る寿司屋見習いのゴリさん。そしてみんなのたまり場になっている喫茶店・DONKEYの店員・健太郎の3人が、本編の主人公だ。

ある日をさかいに、フェアリー女学院の前に暴走族が来るようになった。そこで「風紀が乱れる」と言っては暴走族を追っ払っているのが、近所の肉屋のタミさん。32歳独身、太っていて一見恐いが人情家。実はフェアリーの卒業生であり、暴走族の少年・稲妻次郎と大恋愛のすえ別れた過去を持つ。そのショックで美少女だったタミさんは激太りしてしまったのだという。

フェアリーの卒業生に、同じ思いを味あわせたくないと必死になっているタミさん。レスリングをやっていたタミさんは、タイマンならそんじょそこらのゾクには負けないが、何と言っても多勢に無勢。弱りきって春介、ゴリさん、健太郎の3人に助けを求めるが、もとよりナンパな3人には戦う理由も、勝てる自信もない。

だがそこに現れたのがタミさんの若い頃にソックリな美少女・桜子。彼女もフェアリーの生徒であり、タミさんの姪である。桜子に「フェアリーを暴走族から守って!」と頼まれた3人は、ノセられて「湘南バトルボーイズ」を結成、特攻服までつくってはりきり出す。

一方、「なぜ最近暴走族がしょっちゅう来るか」には原因があった。「よく来る暴走族」鬼面党のリーダー・石丸が、フェアリーの生徒で人気絶頂アイドルの「宮沢えり」とヤったというのだ。ゾクの集会現場にまで顔を出すえりに、暴走族たちは驚き、また「オレもアイドルとヤれるかもしんない」と、フェアリーに押しかけているというわけなのだ。だが現役の、多忙なアイドルが暴走族とつきあうだろうか?

実は「宮沢えり」を演じていたのは、えりの従兄弟で彼女にソックリの「ミミ」。彼女もフェアリーの生徒で美少女でありながらグレてしまい、AV嬢になったのだがチヤホヤされているえりに激しい憎悪を抱いており、えりのマネをして騒動を起こすことで、えりをおとしめようとしているのだった。

そんなことなどまったく知らない「湘南バトルボーイズ」は、今日も桜子の要請があれば特攻服に身を包んで仕事をおっぽり出し、フェアリーの前に参上する……。

「浜 連太郎」というペンネームは、筆者が実際「横浜連合ナントカ」みたいな暴走族に属していたかららしい。それだけでこわい。

さて、「仁義なき戦い」の影響が非常に強かった(と、思われる)「実録 爆走族」(おもしろいけど)に比べ、こちらはコメディタッチでさまざまな人物が入り乱れる、オリジナリティ度の高い作品だと私は感じる。

なにしろ「勤め先の真ん前に美少女だらけの女子校が……」という設定がふるってる。たぶん菊池桃子や原田知代が行ってた学校「日の出」がモデルなんだろう(だから「日の出モータース」か?)

それにしても、何かと話題になる「堀越学園」に比べ、「日ノ出」の名前があまりマスコミに出ないのはそういう学校方針だからか。
ま、それはいいとして、ケンカはからきしダメで度胸もない3人組が美少女に請われて強大な敵に立ち向かう、っていう過程も面白い。

いちばん「フェアリー」に興味なさそうだった「健太郎」が、「おれは強くならなきゃいけない!」と思いつめ、作品中盤からプロレス道場に入門、特訓のすえプロレス風凶悪メイク(通称:バトルメイク)をすると潜在能力が発揮され、最強に変身する。

が、そのときのことが記憶にない健太郎は強くなった自覚がなく、いじいじと悩むなんてのはまさに「意外な展開」だった。
鬼面党と敵対する暴走族リーダー「稲妻三四郎」は、実はかつてのタミさんとのロマンス相手・稲妻次郎の息子だし、彼と桜子はラブラブになっちゃうし、ストーリーには直接関係ないのにキャラ立ちがすごい「吉田先生(吉田照美クリソツ顔。当時「夕焼けニャンニャン」の司会だったからか?)」や、フェアリー女生徒ですごいブスだが自信だけは満々、という「最終フェイス」みたいな「戸塚宏子」など、濃い人物が目白押しで出てくる。

さらに、タミさんをかげながら慕う、ゴリさんの勤める寿司屋のオヤジ・善さん、むかしは颯爽としていたが今じゃすっかり落ちぶれ果てている稲妻次郎など、いろんな人物がからんで、桜子の頼みで「湘南バトルボーイズ」に入った三四郎が鬼面党とのバイク勝負で重傷を負ってしまう!

どうなる三四郎!……でもその先は知らない。
だって単行本売ってないんだも〜ん。ぐわ〜続きが読みたい〜。(99.0410、0602、滑川)



・「アキハバラ電脳組 パタPi!」 ことぶきつかさ(1999、小学館)

アニメのコミカライズ……といっていいのか、メディアミックスというかなんというか。なんかプロジェクト全体が私の周囲ではさんざんな評判であり、その理由も理解できるような気はしますが、なぜか好きなんだよね……。

アキハバラ第三中学校に通う1年生・花小金井ひばり、東十条つぐみ、桜上水すずめなどなどの面々が、電脳ペット「パタPi」を奪いに来る悪人と戦ったりする物語。

えーと、私はアニメの方は初回を見逃してしまったんで比較しづらいんですけど、マンガ版の方では「パタPi」がどのように子供たちに受けとめられているかが描かれている。この世界の子供たちは、ほとんどがこの「パタPi」(要するにロボット)を持っているのだが、

(脇役の子の「マルちゃん」というパタPiが、何者かに壊される)
「うえぇぇん マルちゃんがぁ」「おーよちよち かわいそうに……」「あー こりゃもう直せないだろうなぁ」「これって昔のパタPiだから 水に弱いのよねェ」「でも モノは考えようっていうじゃない!!」「そうそう 親にたのんで 新しいのを買ってもらう いいチャンスよ!!」
……意外にもドライなのである。

しかしひばりは、「う…… ううっ うう…… う…… うぇ…… ううっ」<注:泣き声です
うわぁあぁああぁあ
「うえ〜〜ん そんなのかわいそうだよォ」「そんなんで…… そんなんでお別れしちゃったら パタPiたちがかわいそうだよォ」「うぇっ…… うう〜〜っ うわっ…… うう〜っ うわぁ〜ん」
と叫んで、みんなが驚く。

そう……花小金井ひばりこそ、自分のミニ四駆が壊れたときに号泣する、コロコロホビーマンガの主人公たちの女の子ヴァージョンなのだっっ!!(断言)

かんじんのお話なのだが、冒頭「丘の上の王子様」が出てくるシーンで、「そうか! 『なかよし』連載だったということは、『キャンディ・キャンディ』へのオマージュなのかっ!」と思ったり、前出の「パタPi」に対する概念が描かれていたりといった快調な滑り出しから、月刊ペースのためかうまくシナリオをはしょったり改変したりといった腕を見せつけられたりという流れで面白いんだが、後半、打ち切りになったのか何なのか、ネームだけでストーリーの説明をしていてちょっと苦しい。

でも好きなんだよ!
(99.0323、0602、滑川)



・「愛蔵版 日本極道史 昭和編」第1巻 村上和彦(1988、竹書房)

本書は「愛蔵版」である。もともとは日本文華社(現在の「ぶんか社」)から出ていたが、竹書房に移したらしい。本書の初出の記述は、奇妙なことに何号〜何号と日付まで書いてあるのに、肝心の出版年度が書いてない。ナゾの任侠マンガである。が、「作者が劇画家生活20周年を迎えた」、「もっとも初期の作品である」とあとがきにあるから、70年頃の作品なのだろう。

本書収録の「残侠の盃」は、旧勢力となり解散してしまった風間組長の息子・風間英樹が、刑務所内で兄弟の盃を交わし後に死んでしまった清水誠治郎へ「義理」を通す、ということにこだわり続けるストーリーである。
風間は最終的に風間組を復興させ、今は亡き誠治郎の墓前で彼を幹部に加える旨を伝える。

風間組の復興や、ハメられて死んだ清水への復讐、というドラマはあるものの、それは主流ではなく、根底に流れるのは「死者への義理」ということであった。生者を殺すことよりも、死者の今生での復権を唱えている点において、私にとっては珍しいとも言える任侠マンガだった。

もう1編の「殺しの仁義塚」も、やや複雑な経緯はあるものの、親分衆の陰謀にはまり死んでしまった舎弟の復讐に立ち上がった男の物語だ。
基本的には「仁義なき戦い」以前の様式美の世界を追求した東映任侠映画と、思想的に通底しているのだろう。

さて、この「日本極道史」、昔から古本屋に大量に並んでいることがある、私にとってナゾの作品であった。マンガ史的にも、マニアや評論家からはほとんど無視されてきているといっていいと思う。しかし、早くから本作に言及しているヒトがいた。評論家の呉智英だ。まだほとんど読んでいないのだが、通販で「挑発するマンガ達 呉智英バトルトーク」という同人誌を購入した。以費塾(呉智英の論語の塾)のOBがまとめた本らしい。この中に、「日本極道史」についての記述が出てくるのだ。

呉智英は、「馬鹿(バロック)なマンガ」というカテゴライズを提唱していることは、以前から知っていた。何やら作者の情熱が過剰なまでにほとばしり出るような、ファインアートの観点からははみ出してしまうパワーを持った作品群のことだ。
彼があちこちで紹介しているのは、ビッグ錠作品や横山まさみち作品、「野望の王国」等々だが、本作「日本極道史」もその観点から語っている。

コマ運びなどのせいかかなり読みにくかったため、1巻を読んだ段階で、この読みにくさでこのまま続くとするとちょっと辛いな、続き読むのやめようかな、とも思ったのだが、前述の「挑発する……」によると「最初は読みにくい」ということだったので後には読みやすく変化していくのかもしれない。とにかく、サムシングを与えてくれる作風であることは間違いない。

作者の村上和彦氏は、かつてやくざ社会のかなり近くにおり、「任侠道」のなんたるかを伝えたくてマンガ家になったらしい。現在も任侠マンガを執筆し続けている。
(99.0410、0602、滑川)



・「おいら女蛮」 全4巻 永井豪(1974〜76、1998、マガジン・マガジン)

週刊少年サンデー連載。ものすごい暴れん坊・女蛮子(すけ・ばんじ)は、数々の暴力事件が元で凡倉中学を退学になってしまう。で、しょうがないので私立女尊(あまぞん)学園に転校するが、その際に「蛮子」という名前を「ばんこ」と読み間違えられ、女の子として入学してしまう。しかし女子更衣室が覗けるなどの特典? があるので、むしろ大喜びで(スケバンとして)あいかわらずケンカにいそしむ蛮子なのだった。

この蛮子の両親も元不良でケンカがめちゃくちゃ強く、親友の男男子(だん・おとこ。すごくカワイイ女の子)の家は暴力団。2人は理事長の娘にして学園を支配する豹絵里座(ひょう・えりざ)と対決することになる。……ってな話なんだけど、意味ありげにバラ巻かれた伏線はまったく始末されないし、なんのために出てきたのかわからないキャラクターも続出、結末ももっともおもしろくなりそうなところで終わってしまっている。しかしギャグマンガのせいか不思議と疑問は起きない。いつもながらのいい意味での豪ちゃん節である(ま、これがストーリーマンガだと「おいおい!」ってときもありますが)。

そもそも、永井豪って作劇の方法が根本的に違うのではないかと疑わしくなってしまう。なにしろ、蛮子が女尊学園に入学するまでに120ページ以上をかけているのだ。

もし同設定で現在、週刊誌で連載するなら、基礎となる設定にいたるまでせいぜい連載の第1回を使うくらいではないだろうか。しかし「だらだらしてる」「ねちねちしてる」と感じられないところが、「永井豪の作風」なんだろう。

本書はマガジン・マガジンという会社のJUNE COMICSから再刊されている。JUNEったらあのジュネだよね? マガジン・マガジンからは、「永井豪けっこうランド」というMOOKも刊行されている。これが断片的な(すでに市販されている)永井豪作品の再録から構成されている、まあ一見安易なツクリの本だ。しかし「けっこうランド」は「女性から見た永井豪のH」という視点でつくられた本だし、女装(服装倒錯)を扱った「おいら女蛮」が同社から再刊されたとなれば、「女性から(これは『JUNE的なものが好きな』、と但し書きが付くのかもしれないが)見た永井豪」という点において、独自性を持つ企画であると私は考える。

話を「おいら女蛮」に戻す。本書は「ハレンチ学園」(1969〜74)、「あばしり一家」(1970〜73)、「イヤハヤ南友」(1975〜76)、「けっこう仮面」(1976〜78)などのややコメディタッチの永井豪H系ヴァイオレンスマンガ(としか言いようがない)の中で、もっともサツバツ感が少ない、のんきな印象の作品である。たいした残酷シーンがなく、ハダカも一見たくさん出ていそうで、ふだんからハダカで歩いているようなヘンなヤツらばかり出てくるのであまりHな感じがしない。
ヒロイン・男子ちゃんなどは最後までオールヌードにならないし。もしかしたらサンデー側の要請だったのか?

また中島梓もあちこちで指摘していることだが、永井豪作品の特徴のひとつは「家族愛」にある。蛮子一家の生活が学園モノでありながらひんぱんに描かれるのも、作品全体をマイルドにしていると思う。

なお、作中のお色気担当要員だった蛮子の母(小学生で結婚、中学生で蛮子を産んだ)・女蛮千代(すけ・ばんちよ)は、OAV「新・キューティハニー」で早見団兵衛の息子の赤カブの妻・大子として登場している。
「大子」という名のキャラクターは「あばしり一家」などに出てくる別のキャラクターなのでややこしいが。(99.0114、0602、滑川)

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