机上の歴史。






僕が仕事で使っている机は、1981年の中学校入学と同時に父親に買ってもらった机です。
あれから35年が経った今でも、この同じ机を使って作品を描いています。
何の変哲も無いごく普通の勉強机ですが、プラモデルを創ったり、好きな女の子にラブレターを書いたり、
イラストや漫画を描いてきた想い出深い机です。
もちろん、麻理果を初めて描いたのもこの机でした。

絵や文字を描くのが好きな人にとっては当たり前のことですが、
机というのは情熱と倦怠と挑戦と悔しさの記憶が日々染み込んでゆく場所です。
そう感じた10代の半ば頃からこの愛用机の上や机の周辺を写真で撮り、
その都度の思い出として個人的に残していたのですが、ここでは
そこに写る愛用机と周辺の小物から、当時の情景を綴ってみました。

東京都足立区にある家の、僕の部屋。
持ち主は大阪に住む両親で、これを撮影した1995年当時は
空家になっていました。(カーテン越しに「貸室」と読めますね)
この家には1981年、僕が中学1年生の
4月〜11月まで住んでいました(12月に九州・博多に引越した)。
勿論ここには写っていませんが、当時はこのカーテン(窓)に接して机があり、
その明るい日差しが差し込む中で、よく女の子から貰ったラブレターに返事を
書いていました。今の僕の姿からは考えられませんが、当時の僕はとても
女の子にモテたのです。毎月、最低でも1通はラブレターを貰ってました。
僕も机も、まだまだ初々しい新品の頃だったんですね。
また、当時はこのカーテン(窓)の反対側(つまり、机の後ろになりますね)に、
アップライトのピアノが置いてあり、この年の夏休みに当時付き合っていた女の子を
この部屋に呼び、机の上に座らせて、その彼女の目の前でベートーヴェンのソナタを
ピアノで弾いて、静かに愛を語った事もありました。
気恥ずかしい記憶です。
1986年4月頃の机の上。千葉県・浦安市のアパートです。
ここに引越してきたのは同年の3月24日だったので、
たぶん引越ししてきた直後の写真だと思います。
この椅子は、中学生の時に通っていた塾でタダで貰ったもの。
その椅子の左下には銀色のビニール袋が写っていますが、
これは貸しレコード屋「友&愛」の袋。何のレコードを借りていたのでしょうか。
椅子の右には白い物体が写っていますが、これは電気温風ヒーターです。
このアパートはディズニーランドの近くでして、
当然の事ながらあの辺りは埋立地で周りに何も無く、
しかも海辺に近いアパートだったので、4月でもすごく寒かったのです。
左の壁に映っているのは、ポストカードとカレンダー。このカレンダーは、
1985年の冬のコミケで買った同人もので、江口寿史さんの様なポップなイラストが
気に入って、今でも捨てずに持っています。
机の上を見ると、漫画の原稿用紙が散らばっていますね。
この写真では原稿用紙に何が描かれているか分かりませんが、
少なくともこの頃はまだ麻理果が現われる前なので、
描かれている女の子も麻理果では無い筈です。
写っているカレンダーを見ると分かりますが、1986年7月の机の上。
高校は1年で退学したのですが、まだ将来の目的意識を
明確に持っていない頃でもあったので、
塾に通って大学入学資格検定試験の合格を目指していました。そのせいか、
机の上には参考書とか問題集のプリントがゴチャゴチャと散乱しています。
というのも、この大学入学資格検定試験は、毎年8月の初旬に行われるからです。
机の周りを見ると、横の壁、敬愛するベートーヴェンのポートレートの右下に、
縦に亀裂が入っているのが確認出来ますが、これは何かに腹を立てて、
思わず壁をブン殴った時の痕跡です。まさか壁に穴が空くとは思いませんでした。
でも、こうして勉強している振りをしていながらも、ちゃっかりと参考書の上には
描きかけの原稿用紙が載っていますし、パイロット製のインクも写っています。
勿論、描く事は好きだったのですが、まだ漫画家になろうとは思っていない頃でした。
1993年12月頃の机の上。上の写真と見比べるとかなりヒドイですね・・・。
既に商業誌デビューをして、すぎむらしんいち先生のアシスタントをしながら
ちばてつや賞を授賞し、ヤンマガからアフタヌーンに移って頑張っている頃です。
ちば賞のパーティで描いて戴いたちばてつや先生の色紙や、
講談社のパーティで描いて戴いた永井豪さんのサインも写っています。また、
師匠のすぎむら先生の単行本「サムライダー」も写っていますね。
スタンドライトの位置が左に変わり、ピンナップも貼り付け放題で、
壁には敬愛するベートーヴェンが消えて、何故か宮沢りえが居ます。
宮沢りえの隣には、大好きなバンド「JAPAN」のデビッド・シルビアンの
白黒ポスターが貼られ、机正面の壁には「LEMONHEADS」の10インチEPと、
ジャケ買いしたスコーピオンズの「VIRGIN KILLER」が貼ってあります。
また、オレンジ色の楕円定規の横に置かれている原稿は、ほぼ間違いなく
「浮気の代償」 (単行本『天気輪の丘で視た世界』に収録) の最後のページ。
まだ下描き段階で、作業途中ですね。
また、僕はかなりのヘビースモーカーなので、上の写真の頃と比べると、
煙草のヤニで壁も黄色く変色してしまっています。
・・・まったくヒドイものです・・・(^_^;)


2000年4月15日の様子。
浦安から引っ越して、足立区・西新井に住んでいた頃の風景です。
引出しレールも折れ、落書きやプラモデルのパテで表面もボコボコ、
ゴワゴワに汚く、ペーパー糊が化石化した痕や、
へばり付いて剥がれないカラートーンやスクリーントーン、
カッターナイフの傷跡と、とにかくボロボロです。(このページの一番上の写真参照)
でも、やはり愛着があるんですね。
どうしても他の机では駄目なんです。漫画・スヌーピーの世界に例えると、
ライナスがいつも肌身離さず持っている、あの汚い毛布の様なものかもしれません。
でも、僕は今までもこの机で麻理果を描いてきたし、この先もこの机の上で
麻理果の世界を紡ぎ出して行くつもりです。





2002年1月26日に撮影した時の様子です。
この家に引っ越してきて7年目ですが、ステレオが壊れたのを機に
初めて部屋の模様替えをしました。上の写真の、2年前の部屋の状態が
つい昨日まで続いていたのですが、見比べると以前のステレオが無くなって
トレス台が机の横に付き、その横に新しく買った小さなステレオ君が居ます。
以前のステレオはレコードも聴ける大きなものだったので、それを退けたら
部屋が凄く広く感じる様になりました。

写真に映っている部屋の中の小物について補足すると、
窓の上のカーテンレールに載せてあるサインは
すぎむらしいんち先生と、ちばてつや先生のサインで僕の宝物です。
どちらも講談社ちばてつや賞の授賞式の時に戴いたものです。
チロルチョコの販売ケースは1年程前にネットオークションで手に入れた物で、
鳥取県のケーキ屋さんから譲って貰いました。
椅子の下の汚れは、消しゴムのカスが化石化したもの。もう取れません。(^_^;)

音楽CDは机の上の棚と、机の後ろの棚にもありまして、全部で1000枚程度あります。
このうち、約400枚がキング・クリムゾン、約150枚がエイジア、約50枚がクィーンでして、
この3バンドが所有量の半分以上を占めている為に、
その他の音楽は実は殆どありません。

トレス台は10年近く前に買ったものです。2つ上の、1993年12月の写真でも
机の上に乗っているのが確認出来ます。
(当時は買ったばかりなので、まだ表面の茶色いシートを外していませんが)












離婚後、引越しをした場所での仕事机の様子。2002年〜2004年頃です。
勿論この愛用机も一緒に転居し、ここでも毎日使っていました。
この住居は杉並区の閑静な住宅街の鉄筋アパートでしたが、全3部屋に押入れ等の収納が一つも無く、
オモチャやLPレコードやアーケードゲームの基板など、棚に収納し切れないかさばる荷物は
アパートの地下に設置されたトランクルーム(有料。家賃とは別料金)に入れていました。
これらの画像からも、収納場所が無い為に机の周りがいろんな物で物凄く混雑しているのが
よく分かるかと思います。

御覧の通り、この時の僕の仕事机は日当たりが良い窓際に設置していました。
結婚していた当時の足立区での住居(上段で載せている部屋の時)は環状七号線のド真ん前で
24時間ずっとトラックやバスの走行音がしたり、集合住宅だったので子供がギゃーギゃーと
わめいたり、ドタバタと廊下を走り回る奇声が実にうるさかったのですが、
離婚して転居したこの住居は一転して静かで、朝になると窓の近くで
いろんな野鳥の鳴き声が聞こえるのでした。怒号や交通音や子供のカン高い奇声が全く無い、
野鳥の鳴き声が雑音無く聞こえるその静けさが、当時の僕には嬉しかったのを覚えています。

ただやはり、収納能力がほぼ皆無という点だけはゲンナリでした。(+_+)
離婚が決定して早急に引越しをする必要があった為にゆっくり物件探しをしている時間も無く、
候補に挙がった物件から半ば強引に決めたという経緯があったのですが、
3DKで押入れ・天袋などの収納が一つも無いってやっぱり変ですよねぇ。(+_+)
漫画を描くという点でも、この机の画像を観て戴ければお分かりの通り
原稿用紙1枚置いたらもう終わりという作業スペースの異常な狭さには辟易していましたし、
今見ても、よくまぁこんな狭い机の上で絵を描いていたなと思います。

ちなみに、上から2枚目の画像の、机の上に写っている下描き原稿は、
たぶん「しくだい」の冒頭の方のページじゃないかと思います。
実際にこの原稿を仕上げたのは下段の住居に転居した後だった筈なので、
たぶんこれは引越しの直前(2004年9月後半頃)に撮影した写真だと思います。











そんな上段画像での、収納能力ほぼ皆無の住居から転居したのが
つい先日まで住んでいたこのマンションです。
JR西荻窪駅のド真ん前で、画像を見ても分かりますが
机の前の窓からは駅のホームが丸見えでした。
これだけ駅(というよりホーム)から近い為、
この住居では始発が到着する早朝4時36分から深夜1時半頃まで、
ほぼ24時間ずっと「○番線に○×行きの電車が到着します」とか
「本日もJRを御利用戴きまして誠に有難う御座います」等のアナウンスと、
電車発車時のメロディ(発車ベル代わりの、駅によって違うあの電子メロディ音です)が
聞こえました。

机は勿論まだ現役ですが、入居時に机の両サイドを本棚で囲んで配置してしまった為に、
椅子に座ると(左右の視界が遮られるので)妙に窮屈な印象がありました。
これに加え、本棚が机に隙間無くピッタリと張り付いているので、
絵を描く作業をすると左肘が左側の本棚に当たってしまうのも辛いところでした。
まぁ、それでも作業スペースを確保することさえ難しかった前の住居(上段の項)での
机の状態よりは数段マシでしたけど。(^_^;)

建物の4階のせいか風通しも良く、画像を見るとお分かりの通り窓の外は
隣の建物の屋上に設置されたちょっとした庭園もあり、なかなかお気に入りの仕事場でした。
しかしながら築40年だか41年という、現在の僕よりも年上のマンションだったので
やや老朽化した感が否めない点もあり、滞在期間4年で去る事になった訳です。
部屋に剥き出しで迷路の様に敷かれた水道管とか、異常なほど狭いトイレとか、
構造を無視して取って付けた台所の収納など、いかにも「昭和40年代の、
高度成長期の古いマンションでございます」という、ユニークな住まいでした。(^_^;)

掲載した写真は、引越し直前の2008年9月29日〜10月7日の間に撮影したものです。










練馬区・大泉学園に移った現在の机周りの様子。
2008年11月5日と6日、引越し後ほぼ一ヶ月目に撮影。
引っ越し終了後、片付けて掃除したてのところなので、現在はこの様に綺麗に片付いています。
・・・が、これから数年経ち再び引越しをする頃には一体どうなっていることやら。(^_^;)

愛用机はもちろん現役です。今回は机の左側にパソコン台を設置して表面積を増やし、
机一面を広く使って作画作業がし易い様にレイアウトしました。
うーん、こんなに広くこの机を使えるのって何年振りだろう?
過去の写真を見ても分かる通り、机の上にCDラックを置いたり、PCを置いたり、
両側を本棚で塞いだりと、ここ数年間はずっと狭苦しい机のレイアウトだったので、
この広さがなんとも嬉しいです。

机の前の、右上の壁に飾ってあるのはスウェーデンの現代プログレ、
アネクドテン(ANEKDOTEN)の4thアルバム『Gravity』のLPレコード盤。
CDリリースされた2004年頃に特別プレスされた物ですが、非常に幻想的で
秀逸なジャケなので、大きい盤で部屋に飾りたくて当時買いました。
パソコン台に置いてあるのは映画スターウォーズに登場するボバ・フェットの戦闘機・SLAVE-1と、
BMW2002ターボ・レーシングのプラモデル(の箱)。どちらも30年ほど前の未組み立てのプラモで
いつか創る為に置いてありますが、箱の絵とデザインが素敵なので飾ってあります。
また、BMW2002レーシングが置かれている棚の中段には何も置かれていませんが、
ここはペン入れした原稿の置き場なのでわざと場所を空けています。

そんな訳で、まだまだ僕の机は現役。
広くなったこの机で、これからもずっと麻理果を描いてゆきます。



※オマケの画像※

現在の本棚の様子。
たぶん漫画好きの人は誰しもそうだと思いますが、他人の本棚ってどんな本が
収納されているのか興味あるものですよね。
なのでここでは僕の、2008年12月現在のメイン本棚の様子を載せてみました。

本棚はこの他にも2つあるのですが、一番よく使うのはやはりこの黒い本棚。
約20年ほど前、千葉県・浦安市に住んでいた10代の頃にバイトしたお金で買ったもので、
全く同じ本棚を2つ、横に並べて使っています。

僕は、いわゆる漫画の単行本はたぶん全部合わせても200冊程度しか持っていません。
漫画好きの人からするとかなり少ない方だと思います。
その代わり雑誌や大判の本はそこそこの数があって、
資料としてどれだけ活用できるかに力点を置いているものが多いです。
まぁ、友達同士でお互いの家や部屋を観る機会が日常的にあった子供の頃ならともかく、
大人になればなるほど他人の本棚を見る機会なんて滅多にありませんから、
昭和44年3月生まれの、大きなお友達の家に遊びに来た感覚で御覧になって戴ければ
面白いのではないかと思います。(^_^;)

※注意※
画像を観て収納物が何なのかきちんと確認出来る様にしたので
かなり画像サイズがデカいものを複数枚連続して掲載しています。
表示に多少時間が掛かるかもしれませんが、御了承下さい。m(__)m