「勝負! 勝負! とにかく何でも勝負!」2

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一気に下まで行きたい

  この地区は、「勝負! 勝負! とにかく何でも勝負」その1に引き続き、とにかく人生におけるモロモロを何でもかんでも「勝負」ととらえる地区である。朝顔を洗う速さから成人してからどれくらい背が伸びたかまで、これすべて勝負と考えるのである。
だがそれは「人をおしのけてでも」という一種の世知辛さを表すというよりはずっと、「なあなあ」でコトが進んでいってしまうという「現実」への異議申し立てである。己の知恵と力を全開にすることへの解放である。
少なくとも、そう新田五郎は考える。
結果、肉体の自己主張という意味において「マッスル超宇宙マッスル超絶マッスル世界」とも連関し、「勝負」での超人性の表現という点において「スーパーナチュナル超・超人伝説スーパー」とも連関する地区だが、ここでは主に、「勝負」そのものの過激さ、宇宙感覚に重点を置いた地域づくりが行われている。




・「グルマンくん」全4巻 ゆでたまご(1995〜96、角川書店)
・「ジャンロック」 高橋のぼる(2002、「近代麻雀」5月15日号、Vol.412、竹書房)



・「グルマンくん」全4巻 ゆでたまご(1995〜96、角川書店)

グルマンくん

・グルメ1「飯盛小学校の決闘」
・グルメ5「北国より愛をこめて」
・「グルマン・キッズ・レース」

・グルマンくんキャラクター名鑑

月刊少年エース連載。不思議なことに、ゆでたまごのマンガは「キン肉マン」以外の作品もほとんど同じ方法論で描かれているのに、強烈な「ぶっとびオーラ」を放ってしまう。「キン肉マン」でのぶっとんだ展開が「キン肉マンだから」という理由である程度許容されるのに対し、他の作品は「なんでこうなるんだよ!?」と激しいツッコミを入れたくなってしまうのである。
逆に言えばなぜキン肉マンが「キン肉マンだから」として許されるのかというと、「キン肉マン」というシンプルすぎるタイトルとキャラクター、そして「超人がプロレスする」とひと言で説明できる簡単な基本設定にある、のかもしれない。理解しやすいのである。

そうしたゆでたまごマンガの面白さは、いろいろな意味で味わい尽くされたとは言いがたい。そう言う私もぜんぶ読んでるわけじゃないし。今回は、そんなゆでたまごの描くグルメマンガのお話。
まず、いくつかのすごすぎるエピソードを紹介したい。

・グルメ1「飯盛小学校の決闘」
陶芸家で美食家のじいちゃんの英才教育により、小学生にして天才グルマン(食通)となった食井(たべい)カンロ、通称グルマンくん。彼は学校で、あるいは行く先々で人々においしいもの指南をするのであった。

毎週水曜日は、クラスでの「弁当バトル」の日。みんなで自分のお弁当を自慢し合う。弁当を開くとラモスの絵になっている「Jリーグラモス弁当」や、みなとみらいをパイでつくった「横浜みなとみらい21 ミートパイ」などの弁当が競い合う中、何と言っても注目の的はグルマンくんとフランス料理屋の息子・味本魚菜(あじもと・ぎょさい)くんのお弁当対決。
2人の弁当は、弁当といっても30人前くらいある巨大なもので、みんなに分けてあげるのだ。もはや弁当とは言いがたい。
で、グルマンくんは「世界一のお山エベレスト登頂チキンライス」を出してくる。チキンライスでできた巨大なエベレストに、電動で生卵の登山者が登っていくと頂上で自動的に割れ、内部のガスバーナーにより熱せられてオムライスになるという、その場で食っても暖かくてうまい大がかりな弁当だ。

グルマンくんと魚菜の弁当対決はエスカレートするばかり。そんな中、与輪木くんはお母さんが病気で寝込んでいて、ばあちゃんが代わりに弁当をつくってくれているのだが、梅干しばっかり積めこんだ貧乏くさい弁当。それをジャイアン風キャラの河馬野くんにバカにされる。
与輪木くんのような、質素な弁当しか持って来れない子もいることを知ってガクゼンとするグルマンくんは、「みんなで楽しめる弁当」を目指して秘策を練るのだが……。

とりあえず展開そのものについては後回しにして、魚菜の持ってきた「バターライスでできた空港に、ラジコンを仕込んだ霜降牛肉でつくったボーイング747が着陸する」という発狂した弁当「関西国際空港弁当」(←これをクリック)を見て欲しい。発狂してるから。

見ましたか? これについては、まあこれはこれで。

で本編なんだけど、第1話に本作の少年マンガとしてのポイントがすべて揃っていて、後のエピソードを見ても、
・貧乏人
・一般庶民
・実直な人・努力家
・子供
・柔軟な発想

……といったことどもが、最終的には報われる展開になっている。マジメな話になるがこれは少年マンガとして語るうえで重要な点で、いくら派手な必殺技やかわいい女の子を揃えても、いったい上にあがっている要素を作者がどう料理するのか? について、何も考えていなかったりブレがあったりする作品は決して傑作にはなりえない。
本作では上記の要素が「報われる」ことに対してまったく迷いがない。それが本作の勢いが最後まで失われていないことの理由のひとつでもある。
作者のゆでたまごはこの辺はたぶん非常に意識している。単行本第3巻「グルメ12 失われたマツタケ」では、「弱い者が報われる」パターンがキレイに逆転して、キノコ狩りに行ったグルマンくん一行の中で、弱者の与輪木くんが徹底的に不運な目にあうというやや意地悪なギャグマンガになっている。このあたりはギャグ作家としてのゆでたまごの価値相対感覚も見えて、ちょっと面白い。

第1話の話に戻ると、グルマンくんが考えた「みんなで楽しめる弁当」には、与輪木くんの梅干しが必要になってくる。バカにされいてたものがいちばん重要な要素に逆転する。こういうのは率直に盛り上がるのであった。

・グルメ5「北国より愛をこめて」
本作は、回を追うごとにまともな料理対決になっていく。まあ読む側が慣れて来ちゃうってのもあるが。だから、ぶっとんだ展開や料理は初期のものに多い。
この回では、東北から田力雪男(たぢから・ゆきお)(注:モンスターの雪男ではない。ゆきおという名前)という少年が転校してくる。雪ダルマみたいに太った田舎者風のやつで、両親が共働きのため小さい妹の耕子を背中のバッグに入れて学校に連れてきている。
最初は田舎者だとバカにしているクラスのみんなだったが、雪男の手間をかけたシンプルなおむすびの美味さに驚く。
しかし、肉を食いたがる妹をはりとばす雪男

彼は塩むすびにタクアンといったシンプルな和食を愛し、なおかつ自分の炊いた米に自信があるあまり、妹が他人の持ってきた肉を食いたがるなど許せないのだった。 その横暴さにガマンできなくなったグルマンくんと雪男は1対1の弁当バトルをすることになる。料理の素材はご飯。

ご飯勝負だから並のアイディアでは雪男に勝てない。考えたグルマンくんは、カンロ特製化石発掘洋風押し寿司を考案。地層がいろんな食材で再現されているという、発狂弁当である。

ちなみに地層の内容は、酢めし、生ハムメロン、酢めし、キングサーモンのたたき、酢めし、フォアグラのソテー、酢めし、コンビーフ、酢めし、といったぐあい。その中に化石として骨つきカルビ、伊勢エビ鬼ガラ焼き、エスカルゴのニンニクバター焼きなどが入っている。

ティラノ

さらにタマゴの化石からティラノサウルスが生まれ、地層をよじ登っていく。
「中にモーターが仕かけてあるのよ」
そんなんで動くんか!?
とにかく、押し寿司の上に立ったティラノは咆吼してから口から大量のフライドポテトを発射。寿司の上に敷き詰められるポテト。その後、ボタンを押すと熱によりティラノは溶けてしまう。それにしても複雑な動きができるティラノだ……。
「そのティラノの体はハンバーグの具で作ってあるんだ」
モーターを取って、ポテトと溶けたハンバーグが寿司の上に乗った状態で、完成!
面白すぎる地層押し寿司に、完全に心奪われる耕子。

「育ちざかりの耕子ちゃんには好きなものを食べさせてあげなよ」

グルマンくんの意見は正論すぎる!
「カ……カンロくん ワシの負けだべ」
ガックリ膝をつく雪男。
ド正論で雪男を説得し、まだお子ちゃまである耕子を引きつけて、勝利するグルマンくんであった。

・「グルマン・キッズ・レース」
この後、グルマンくんは「料理の超人」というテレビ番組に出演したり、和風イタリア料理に挑戦したり、焼き肉VSステーキバトルで焼き肉の方に力を貸したり、インスタントラーメンVSラーメンバトルでインスタントラーメンの方に力を貸したりする。

単行本第3巻「グルメ13 グルマン・ウォーズ」から、「食井家家督争奪グルマン・キッズ・レース」編となる。慢心したグルマンくんを食井家の後継者にするわけにはいかないと考えたじいちゃん(いつの間にか、食井家はすごい食通の名門という設定になっている)は、グルマンくんを一時的に勘当して「グルマン・キッズ・レース」を開催。グルマンくんも含め、このレースで天才料理人を競わせ、その優勝者からあらためて後継者を選ぼうという計画である。
要するに、ジャンプ的なバトルものになっていくわけです。ちなみに、貧しい与輪木くんがヒドい目にあって、グルマンくんがそのおぼっちゃまぶりを発揮する「グルメ12 失われたマツタケ」が「グルマン・ウォーズ」編の直前のエピソードにあたり、「慢心したグルマンくん」という設定としてちゃんとつながってるわけですね。

食井家の敷地内にある「御馳走タワー」の内部で繰り広げられる料理勝負ということで、確かにトッピではあるけれど、お膳立て自体がトッピなのでもうどんなに変な料理人が登場してもあまり驚かない。それに、毎回の料理バトルもけっこう考えられていて、コレは普通に傑作な少年マンガだと思います。
最終決戦のお題や、キャラクターの心理描写(っていうほどでもないんだけど)もきちんと描かれていて、打ち切り的な感じはまったくしない非常によくまとまったマンガになってます。

とくに最終決戦は燃える! それについて語りたい。でもネタバレになるのでやらない。
時期的にこのあたりは掲載誌でエヴァンゲリオンがすげー盛り上がっていた時期。だから多くの人が読んでいるはずなんだが、なぜエヴァがいまだに語られてグルマンくんは語られないのか。案外、みんな意地悪でおれに教えてくれてなかったんじゃないの? こんなに面白いマンガ。いや、当たり前になってるときっちり面白いと思われてて、そのまま語られもせず消えていく作品っていうのもありますからね。
でもエヴァと同時期にやってた、っていうのはこの際はっきりしておきたいですね。
(02.1011)



・「ジャンロック」 高橋のぼる(2002、「近代麻雀」5月15日号、Vol.412、竹書房)

エネマグ蘭子

「近代麻雀」掲載の50ページ読みきり。
たぶん「ぶっとびマンガ」の基準を理解していただいている方々は、本作のレビューを私が書くことを予想していたと思う。それだけ私の想定している、漠然とした「ぶっとび」の基準に非常によく当てはまってしまう作品を描くのが、本作の作者である高橋のぼる先生だ。
劇画再評価的な活動をしてきたライターの大西祥平氏と高橋氏が「大門寺さくら子」でタッグを組んだときも、「ああ〜、やっぱりこういう組み合わせになるんだなあ〜」と思った。
冗談と自覚しつつ、それでいて本気の何かを訴えかけるような作風は、過剰に真剣ぶって見せたり、あるいはふざけて見せたりと言った過程をひととおり通過した現代にマッチしているように思える。そういう意味では、高橋氏は今日的な作家だと言える。

……日本最南端に位置する赤午島に、最強のプロ雀士養成所「龍(ドラ)の穴」があった。主人公・麻田雀平はここを抜け出したが、龍の穴・宗家であるミスターZは彼に3人の刺客、「龍待(ドラマ)チックエンジェル」を差し向けた。
麻田雀平は、リーゼント風髪型にぶっといモミアゲ、派手な革ジャンにバイクという「ロック」ないでたち。これまた70年代ロック風のソバカス少女・萌ちゃんを人質にとられ、「龍待(ドラマ)チックエンジェル」との対決を余儀なくされる。

この3人の刺客がもうメチャクチャで、

(以下、ネタバレ含む)
・自らを緊縛し、M性を高めることで実力を発揮する「エネマグ蘭子」
・ルームランナーで走り、ランナーズハイになった状態で実力を発揮する「走る子」
・全裸で水槽に浸かり、大きなタコにからみつかれてイくことで実力を発揮する 「シーフードのペペ子」

「エネマグ蘭子」なんて、後ろ手に縛られてる(自分を縛ってる?)から手で麻雀ができなくて、「口でツモって舌で盲牌できる」とかいう。それ以前に、スキャン画像が小さくてわからないかもしれないが、顔も身体も井川遙なんだよ!! いいのか? 井川遙、お茶のCMでマッタリしてたと思ったら裏でこんなことやってたのか、という感じ。
「龍(ドラ)の穴」のミスターZの部下も、ナニゲにスズキムネオみたいな顔をしていました。

追いつめられた雀平の逆転があまりに淡泊すぎるという点はあるものの、やはり高橋のぼるからは目が離せないな、と思った。

なお、雀平は「龍の穴」で「女は抱けねえ身体にされちまった」とあり、萌ちゃんとは純愛関係にあるらしい。「女を抱かない(抱けない)」ことで逆にダンディズムを貫こうとする、というテーマ(?)は、同じ作者の「リーマンギャンブラーマウス」と通ずるものがあって興味深い。
(02.0418)



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