◆ 1998年12月中旬 ◆

12/11〜20
【トップページ】  【過去日記トップ】

ご意見・ご感想はメール 掲示板でどうぞ

12/20(日)……死ね死ねマン

 年末にやらなきゃならないことを控えているので、仕事をさっさと片付けなければならない。というわけでこの土日は休日出勤。ずっと会社にこもっていた。で、会社に泊まっていると頭が腐ってくる。腐った頭で書いた文章はろくでもないものが多い。昨日のなんかも、朝の9時くらいに眠いのを我慢しつつ書いた文章だったので、読み返してみると我ながら腐ってるなあと思う。とくに余談部分。他人様のスタンスに難癖つけるなぞ、何様だこいつって感じ。っていうか、他人がどうこうしたなんてことは重要じゃない。人に文句をつけてるヒマがあったら自分を磨くのだ。他人様に対する怒りやそねみ、憎しみなぞは自分の目を曇らす。第一面倒くせえ。そういうものにとらわれず、超然として、でも愛にあふれた人間になりたいなあ。それで日がな一日、俗事にとらわれず、なんだか下らないことでも考えて暮らしたいものだ。

【雑誌】花とゆめ 1/10 No.2 白泉社 B5平
 日渡早紀「未来のうてな」が最終回。といっても俺は途中からしか読んでないんでお話はよく分からん。まあとりあえず情報まで。中条比沙也「花ざかりの君たちへ」。かっこいい男とかわいく健気な女の子たちが、なんだかすごく楽しそう。スマートで伸びやかな描線も見ていて気持ちがいい。

【単行本】「シネマ」2巻 六田登 小学館 B6
 ビートたけし似の男、西野に乗せられたサバニは、無人島に連れていかれアリを題材にした映画を撮らされることに……。頭は悪いが、とにかく野望に向けてジタバタするムチャな男、サバニのキャラクターが魅力的。馬鹿なことをやっているように見えて、結局は自分と向かいあってしまう。六田登の描く男たちは、多かれ少なかれそういう泥臭さに満ちている。それがまた男臭くて味があるのだ。

【単行本】「まちこシャイニング」1巻 藤野美奈子 小学館 B6
 片田舎から出てきた、天然ボケだけど妙に人を惹きつける魅力を持った少女・花田まちこが、自分だけの輝きを手に入れるためにスタアへの道をひた走る。気楽でボケナスなノリが楽しい。藤野美奈子のギャグは、妙にみみっちいのだが、少しずつ一般的な方向性から逸脱していき、最終的に思いもよらない展開になるあたりが面白いと思う。一気に逸脱するタイプは一回乗れなかったらしらけてしまうが、藤野美奈子の場合少しずつ少しずついくもんだから、気づかないうちにこちらもそのペースに乗せられてしまう。この呼吸はなかなか逃れにくい。そして全体としてはどうにもすっ頓狂な展開になっているのだ。そこらへんは実にうまい。

【単行本】「BLAME!」2巻 弐瓶勉 講談社 B6
 重力子放射線射出装置である銃を持つ霧衣が、何層も続く人工の機械世界を旅する。驚くほどにクールで、そして重厚で精密な画風が、無機的でありつつ妙にねじ曲がった有機的なものを感じさせる世界に奥行きを持たせている。背景の重厚感、質感がなんといっても圧倒的に読む者に迫ってくる。そして、敵キャラクターというか兵器。石膏で固めたかのような質感の、人と機械が入り混じったような姿を持つ異形の者どもの姿は、無機的でグロテスク、それでいながら妙に哀しみを感じさせる。邪悪にして、かつ悲痛。話はたしかに分かりにくい。でも、話が分からなくてもつい引き込まれてしまうだけの画力がある。ちょっとほかにはない画風であり、これからも要注目の人だといえる。

【単行本】「陰陽師」8巻 作:夢枕獏+画:岡野玲子 スコラ A5
 都に日照りが続き、晴明が雨乞いに乗り出す。母の胎内ともいえる山に、博雅と共に分け入り、雨を願う。今回の巻は晴明の思想の、かなり重要な部分に触れられ読みごたえがあった。雨乞いを成功させ、それまでの自分からまた一つ解放され、喜びの中晴明が雨と戯れるシーンは、自分という存在が宇宙に広がっていくような広がりを感じさせ、読んでいてゾクゾクする快感があった。晴明の行動を説明する晴明自身の言葉はたくさんあるものの、短く簡潔すぎるためなかなか理解しにくい。しかし、読み込めば読み込むだけ、読者に応えてくれる懐の深さを持っている。それでも過度に深刻になったりしない力の抜き加減が岡野玲子のうまいところでもある。博雅の、愚鈍だが純朴な性格も、全体の雰囲気を和らげる効果を果たしていて、キャラクター作りのうまさを感じる。予定では全12巻。あと4巻である。いよいよ物語は終盤。月並な言葉ではあるが、これからの展開が楽しみだ。


12/19(土)……走れ王様

 郵便受けを見たら、雑草社から別冊ぱふ「コミック・ファン」の見本誌が届いていた。この本では1998年総決算ということで「どこよりも早い」まんがベストテン企画をやっているのだが、その投票を依頼され協力していたのだ。なんか、漫画関係のホームページの主催者の人にも何人か依頼がきていたようで、見たことのあるページの人もちらほら。
 ランキングなんてものは選ぶ人によってもだいぶ結果が違うし、漫画に序列をつけるというのもあんまり興味はないのだが、この本の投票結果はわりと納得がいく。1位が尾田栄一郎「ONE PIECE」、2位が三浦建太郎「ベルセルク」、3位が内藤康弘「TRIGUN MAXIMUM」というのはまあこんなものかなあと(残りの順位に関しては実際の本を参照のこと)。どうせ誰が見たって、「どうしてこれがこの順位なのか?」とか、「なぜこれが入ってないのか」ってのはあるだろうが、いっても始まらないことでもある。俺にとっては俺が面白いと思ったものがベストなんだし、他人の意見なんか関係ねー。まあそれはともかくとして、漫画をけっこう読んでいる人たちが投票しているようで、今市子「百鬼夜行抄」が5位だとか、吉本蜂矢「デビューマン」が47位だとか、100位以内に「名探偵コナン」も「金田一少年の事件簿」も入ってないとか、いかにもマニアの投票という感じがある。少年誌でいうと、全体に少年マガジン、チャンピオン掲載作品のランクインが少なく、サンデー、ジャンプ掲載作品に評価が高いあたり、文科系オタク層って感じがする。
 投票依頼は「作品を六つ挙げてくれ」という形式で行われたのだが、俺が挙げたのは、小田原ドラゴン「おやすみなさい。」、新谷明弘「未来さん」、新井英樹「ザ・ワールド・イズ・マイン」、キクチヒロノリ「新世紀アダム好キーUFO解脱マン」、小原愼司「菫画報」、田口雅之「バロン・ゴング・バトル」。投票したのはたしか10月だったと思うが、今投票していたらまた違ったものに入れていたかもしれない。

 以下余談。こういう投票とかをすると「ボクのセレクションはほかの人とは一味違うでしょう? チミたちこんなのチェックしてないでしょう? どうです、ボクのセンスはイカしているでしょう? ボクってかっこいいでしょう?」ってな感じで、なんだか自分に酔っちゃってるような人を見かけたりするが、それはたいていの場合において自意識過剰でしかない。「こんな漫画、俺のほかに誰が読んでるんだろう?」などというのも同じ。っていうか、たかだか珍しいものを読んだとか見た程度で、自分が特別な存在になれると思ったら大間違いだ。何かを読んだり見たり聞いたりしたくらいでsomeone specialになれるくらいなら、誰が悩んだり苦労したりなどするものか。そしてまた、他人が自分の好きなものを好かないからといって、他人のセンスが自分より劣るというわけではないのだぜ。

【雑誌】ヤングマガジン増刊赤BUTA 1/10 No.21 講談社 B5中
 すぎむらしんいちの未発表処女作「ROUND ABOUT MIDNIGHT」が掲載されている。マザーコンピュータが暴走した宇宙船に閉じ込められた乗組員たちが、迫り来る死に脅え、そして彼らを安楽死させようとする雑用ロボットに追い詰められる……というSF系ホラー。絵も今とはだいぶ違う、昔懐かしの、SF全盛期調のタッチ。スプラッタなシーンとかもあり、それなりに面白くうまいのではあるが、今見るとやはり古くさい。それよりもその後に掲載されている、すぎむらしんいちの投げ遣りなインタビューのほうが興味深い。それにしてもスタア學園のコキジと、すぎむらしんいちの中学生時代はソックリだ(当たり前だけど)。
 キャラクターがかなりぶっ飛んでて注目していた天野明「少年スピン」は次回最終回。今回はちょいと大人しめ。女の子の部屋に入り込んだ主人公・タクマが、女の子そっちのけで熱帯魚に熱中し、小魚のしっぽをつまみあげて「じゃーんぷ」などとブツブツいっている様子は好きだが、前回ほどのアナーキーさはなかったような気がする。しかし、連載全5回じゃ単行本にはならねえだろうなあ。切り抜き保存しかないな。
 それにしてもヤンマガ増刊勢、赤/青BUTAの野蛮さは素晴らしい。この雑誌に載っている漫画の大半はつまらない。完成された作風を持っているのは、今号でいえば石川雅之「カタリベ」くらいだ(これはけっこう面白い)。でも、絵が稚拙でも、内容が多少ヤバくても、とにかく勢いとパワーさえあれば載っけてしまうという挑戦的な姿勢は現在の青年誌界ではほかに類を見ない。ヤンマガ系列の猥雑で混沌とした魅力を、実は根っこの部分で支えているのがこの増刊枠だと思う。

【雑誌】週刊少年ジャンプ 1/15+21 No.4+5 集英社 B5平
 年末ということで、発売日がいつもと異なる。尾田栄一郎「ONE PIECE」が表面、富樫義博「HUNTER×HUNTER」が裏面のジャンボカレンダーがおまけで付いている。表裏だから、壁とかには貼りにくいとは思う。両方同時に眺めたい人は2冊ゲットすべし。
 今号は武井宏之「シャーマンキング」がなかなか良かった。ここのところ続いていた、野盗・トカゲロウのエピソードが完了。主人公・葉の目つきに何やら色っぽさがある。けっこう女性受けもしそう。

【雑誌】ウルトラジャンプ No.25 集英社 B5平
 ピンナップで睦が登場。あんまり商業誌では描かない人だが、非常に絵が達者で、子供を描かせても可愛いし、大人の女を描かせても色っぽい。やっぱうめえわ。
 大暮維人「天上天下」。プロレス研究会サーガ・マスクと宗一郎の対決が決着。なんか最近バトルシーンの迫力が増してきた。最初のころはいまいちピンと来なかったのだが、回を重ねるにつれキャラクターも立ってきたし、絵はもともとシャープで色気があってなんとも華がある。どんどん面白くなってきている。寺田克也「大猿王」。単行本はオール4色だが、今回は1色。1色だとけっこうジャギーが目立っちゃうのだが、雑誌では1色、単行本では4色と二通りの楽しみができるのでお得な感じもする。藤原カムイ「福神町」。主人公とヒロインらしき女の子も出てきて、ますます好調。ふわふわとした幻想的な町の雰囲気、あふれる意味ありそうでなさそうなアイテム、レベルの高い作画、いい感じである。

【単行本】「一生懸命機械」2巻 吉田戦車 小学館 A5
 ちょっと今日はヒマがないので、吉田戦車ページには後日追加の予定。地味な作品だが、静かなおかしさが潜んでいる。読めば読むほど味が出るって感じの奥深い魅力を持った作品だ。コンビニの中華まんをあっためる機械(ちなみに吉田戦車は「まん暖機」と名付けている。いいセンスしてるよなあ)とか、銀行の番号札出し機とか、普通の人はあんまり意識もしない機械に目をつける、吉田戦車独自の視点が実に味わい深い。人間より大きなポケベルだの、出てくる機械たちに何やら愛敬があるのがまたいい。ロボットやらアンドロイドのように、人間に近くなんでもできるようなものどもと違って、あくまで単機能の機械であるところにわびさびを感じる。
 単機能の機械というのには、俺としてはおおいに惹かれる。前にテレビで見たスイカ選別機械というのなんか、実にそそられるものがあった。スイカを叩いてその内部での反響をセンサーで計測してランク付けを行うというものだった。スイカを次々と選別するためのベルトコンベアやら、測定のためのコンピュータなどが付いていて、「スイカの味を調べる」というだけのために、異様なまでの大掛かりな設備を用意する馬鹿馬鹿しさにかなり感動した。ちょっとした倉庫くらいありそうなスペースが、スイカの選別だけに使われているなんて……。うっとり。

【単行本】「キリコ」1巻 木葉功一 講談社 B6
 暗殺者によって兄を殺された刑事・遊佐朗が、兄を殺した冷酷な殺人機械のような少女・キリコを追いかける。その過程で遊佐は警察をクビになるが、それでも執拗にキリコを追い続ける。デフォルメの激しく利いた荒々しいけれどもその中に妖艶さの漂う画風、迫力のある画面がまずいい。そしてキリコおよび彼女の周りの暗殺者たちと、遊佐が対決するアクションシーンも豪快でダイナミックだ。キャラクターたちの魅力も忘れてはならない。ガラスのような冷たさを感じさせる美貌と殺人機械としての無機質さを持ち合わせながら、女の弱さも同時にほの見せるキリコ。そして彼女にくらいつく遊佐の執念、力強さ、男気。さらには遊佐に協力するハッカーの土呂もかっこいい。キャラクターたちの吊り上がった目は、強さ、冷酷さ、熱情、妖しさ、そして狂気をたたえている。一話読んだらまた次を読みたくなる、強烈な魅力を持った作品。


12/18(金)……ゴブの虫にもリンの魂

 なんか最近、イラクだの北朝鮮だの、1999年を控えて戦争気分が高まりつつあるが、どうにも無関心な自分に気づく。っていうか最近、自分のこと以外にあんまり気が回ってない。それよりも年末ジャンボだ。今年は連番30枚買ったので、1等前後賞×3=4億5000万円を狙っている。っていうか予定。

【雑誌】ビジネスジャンプ 1/10 No.2 集英社 B5中
 久しぶりに駅のゴミ箱から拾ってきた。
 塩崎雄二(「Karen」の人)の新連載「ハッピーマン」がスタート。紅林市役所にある、市民のためになんでもやる部署、「なんでもやる課」に配属された新人公務員・橋本が主役。橋本は市役所の職員でありながらホームレスなのだが、実はなんだかものすごい実力を持った男である。彼のスーパーマン的痛快な活躍を描く……といった話のようだ。塩崎雄二はシンプルな絵柄ながら、色っぽい女の子の描写とかが相変わらずいい。お話はわりとお手軽でなんてことないんだけど。

【雑誌】メロディ 1月号 白泉社 B5平
 巻頭カラーで、メロディ初登場・由貴香織里の「ルードヴィッヒ革命」が連載スタート。第1回目は「白雪姫」を題材に取っている。たぶん、これからもこのように童話を題材にして換骨奪胎した物語になっていくのだろう(余談ではあるがトオジョオミホの「換骨奪胎」は単行本にならないものかなあ)。容姿は花のように美しいが、心は闇のように真っ黒な白雪姫とその母の暗闘をベースにしながら、その一方で隣国の放蕩王子ルードヴィッヒを話に絡ませてくる。美しくも冷酷で、そして容赦のないストーリーを鮮やかにまとめている。シャープな描線もお話に合っている。なかなか面白かった。雁須磨子「どいつもこいつも」が連載再開。自衛隊を舞台にしたちょっとおばかさんなコメディ。絵柄も作風もなんとなく、有川祐に似ている。有川祐ほど素っ気ないわけでなく、一回りか二回りヌルいけど。自衛隊内で看護婦やらセーラー服にコスプレしたり、アニメオタクの隊員が欲求不満で暴れまくったりと下らない展開が楽しい。単行本が1月7日に出るらしいので、ちょいと買ってみようかな。新人・鳩野容子「メイキング・オブ・高校生日記」。学園祭に向け劇の練習をしていたクラスで脅迫状が発見される。それをめぐってクラスは紛糾し、真相究明を任されたクラス委員長は苦境に立たされるが……。ちょっと三原ミツカズ系のクールな絵柄がなかなかいい。それからほのぼのと下らないオチも楽しい。まあわりと楽しみな新人さんって感じ。

【単行本】「ゆらゆら」 南Q太 宝島社 A5
 CUTiE comicに掲載された「ゆらゆら」全4話+「猫」「丘をこえて」を収録。「ゆらゆら」の扉、それから表紙に描かれている、白黒の縞を服を着て横顔しか見えない女の子の姿が、実にスタイリッシュでかっこいい。そして中身もこれがまた面白いのだ。とくに「ゆらゆら」。男と別れて心に隙間があった浜子が、バイト先の花屋の店長と不倫関係に陥ってしまう。人肌が恋しくてつきあっていただけだったのが、しだいにそれを愛情と勘違いするようになる浜子。でも、その気持ちが偽ものだったことに自分で気がついてしまう。コロコロと変わる浜子の気持ちに翻弄される40男の店長の姿がおかしくもあり、哀しくもある。肩の力が入っているわけではなく、ごく自然にありそうな身近な恋愛を鮮やかに描き切ってしまう、その描写力にはいつも感心する。恋愛が完全に主食となっている。美しく整理された描線は、落ち着いた雰囲気でいながらかっこいい。一時期、南Q太はそのあまりのコンスタントぶりに飽きが来たことがあったのだが、最近また洗練が進み面白くなってきた。
 それにしても、うまいなあ。

【単行本】「大猿王」1巻 寺田克也 集英社 A5
 オールカラー単行本。寺田克也のあの絵を味わいつくすにはやっぱり全部カラーがベストだ。おかげで、普通の単行本の半分くらいの薄さなのに1900円+税というけっこうなお値段。でも画集を買ってなおかつストーリーも楽しめると思えば、高くもないかなって気はする。仏弟子だのなんだの辛気くさいことをいわず、ただただ「シャカを殺す」という一念に支配されて天竺までの道を突き進まんとする猿王が、実に邪悪な面構えでかっこいい。そして三蔵はその強すぎる力を抑えるため、普段は目隠しをし口かせをかまされた状態で猿王に引き回されている。一般的な「三蔵には頭が上がらない猿」というイメージではなく、主導権を握っているのはあくまで猿王。そしてそのエネルギーの源は憎悪。パワーがほとばしり出る画風とあいまって、強烈なインパクトを持っている。寺田克也の絵を見ていると、山田芳裕の「考える侍」の主人公・富嶽十蔵のセリフ、「在ることの二乗の在ることを描けば事実を越ゆ」を思い出す。寺田克也は「ないものの二乗の在ること」も描いてしまっているようにも思えるが。

【単行本】「無理ヤリ」 ゴブリン 一水社 A5
 今回はいつものちょっと稚拙な感じが逆に恐ろしいロリータ絵と、劇画系の絵が混じっている。ゴブリンはかなり貧乏な人らしいのだが、「栄養失調になりつつも電気を止められた部屋で懐中電灯片手に描いた作品です 37歳独身男ゴブリン」とか欄外に書いてあるのが涙を誘う。しかし、37歳の男がまっくらな部屋でこんなイヤな漫画を描いているかと思うと慄然としながらなんとなく楽しい気分にもなってくる。幼女の身体のキャパシティをはるかに超えると思われる巨大な異物(ちんぽだったり手だったり、酒瓶、ペットボトル……その他もろもろ)をつっ込んで、精液は全部中出し。男たちはそれをヘラヘラと笑いながら見つめ、幼女は白目を向いてガクガクと痙攣する。悪意と憎悪に満ちた作風が本当にイヤ。そしてそれがあまりに強烈なので大好き。ここまでやってくれると痛快至極。そして、俺の心は「もっともっと」と告げている。

【単行本】「14さいマニュアル」 久我山リカコ オークラ出版 A5
 なんかあったから買ってみたのだが、内容はアニパロおよびゲームパロ。パロディものは元ネタをあんまりよく知らないので、普通は買わないのだが、なんか全然気づかなかった。久我山リカコ描くところの、ナコルルだの綾波はかわいいが、お話自体が短くてまとまりがなくてどうにも、って感じ。まあ商業誌的なワクにとらわれず自由に描いているのは、楽しいっちゃ楽しいんだけどね。


12/17(木)……百合の芽

 年末で合併号とかもあって、いつもの雑誌は出ないが、増刊枠の雑誌がいろいろと出るのでこの時期はちょっとうれしくもある。あと、なんか最近単行本を買う冊数がちょっと増えている。でも読む時間が全然足りねえ〜。っていうか根本的に時間が足りてねえ。

【雑誌】モーニング新マグナム増刊 1/14 No.6 講談社 B5中
 オヤジ系保守路線に入ってしまった感のある本誌とは違い、かなりコアな漫画ファン向けを狙ったラインナップ。描いている人もほかではあまり見かけない人たちだし、好きな人が揃っている。というわけで俺としては非常にうれしい雑誌なのだが、取り扱い店が少ない感じなのは残念。
 今回の「ネオデビルマン」、「EURYNOME」は高寺彰彦。コミッカーズの漫画講座でおなじみだが、作品は読んだことがないという人もいるかもしれない。そういう人にとってもいい機会なのでぜひ読んでおくべし。漫画講座をするほどの高い描画テクニックが、作品の中で活かされているのが十分分かるはずだ。「EURYNOME」では不動明や飛鳥了などの主要キャラクターはまったく出てこない。不動明と同様に、デーモンと一体化し人間の精神のほうが勝ってしまった刑事・多聞の物語である。細部まで描き込まれたリアルかつ乾いた画風で、実に迫力のある画面を作り出している。デーモンと合体しつつも、最後まで人間であることにこだわり続けた男の誰も知ることのない死は、悲しくも安らぎに満ちている。あとデビルマン関係だと、本家永井豪の「デビルマンレディー」があるほか、萩尾望都がピンナップを描いている。
 加藤伸吉「バカとゴッホ」は、ゴッホの仕送りが打ち切られたのをはじめ、アパートも追い出されるなど、3人組は逆境続き。なかなかうまくいかない青春模様。今はまだ力が足りないが、次の飛躍を目指して力をためるのだ。清田聡「ミキ命!!」。アオリ文句によれば、「この物語は、猛々しい女になぶられることこそが男の最高の喜びであるということを断固として提唱する、官能娯楽大作である」らしい。ごりっぱ。工事現場の警備員・波風が、前号で自分をボコボコにぼてくりこかした土方女・ミキに完全に参ってしまう。背中に黒々と記した「ミキ命」の文字。暑苦しい妄執と、やり場のない衝動。そしてラスト、ミキの放ったタオルを陶然と握りしめる波風の表情がすごくいい。
 鶴田謙二「Forget-me-not」。なんか最初の4ページは、「横浜ホエールズ」優勝のスポーツ新聞の号外。マリエルの妹が実は横浜ホエールズで女性ながら投手をやっていたりするという設定。それにしても遊んでるなあ。これだけの画力でこれだけやられると、とても痛快。荒巻圭子「王国物語Sphinks」は、最初の4ページが4色カラー。ちゃんと毎号掲載されているのがうれしいところ。シャープでガッチリとした骨太な描線、白黒のコントラストが美しい。松田洋子「お母さんといっそ」は相変わらずの底意地の悪いネチネチした作風。人生ひねこびまくりの、妄執に満ちたツッコミギャグは爽やかでないこと著しい。冬目景「文車館来訪記」は4色カラー8ページ。油絵調の、濃くて深い塗りが美しい。
 ちばてつや賞準入選、匙田洋平「フラスコ」は、ちょっと変わった筆タッチの描線。朴訥とした絵柄ながらも、フリーハンドで描かれたコマの枠線、黒々とした画面、変則的なコマ割り、余韻のあるセリフ回しと、幻想的なムードにあふれている。全体的な画面のムードは筆ということもあって黒田硫黄っぽく、キャラクターの造形は神原則夫をちょっと思い出す(すまん、マイナーな作家を思い出しちゃって)。田舎の町にポツンと存在する天文台。そこで天体を観測し続けている老博士のもとで助手をつとめる、昔なじみの月子をたずねて、柴崎という青年が東京からやってくる。昔は好き合っていた月子と柴崎だが、天文台にとまった夜、老博士と淫らな行為に耽る月子の姿を柴崎が目撃してしまう。二人の間にはわだかまりが漂う。そんなとき、天文台に近づいてきた嵐。嵐の中で迎える、なんとも後味の悪い結末。意表をつく、そして何が真実なのだか判然としないストーリー回しが不思議な味わいを持っている。コマ割りもなんだかすごく変則的。やけに縦長のコマが挟まったかと思えば、画面を10個(5段×2列)にほぼ等分割した規則的なコマのページもある。かと思えば、コマの枠線が弧を描いて湾曲していたり、平行四辺形や台形のコマが積み重なったりする。さらに極端に下から見上げたり、上から見下ろしたり、コマが進むのに合わせてズームアップしてみたりと、構図もさまざま。どのような意味が込められているのか、なかなか即座には判断できない部分も多い。ちょっとなかなか見ない作風だ。もう何本か作品を読んでみたくなってしまった。

【雑誌】ヤングサンデー大漫王 1/17 No.24 小学館 B5中
 今号で最終回を迎えた作品が2本。カイトモアキ「裸のふたり」、山田たけひこ「柔らかい肌」。まずカイトモアキのほうだが、バケモノと化した14歳の中学生・倉井が、愛しの女教師・遠山の服を噛んで引きずり回し、四つん這いで疾走。そして灯台の壁面にパンチして腕をめりこませ、それを支点に頂上まで登り詰める。灯台が崩れ行く中で、自分たちの姿を見つめ直す二人。で、ラストは二人が立ち直ってそれなりに穏やかに終わるのだが、ラストシーンも女教師の目つきがなんか怖い。パンパンに張り詰めてテンパリまくた、異常なテンションのキャラクターたちに圧倒される連載だった。ぜひとも単行本化を!「柔らかい肌」のほうは、主人公・拓郎が大人になり、けっこう有名な画家になる。結局、麻琴との再会は果たさぬままに自分の姿を見つめ直しながら静かにラスト。なんか貼り付けたみたいな顔つきのキャラクターでありながら、妙に乳がデカく、グラビア系のストレートな肉体の描き方に圧倒される作品であった。展開のスッポコさ加減もかなりいい味を出していた。終わってくれてちょっとだけホッとしている。このちょっとヘンテコな絵なのに、Hさにソソられてしまったりする自分がなんとなく悔しくもあったのだ。
「カケル」を本誌で連載中の竹下堅次朗がゲストで登場。タイトルは「健康優良児・杏」。とにかく身体は丈夫なんだけど頭は弱めな女子高生、杏が主人公。彼女は数学教師の松上に恋していて、彼を思い出しては健康な身体で激しくオナニーにふけっている。とまあ、ちょっとHでドタバタなコメディである。なんだかやけにストレートに、身体の欲求に答えてしまおうとする(でも処女)、やたらに元気の良い杏のキャラクターが楽しい。
 大漫王は巻末の漫画評のコーナーがわりと充実していて好きだったのだが、スチャダラパーと魚武濱田成夫が降板したらイマイチになった。今回は吉田豪という人が書いているのだが、文章がけっこうダメっぽい。楳図かずお「漂流教室」の紹介で「自然食愛好家というバックボーンを活かした『社会性を含む怖さ』に挑戦し、小学館漫画賞を受賞するまでに至った歴史的傑作である」と突然いわれても、社会性を含む怖さと自然食愛好家と小学館漫画賞の相関関係がよく分からないのだが……。あと、ジョージ秋山の「ザ・ムーン」で「結末部分もやっぱりエヴァ路線」などといっちゃうのは文章力不足を感じてしまう。とまあ、他人の漫画レビューに関してはつい厳しく見てしまいがちだが、言い回しとかがなんとなく自分の文章に似た感じでもあり、気恥ずかしい感じもする。文句いってるヒマがあったら我がふり直さないとなあ。ちなみに魚武濱田成夫は井上雄彦をインタビューしているので、井上雄彦ファンは注目ってところか。

【雑誌】週刊少年チャンピオン 1/7 No.3 秋田書店 B5平
 こやま基夫「THE NIGHT JACKER パクリコン」が新連載。現代に生きる怪盗たちのドタバタアクションコメディといったストーリー。新連載なのに、なんとなくもう何年もやっていたお話であるかのような手慣れた感じがする。橋本俊二「麻雀鬼ウキョウ」。くっ、だらねえ〜。対戦相手の手をなぜか完全に読める雀士が敵なのだが、オチは実に予想どおり相手の目に映った映像を見ているというもの。そして、それを見抜いた主人公が打った手はなんと盲牌!!……って盲牌できたくらいで「高等技術」とかいって驚いてんじゃねーとか、まったく牌を見ないで麻雀やらないでも、自分と相手の目を結んだライン上に手でもかざしとけばいいんじゃないのとか、いろいろツッコミたくなってしまう展開。でもこの子供だましな馬鹿馬鹿しさを楽しむのが吉なんだと思う。水島新司「ドカベンプロ野球編」。日本シリーズ、西武×横浜。横浜ファンのものすごい応援のおかげで冷静さを失った西武ナインが、連携ミスなどの珍プレーを連発する。でもなんかこの展開だと、横浜が応援のおかげでラッキーな勝ち方をしてきたみたいに見えちゃって、ファンとしてはなんかあんまりいい気持ちはしないなー。しかも、9番セカンド万永ということはローズは出てないのだな。

【雑誌】Namaikiッ! 2/1 VOL.13 竹書房 B5中
 海明寺裕が描いているので購入。タイトルは「白昼夢」。ある日、通勤電車に乗った女性が、周りの人々が妙に騒がしいのに気づく。どうやら、変態が同じ電車に乗り合わせているらしく、彼らの視線はそこに注がれているらしい。そんなことに興味のない彼女は、ちょっとうとうととするのだが、目を覚ますと自分が素っ裸で鎖でつり革にぶら下げられていることに気づく。そう、周りの人が見つめていた変態とは自分だったのだ。もちろん、その女性は自分からそんなことをやろうとしていたわけではない……はずである。いつもと変わりない通勤風景の中で突如として起きた理解不能な出来事。しかし周囲の人々はこれはいつものことなのだと囁きあっている。自分は夢を見ているのか、それとも今までが夢を見ていたのか。虚構と現実の壁をグラグラ揺さぶる作風は海明寺裕ならでは。ちょいと野暮ったさのあるエロ系雑誌の中では、やはり異質な感じがする。

【雑誌】ヤングキング 1/4 No.1 少年画報社 B5中
 来年の2月1日からアニメが放送開始予定(月〜木23:55から「ワンダフル」内にて)の、佐野タカシ「イケてる2人」が2本立て。おなじみのメンバーでのクリスマスパーティ。今回はいつにも増して男どもの妄想が暴走していて楽しいが、その分、妄想でない部分の本筋ではいやらしげなシーンはあんまりなし。有村しのぶ「HoPS」。寝ている主人公のちんちんに裸の女の子二人がイタズラする。メジャー系のエロは「見えそうで見えないライン」でジラしてくるのがもどかしくていいのだが、有村しのぶの場合「見えるし触りもするのだけれど最後の最後まではしないライン」でジラしてくる感じ。でも今回のラストは、主役二人の初キッスで終わる他愛のなさが爽やかで微笑ましい。

【雑誌】COLORFUL萬福星 VOL.3 ビブロス B5平
 よしもとよしともと北道正幸のインタビューが載っているので、ファンはチェキ。
 オールCGコミックのこの雑誌も3冊め。だいぶ落ち着いてきた感じがある。ページ数が少なめな作品が多いので、ちょいともの足りないところはあるが、絵のクオリティはさすがに高い。なかでもA-10「Lord of Trash」は達者な絵、美しい彩色でひときわ目を惹く。ただ、モノクロページだとなんとなく読みにくい。カラーだと絵の表面のつや消し感がシックな感じでいいのだが、モノクロだとボヤけた感じになってしまう。それもまた味って感じはしなくもないが。たぶん、カラーのCGをモノクロに落としているためかベタッとした白と黒があんまりなく、人の肌とかにグラデもかかってるのでイマイチ画面にメリハリがなくなってしまうのだろう。ぜひ、全編カラーで読んでみたいところ。TAGRO「師走」は人物の主線とかで、CGっぽく見えないところがけっこうあるんだけどどうなんだろう。この雑誌の中では一番白黒のコントラストが利いていて、モノクロページについては最も読みやすい。お話は孤高の料理人に弟子入りをした女の子が、料理の道を極めるべく、っていうかなんか料理人に気に入られるべく奮闘するドタバタギャグ。下らなくノリのいい展開は好きだが、ちょっとキレ方は足りない。粟岳高弘「隣星1.3パーセク」は、レゾリューションの粗さ、表面の質感がモノクロで逆に生きている例。ちょっとほこりっぽい世界の雰囲気にマッチしている。
 ……しかし、こうやって「CG、CG」いいながら漫画を読んでしまうっていうのも、なんか読書に余計なものを持ち込んでいる感じで、あんまりいい気分でないなあ。まだまだ描くほうも、読むほうも(少なくとも俺は)、いくぶんCGを意識しすぎなのかもしれない。もうちょっと、サラリと、道具として付き合っていくほうが俺は好みだ。それにしてもこの雑誌は、モニターで見るとまた雰囲気がガラリと違うのだろうなあ。一度、全ページCD-ROMやらDVD-ROMなどに収録したバージョンも作ってくれないものだろうか。

【単行本】「風から聞いた話」2巻 奈知未佐子 集英社 A5
 オスマンにもアップしてあるとおりオススメである。田舎に住まう家族の、小さな姉弟の二人に親や祖父母が昔話を語る、といった形式でお話は展開していくのだが、その一つひとつの物語がとてもメルヘンチック。簡潔で上品、ほのぼのとする絵柄で、のどかな山々の風景、空気の輝きなどに染み入るような味わいがある。基本的には中世の日本のむらを舞台にしたおとぎ話が語られるが、姉弟の暮らす現代の身近なところにあるファンタジーも、丹念に心優しく描写されている。ときどき描く異国情緒ある物語も味わい深い。
 一編一編は、雑誌で読むと「ああたまにはこういうのもホッとしていいねえ」ってくらいで終わってしまいがちだが、単行本でまとめて読むと、実にコンスタントに高品質な作品が揃っていることに気付く。心暖まらせ、ときにホロリとさせるお話作りは見事というほかない。たまにはこういう作品を読んで、心洗われてみるのも悪くない、っていうかとってもいい。深く静かに感動できる一冊。


12/16(水)……ゲボカラでクエモン

 最近、なんとなくゲーム的気分が盛り上がっている。N64のゼルダをやってみてえだとか、まあそういう感じ。ただ、俺はゲームって苦手なほうだ。うまくできないとかそんなんではない。やっているうちに面倒臭くなってしまうのだ。吉田戦車が「はまり道」の中で、「やらなくていいゲームはないかなあ」みたいなことを描いていたが、まさにそんな感じ。ゲームはひとたび買ってしまうと「俺を遊べ俺を遊べ」とユーザーにプレッシャーをかけてくる。っていうかそんな気がする。その重みに俺は耐えきれなくなり逃げ出してしまうのだ。
 第一、最近の俺の生活を見ると、ゲームをやっている時間がまったくない。会社行って家帰ってきたら漫画読んで、ホームページ作って……とかやっているとあっという間に朝が来てしまう。最近はホームページ作りの時間が異様に長くなってきたので、本当に時間がない。これで原稿とか書いているときは、さらに時間不足に拍車がかかる。家にいるときのほうが、会社にいる間よりもよっぽど忙しい感じがするくらいだ。帰りの電車の中でも「午前1時から漫画読んで、3時からホームページ作って……、よし今日は5時間眠れる」などと計算してしまう。そんなわけでゲームをやるには、どこかで時間を捻出しなければならない。私生活の時間は削れない。削ったら負けな感じがする。負けるのは大嫌いだ。電車などの移動時間は読書および睡眠に当てているので、これもゲームに割り当てることは無理。となると、時間を捻り出せるのは会社にいるときしかないという結論に至った。
 そんなわけでゲームボーイカラーを買った。これで会社でヒマなときはゲームにいそしめる。ってわけでとりあえずドラクエモンスターズあたりからやり始める俺なのだった。そんなことやってるひまがあったら、さっさと仕事片付けて帰ればいいんだけど、会社にいなきゃならんときも多いのだぜよ。

【雑誌】ヤングマガジンUppers 1/6 No.1 講談社 B5中
 なんといっても田中ユキの単行本が来春発売という予告がうれしい。今回は「ストレンジラブ」後編。8年前、土手から自分を突き落と、流れる血をなめた少女・ふみかに心を奪われた主人公・菊池が、久しぶりに故郷に帰ってきてふみかと再会。自分のどうにも抑えられない気持ちをふみかに告げる。8年前の出来事の記憶は封印していたふみかだが、菊池と触れ合ううちに記憶を取り戻す。クールな描写の中から漂う、妖しくサディスティックなエロチシズム。直接的な行為があるわけではないのだが、淫靡な雰囲気に満ちている。そして硬質で整った描線。好きだ!っていうかLOVE!
 せがわまさき「鬼斬り十蔵番外編 天狗だけが知っている」は8ページフルカラー。やはり、この人の絵はカラーでこそ生きる。モノクロではCGの質感が物語を読みにくくしているようにも思える。桑原真也「Oリー打越くん!!」。なんかついにテニス漫画っぽさが垣間見えてきた。というのはともかく、シノヴの目つき、口許、表情からは、フェロモンがぷんぷん発散されまくっている。大ゴマがわりと多いダイナミックなページ使いもあって、読みやすいのも長所だ。
 黒田硫黄の1ページ映画紹介漫画「映画に毛が3本」。力の抜けた描写、そして黒田硫黄ならではの人とは違うのだけど斜にかまえない視点がとてもいい。この漫画を読んでいると、描かれている映画をなんかすごく観たくなってくる。紹介されている対象を、読者が読んだり見たり聞いたりしたくなるようにさせるというのは、レビューの一つの理想形だと思うのだけど、黒田硫黄はそれを成し遂げている。しかも、漫画としても面白く、だ。くそう、悔しいなあ。こうやって、漫画の紹介文をいつも書いている俺としては、感心させられるとともに嫉妬もしてしまう。

【雑誌】ZetuMan 1月号 笠倉出版社 B5中
 今回はZERRY藤尾が載っていなくて残念。榊原薫奈緒子とかも描いてないし、ちょっともの足りない印象。
 最近、あろうれい「あおいのきみ」がいやらしい。心は抗いつつも、快楽を求めてしまう自分が制御できないヒロイン・ナルの姿がとてもいい。ついつい身体が動いてしまい、いやらしい性技も使っちゃうあたりソソる。半メジャーにも行ったことがある人だけに、絵もうまいし。咲香里「太陽が落ちてくる」。今回はエロはほとんどないのだが、物語でしっかりと読ます。絵の完成度も高いし、ソツがない感じ。

【雑誌】COMICアリスくらぶ Vol.9 コアマガジン A5平
 ロリ系アンソロジーの老舗。「アリスの城」が創刊した当初は、どちらかというと描かれる年齢層が現在よりも低く、10歳以下っぽいのが中心で、業の深い作品が多かったが、回を重ねるごとに少女の年齢が上がってきているように思える。そして、それとともに業の深さも薄まってきている。「ロリータしか描けない」「ロリータがなきゃ生きていけない」って人ではなく、大きなおともだちも小さなおともだちも器用に描く、ってタイプの人が増えてきたように思う。Vol.9はなんかいつのまにか出ていたなという印象。表紙にMITAONSHA、大塚ぽてと、一加雛生、是枝和宏、巻田佳春、才谷ウメタロウ、大山田満月の名前もあるが、この人たちは4色カラーイラスト各1ページのみ。ああ、大山田満月の漫画が読みたいなあ。
 末高大河「シンキングガールフレンド」。よく見るとかわいいんだけど、あまり口をきかず、いつも独りぼっちの女の子と、彼女と同じクラスの男の子の小さなラブストーリー。一人ブランコに乗っていた女の子が、そのあと手の匂いをかいで「鉄くさい」と呟くシーンとか、静かで地味な描写に惹かれる。とくに序盤の、しんとした冷たい雰囲気のある画面作りがいい。わんぱく「スキー旅行」も絵が好きだが、こちらは暖かみのあるホッとする画風。黒々とした目がクリッとした女の子がかわいい。ひぽぽたます「WISHYWASHY」は、最初のページのワアワア泣いている女の子の顔のくずれっぷりがいい。ナヲコ「最後の言葉」。今回はシンシンとした、寂寥感のあるお話。すっきりとした描線でとてもうまい。引っ越していく女の子と、彼女の寂しいときにいつも支えになっていた男の子が別れをつげる。Hなシーンはまったくないけど、少女の魅力は十分に伝わってくる。前にコア漫画大賞でロリータ部門で賞をとった、ほしのふうたが描いている。タイトルは「バカ犬行進曲」。人間に欲情してしまうバカ犬2匹と女の子が戯れるというお話なのだが、この人の絵は見ていてとても楽しい。なんか幼年向けの雑誌にでもありそうな、すごくコミカルで角ばったところのない画風。けっこう気に入っている。そして、ラストは町田ひらく「アルマゲスト」。天上世界を舞台に、ゼウスの浮気をこらしめようとするヘラのお話を描いているのだが、オチが秀逸。星座と体位をリンクさせながら、さらに一ひねり。うまいなあ。

【雑誌】ドルフィン大将 Vol.10 司書房 B5平
 本誌同様、実用重視な別冊。最近けっこう気に入っているのがうさぎのたまご。かわいい恋人同士の話なのだが、女の子がお弁当のお茶を風船に入れてお尻の穴の中であっためてるとか、前のほうにデザートのぶどうをいれとくとか、なんだか異常なことをやっているわりにノリはあくまでラブラブでコメディタッチ。くるくると崩れる絵柄と、楽しげなキャラクターたちの表情と行動。読んでいるほうもうれしくなってくる。しかも、実用性はけっこう確保していたりするから、ちょっと珍しい作風。3月に初単行本が出るらしい。最近の司書房系の人では、KASHIみちのくと共に注目している。鈴木験一「中村君のゆううつ」。元高崎あきらだが、この人はどんどん線がシャープになってきている。ちょっと安彦良和とか美樹本晴彦を思い出す絵柄(といってもこの二人ほどのレベルにはさすがに至っていないが)。エロシーンもなかなか迫力があって、実用的でもある。わりと好きな人なので、もっといっぱい作品を読んでみたい。瑞東航「Traffic Ticket」。この人は絵にはすごくクセがあって、なんかひんまがった感じなのだが、エロを描こうとする心意気はいつも感じる。昔よりはだいぶ絵も進歩したし。

【雑誌】コットンコミック 1月号 東京三世社 B5中
 駕籠真太郎が毎月読めるうれしい雑誌。ほかの漫画が取るに足らなくても俺は満足だ。今回の「駅前吸引」は、ゴミやら糞尿を吸い取り機で吸い取って清掃するのを生業とする「吸い取り屋」のお話。彼らは吸い取る習慣が徹底しており、呑みに行っても生ビールや日本酒、鍋物などすべてストローで吸引する。そして作品の主人公は表の顔は吸い取り屋、裏では人間の脳みそを吸い取るという手口を使う殺し屋。いつもながらに異常な世界観を、冷めた視点でクールに描いていて楽しいが、今回は描写がわりと地味。いつもよりアクションシーンはあるのだが、駕籠真太郎は異常世界観の徹底的な描写のほうに魅力を感じる。今回のは「普通の世界に変わった人たちがいる」というだけに感じてしまう。世界そのものが異常で、それをこれでもかこれでもかと描いていった作品のほうが好きだ。ちなみに駕籠真太郎の冬コミケスペースは30日東チ09「印度で乱数」。俺は行く決意を固めた。
 それから渡辺ヒデユキ「甲殻機動マラ」のC級ぶりは特筆に値する。タイトルまでC級だが。腰が砕けそうな下らないギャグ、ベタベタなセンス、安っぽい敵キャラなどすごく楽しい。今回のラストシーンは、今まで一度もイッたことがないという敵をイカすために、ヒロイン・サセマン(ネーミングセンスもベタベタだ)が身体を小刻みに振動させるのだが、そのおかげで町に地震が……というなんだかダイナミックな展開。これから先どんな展開してもまあどうでもいいんだけど、なんか読んでいるとすごくホッとする味わいは貴重。

【単行本】「すくらぶ にゅうえき」 美女木ジャンクション オークラ出版 A5
 美女木ジャンクションの初単行本。体液の多い、実用的肉弾系の作家として最近わりと注目している。セーターの上からでも乳首が浮き出て、余分なまでに脂の乗りまくったやたらデカい乳を描き、そのエロ描写はパワフル。ダイナミックに乳が揺れ、盛大に汁が飛ぶ。そしてストーリー展開もまた勢いがある。精液の匂いを嗅ぐや、正気がぶっ飛び呂律が回らなくなり、ちんちんのことしか見えなくなってしまう女の子たちがすごくかわいく、そしていやらしい。ただ、単行本後半の「原作:久我山リカコ」となっている作品群は、キャラクターの描線までまんま久我山リカコで、どのくらい美女木ジャンクションが作画しているのかは不明。久我山リカコもわりと好きだけど、もっと美女木ジャンクションらしさを堪能したかった。


12/15(火)……レディ・ボーネン

 酒を呑み、酒に酔う。
 揺れる世界、とぎれる意識。
 こんな日は何もしないで寝てしまおう。
 とは思っても、止まれない俺様。
 漆黒の夜空ではオリオン座がまたたいていた。
 っていうかまたたきまくっていた。

【雑誌】ビッグコミックスペリオール 1/1 No.1 小学館 B5中
 赤塚不二夫「酒仙人ダヨ〜ン」がスタート。構成・作画協力:あだち勉、企画・構成協力:古屋三敏、企画協力:高井研一郎、北見けんいちと、非常にゴテゴテとした布陣。初回なんで面白いという段階には至っていないんだがどうなるんだか。まあ面白くなれば儲け物って感じかな。高田靖彦「演歌の達」では、達が一所懸命に働くラジオ業界の女の子に惚れてしまいそう。高田靖彦は女の子を描かせても、表情が輝いていて実にイキイキとしている。義理と人情のあふれる男っぽいストーリーもいいが、絵もうまいのだ。おいしそうにものを食べる彼女の雰囲気は暖かみにあふれていて、実に魅力的。石川サブロウ「ファイター伝説 金と銀」。お坊ちゃんで世間をなめていたボクサーの勇二が、アメリカで全てを失った末、生まれ変わって日本に戻ってくる。地味ではあるが、ストーリー展開は着実、絵柄もちょっと泥臭くてそれでいながら力が入りすぎない。最近手堅く面白いと思う。

【雑誌】漫画ばんがいち 1月号 コアマガジン B5中
 本当は17日発売。「衣・食・住以外の85%はカバーできる美少女まんが誌」というキャッチフレーズはなかなかすごいかも。巻頭カラー、佐野タカシ「ジャスト・ア・リトルLove」を読もうかなーと思って買ってみた。佐野タカシはコアマガジンからも2月に単行本が出るらしい。で、内容は女の子みたいにカワイくてマゾの弟を、お姉さんがハードに責め立てるというもの。わりとストレートにHである。続き物みたいなんで、単行本でまとめて読むのが吉って感じ。たかしたたかし「ロマンス・ゴッド!」。オタクカップルが、商店街の福引きで超豪華ホテルの宿泊券を当て、リッチなクリスマスイブを過ごすという物語。オタクカップルなもんだから、普段はシャレたホテルなんぞには用がない。イカした服やら、上品な会話なんぞにゃ縁がなく、場違いな自分たちに恥ずかしがる二人。だけど、垢抜けなくてちびっちゃいオタクの女の子がとっても可愛いのである。ああ、俺様もオタクな彼女が欲しいなり。ちなみに今年のクリスマスは、例年どおり(悲しいことに)年末進行の編集部でお泊まりなんだろうなあ、っていうかほぼ確定。

【単行本】「艶母」 みやびつづる 司書房 A5
「へへへ、奥さん濡れてるんだろう?」「あ……いけません、ああん、そんな……」。という感じで人妻が籠絡されていくといった風情の、トロトロに熟した淫靡なエロ漫画を描くのがみやびつづるである。その実用一本槍で淫猥な画風、割り切ったストーリー展開は、「これで抜け」という心意気にあふれていて見ていて爽快でさえある。八神ひろきにちょっと似た、激しく甘美な絵柄で、男汁の噴出するハードなエロスを描く。パワフルでエロがみっちり詰まった即戦力な作品をお求めの人にオススメ。

【単行本】「マッチ一本の話」 鈴木翁二 北冬書房 A5
 薄暗い絵柄、少年の日を想うノスタルジア、そして詩的なネームの数々。実に見事である。現代っ子なら一度も見たことのないような昔の光景、でもそれは非常に広汎な、ほとんど絶対的に近い懐かしさを持つ。遠い夜空の星に託した想像力の翼、暗闇に抱いたうすぼんやりとした不安。少年の匂いのする妙に胸踊る魅力を持った作品集。鈴木翁二は今年に入ってから再版が続いていて、ちょっとしたブームなのかなとも思うが、その中で読んだ作品集では俺としては一番気に入った。浪漫と郷愁の奏でるハーモニーに心動かされる。


12/14(月)……恋人がイグナ・クロース

 コミケカタログをバラして薄くする。どうせ30日のほうしか行けないので、30日の分だけ切り取って、表紙と最初のページ、裏表紙と最後のページを貼り合わせる。わりと古典的な手だが効果はデカい。それにしても半分つってもチェックしきれないくらいあるなあ。半分でもコミティアの何倍もの規模だもんなあ。カタログ見てるだけで疲れてくる感じ。

【雑誌】ビッグコミックスピリッツ 1/14増刊 Manpuku! 小学館 B5中
 高橋しん「いいひと。」の番外編、「さよなら、パパ。」が掲載。相変わらず絵がうまく、女の子はかわいい。といった感じ。吉田戦車「山田シリーズ」。20万円を抱えた、太めで眉毛が濃く、ほっぺたのあたりにひげの生えた動物の物語。貧乏にあえぐ兄妹の親父が、バクチと酒と日記ざんまいで「飲む、打つ、書く」に溺れているのを見て、「飲む、読む、書く」な人間の姿を思い出す。それにしても「山田、テレビ番組が見たいなあ。」「山田は20万あるからいいのさ。」とか、相変わらず吉田戦車のセリフのセンスは抜群だ。
 山本直樹「霧」。霧深き山の中にある格安温泉付き別荘で出会った男女。男は「ここは自分の母の家だ」と主張し、女は「男の母が自分の父から財産をだまし取ろうとしているのだ」という。その二人が別荘に残されていた、彼らの父母の唯一の遺留品であると思われるビデオを観る。母の告白の後に入っていた流出モノ裏ビデオの映像を見ているうちに二人はセックスへと。事件のあらましも、父や母が何者だったか、男と女の名前、すべてが曖昧模糊としていてつかみどころのないお話。物語のラストで別荘は人手にわたり、すべては霧の中へ。今回は画期的な技法はないものの、お話の輪郭をつかませない確信犯的な作風は山本直樹らしくはある。驚くほどの作品ではないが、手堅く楽しめる。石井達哉「プロファイリング師 朕集院犬清」。今回も強引な理屈で、自分の性欲にとって都合のいいほうへ話を持っていく犬清の手腕は健在。アクの強い絵だが、どうしようもなく下らないプロファイルに人々が納得してしまう馬鹿馬鹿しさや、ショボいオチの味に慣れてしまえばとても面白い。

【雑誌】COMIC ZiP 1月号 フランス書院 B5中
 あるまじろう「おとうと」は、弟が可愛くて大好きでしょうがないお姉さんが、弟の放尿シーンや入浴シーンを覗いたりとつきまとう。で、ある日それが高じて肉体関係へと発展……というコメディタッチのストーリー。あるまじろうは絵がやっぱり好きだ。丸顔ですっきりと整った面持ちのキャラクター、滑らかで抜けのいい気持ちのいい描線など、まとまりがいい。そしてエロシーンも、ちんちんの描写とかしっかりしているところが魅力。単行本はたしかまだ出てなかったと思うが、出たら買うんじゃないかと思う。CHOCO「イグナクロス零号駅」が復活。正直なところ、今まで読んでなかったんでストーリーは全然分からない。しかし。この作品の魅力はなんといっても高品位な絵だ。全22ページのうち、最後の4ページが4色カラー。そして一番の見どころはやっぱりここ。透明感と深みのある青、緑、紫を基調とする、センスあふれる彩色が素晴らしく美しい。寒色系で固められた中で、アクセントとなっている赤い林檎やら列車なども含めて、ページ全体がすごくきれい。お話が分からなくても、色だけでも楽しめる感じ。

【雑誌】ヤングマガジン 1/8 No.2 講談社 B5中
 おおおおお! 小田原ドラゴン「おやすみなさい。」の単行本が1月7日発売だっ! こいつは春から縁起がええのう。今回の「おやすみなさい。」は、ベイブリッジ童貞計画のために童貞を探していた少女・ユカの健気な想いと、腰砕けな現実が描かれる。鉄郎はいろいろ罪作りだなあ。山崎さやか「フローズン」は第2回め。主人公・桃花の、ぼやかさずストレートにモノを語る口ぶりが陰険な女子の反発を招き、イジメの対象に。桃花としてはそんなにこたえてないようだが。ビシッと言いきる気性の強さに胸がすく。平本アキラ「アゴなしゲンとオレ物語」。酒を飲んだときのゲンさんの震えっぷり、目の光は危なすぎる。そして、信頼関係のまったく成り立っていない、ゲンとアキラの醜い人間模様も目を覆わんばかり。こちらも単行本化してほしいっ!
 東和広「ユキポンのお仕事」は来年2月から連載化決定。ネコのユキポン(人語を解する)とその飼い主のあけみちゃまの、ほのぼのとした日々を描いた作品。トーンを使わない、地味に描き込まれた画風は暖かみがあって好み。すぎむらしんいち「超・学校法人スタア學園」では、コキジが菜津子といいムードになりつつも、チンポが勃たず雨の中、慟哭の叫びをあげる。この「うおおおおお」という叫びは、前にやった吉田栄作のマネを意識してたりするんだろうか。赤裸々な面白さが爆発。馬場康士「デスロック」後編は、わりとまともなプロレスものだった。力強いアクションはなかなか見ごたえがあるが、も少しギャグの要素もほしかったところ。プロレスだし。前川かずお「DEI48」。妹が繋ぎ女となり、破武男が男根をいきり立たす。ここまではなかなかに迫力があるのだが、その次のコマでいきなり視点を引く。実は妹のポーズがかなりマヌケであることにどうしても気付いてしまう。このマヌケさはわざとやってるとしか思えない。それにしても、ユタっていう老婆の頭にのっかっている巨大なマリモみたいなものはいったい何のつもりなんだろう。毎度笑わせてくれる漫画だ。

【単行本】「続ヒゲのOL藪内笹子」 しりあがり寿 竹書房 A5
 PUFFYがオススメしたってことでなんだか再版してしまい、さらに続編まで出ることになってしまったらしい藪内笹子。うーん、やはり有名人がオススメすると世界は動く。俺も大きくなったらPUFFYになって、いろんな絶版単行本を復刊させるのだ、と誓ったり誓わなかったり。
 で、藪内笹子である。藪内笹子の特徴はタイトルを見りゃ分かるとおりヒゲ。鼻ヒゲを生やした、女の情念を過剰に噴火させる(漂うって感じではないのだ)、暑苦しくもうっとうしい女・藪内笹子が真実の愛を探して、常軌を逸した求愛活動を続けるという物語。藪内笹子は常にトレンチコートを着ていてどう見ても異様な装い。もちろん行動だってまともでない。それでも、そのセリフやストーリー展開には詩的なものを感じてしまう。女の情念というと演歌的ではあるが、藪内笹子のそれはシャウトに満ちたロケンロールである。
 過剰な行動、突飛な言動、両方とも面白いのだが、前作に比べるといまいちノリが悪いように思われる。一回完結しているので、気持ちが切れてしまっているところもあるかと思う。

【単行本】「girl Hunt」 海明寺裕 三和出版 A5
 フラミンゴ連載のSF的SM作品。詳しくは海明寺裕のページに書いておいたので、そちらを参照のこと。

【単行本】「Milky Stream Liner」 佐野タカシ フランス書院 A5
 佐野タカシのエロ漫画時代の作品を集めたもの。そんなわけで収録作品はちょっと古め。俺はこのころの佐野タカシ作品って読んでなかったので、今よりもちょっと熟れ方の甘い描線がなんとなく新鮮。中でもいいのが、巻頭から4話連続の「Natural Truth」シリーズ。見知らぬ土地の学校に転校してきた高校一年生の由菜が、学校にもまだ馴染めずドギマギしているころ、通学電車内で痴漢に遭う。その彼女を、背はちっちゃいんだけどなんとなく大人びた雰囲気を持った女の子・玲生(レオ)が助ける。玲生は実は由菜の同じ学校の一年先輩だったのだが、電車の中で悶えていた由菜の可愛さに思わず一目ぼれ。で、二人の恋人生活が始まる……という話。ちょっと吊り目気味で猫みたいな玲生が、大柄でおっぱいも大きい由菜に甘えてジャレついてくる様はなんとも可愛らしい。そして玲生が由菜を呼ぶときの言葉遣い。「由菜ぴょん」。ああ、もう実に甘くて幸せで胸がキュンとなってかわいくて、たまらねえのである。思わず頬がゆるむ。
 それから「SNAP on the STYLE」「STYLE on the Snowland」は、アツアツの馬鹿ップルが、雪山や海に出かけて勢いに任せて楽しみ、いちゃつき、セックスしまくるという痛快な短篇。ノリが良くて楽しい作品。
「イケてる2人」で佐野タカシに入門した人は多いと思うが(俺も似たようなもん)、ポップでキュートなノリはこのころも同様なので、たぶん楽しめると思う。


12/13(日)……ジュリ穴

 前から疑問に思っていることがある。それは「これまで人間が堀った穴で一番深いものはどのくらいの深さなのか」ってことだ。赤道半径は約6378kmらしいのだが、いったいそのどのくらいまで人間はほじくり返したことがあるのだろう。
 で、穴について考えてみたのだが、穴というのは何かを貫通しているか、何かをくぼませたものだと思う。で、穴といわれるための要件というものを考えると興味深い。例えば地面に直径1cm、深さ10cmのくぼみを作ったとする。これはたいていの人が穴と認識するだろう。ところが、この直径をだんだん大きくしていく。で直径が10メートルになったとしたらどうだろう。このくぼみがお皿のように横から見ると弧を描いた形になっていたら、穴と認識する人は少ないだろう。しかし、それを横から見るとコの字を横倒しにしたような形で、縁が垂直になってくぼんでいたとしたら。これはかなり穴感が強い。ちょっとだけ見えてきた。穴には「垂直」という要素が強く影響するらしい。で、さらに横穴について考えてみる。縁が垂直である直径10メートル、深さ10cmのくぼみ。これはなんとなく穴っぽくない。切り立った崖という感じである。ということは、横穴の場合、縦穴よりもさらに細長さが要求されるようだ。
 また貫通した穴の場合を考える。紙に穴を開けるといった場合。その貫通部分が直線状だったら。これは穴という感じがすまい。むしろ切れ目とか裂け目といった感じである。穴感は非常に薄い。それが丸いとかなり穴って感じがする。では貫通部分が長方形だったら。これも穴って感じは俺的にはする。先ほどの裂け目といえるようなケース、これの真ん中の部分を拡張する。つまりラグビーボールを細くしたみたいな形状にする。これは穴だと思う。貫通タイプの穴の場合はただ貫通しているだけでなく、向こう側が見える、というのが重要な要件になるらしい。しかし、例えば鉄骨を組んで四角形にしたような場合。穴が10×10メートルなのに、縁が10cmとかいったケース。これだと穴感はすごく薄くなる。またトイレットペーパーの芯のような管状のものも、穴が開いているという風情ではない。となると、貫通タイプの場合は縁にある程度の質量が要求されると考えてもいいのではなかろうか。たぶん穴の面積よりも広いくらいは、縁が必要であろう。

【雑誌】ネムキ 1月号 朝日ソノラマ A5平
 軽部華子「くみちゃんのおつかい」が最終回。ラストは非常に泣ける話。主人公くみちゃんのひいばあさまである老魔女が、若いころの友達だったリンゴの木の元で最期を迎える。若いころは、魔女の身ながら白雪姫になりたいと思っていた老婆。そして今もその願いは胸の奥にひっそりとしまわれていた。その叶えられるはずもない切ない願い、リンゴの木との友情、なんとも美しくも悲しきファンタジー。非常に良かった。今市子「百鬼夜行抄」。今回は、一見平和そうだが妙に生気のない家と、それにまつわる悲劇のお話。端正な絵柄で落ち着いた雰囲気ながらも、しんしんと湧いてくる不安感、もの静かな怖さがある。非常にソツのないうまさで面白い。ただ、俺としてはもうちょっとコマ割りがスッキリしてるといいのになあと思わなくもない。なお、今市子の画集が来年1月中旬発売になるらしいのでファンは要チェック。川原由美子「観用少女」。なんとも切なく、触れれば壊れそうな美しさ。ああ、ステキだなあ。諸星大二郎「栞と紙魚子 きとらのストーカー日記」。暗がりを含んだ絵柄なのに、なんか妙に屈託なく明るい。そのアンバランスさが楽しい。
 まあ、そんなわけで今回も総じてレベルが高く面白かった。ただ、この雑誌は取り扱い本屋がそう多くないので入手しにくいのが玉に瑕。

【雑誌】別冊マーガレット 1月号 集英社 B5平
 多田かおる「イタズラなKiss」。金之助と結婚しようとするクリスだが、今回はママが来日。面食いであるらしいママだが、変わった好みであるため金之助を妙に気に入ってしまうものの、結婚に向け新たな障害が……。以下次号。なんとも幸せな雰囲気に満ちていて楽しい。くにゃくにゃした絵柄も心地よい。中原アヤ「ラブ!ラブ!ラブ!」。茜と大和の幼馴染みのラブコメ。茜が力一杯押すと大和が引きすぎ、大和が力いっぱい押すと茜がまた引きまくるという、なかなかうまくいかない展開。それでも結局はうまくいっている感じの凸凹さ加減で、安心感のある楽しさ。永田正実「恋愛カタログ」。容姿は悪くて性格もひねくれている郷右近が、昔自分をイジメたかわいいだけで芸のない女の子に一糸報いる。デブチンだけれど歌やら人のマネなどに異常な才能を発揮する郷右近がかっちょいい。

【雑誌】ビッグコミックオリジナル 1/12 1月増刊号 小学館 B5中
 藤子不二雄A「愛…しりそめし頃に」。今回出てきた秋田書店の壁岩さんって、先日(12月8日)亡くなったという元少年チャンピオン編集長、壁村耐三がモデルだと思う。「ドカベン」「マカロニほうれん荘」「ブラックジャック」「ガキでか」のころの人だ。この前、コミックビームのメールサービスで現コミックビーム編集長、奥村勝彦氏が彼の想い出話をしていたのだが、何やらしんみりといい話だった。乱暴だけど仁義と男気にあふれた人だったらしい。俺自身はまったく知らない人なんで安易なおくやみの言葉とかいうつもりはないし、いう資格もないけど、かかわってきた作品のタイトルを聞くだけで感慨深い気持ちになる。思えば、俺が漫画読み始めたころ(小学校入る前だからもう20年くらい前)は少年チャンピオン全盛時代。上記の作品群が連載されていたあたりだ。当時、俺は子供心にNo.1漫画雑誌は少年チャンピオンなのだと、なぜか信じていた。考えてみると俺の漫画読書人生の原点だったといえるかもしれない。そういう雑誌を育てた人の部下である奥村勝彦氏が編集長をやっているコミックビームに、今また夢中になっているというのはきっと偶然ではないのだろう。
 井浦英夫「AV列伝」。今回は、一見インテリ風なのだがいざ撮影になると住宅街の他人の家に無断侵入してその庭でSEXをさせるなど、とんでもないことをしでかす男・高槻彰が主役。やることはヘンなのに、不法侵入した家の方にお礼を渡そうとするなど、妙に折り目正しかったりするあたりが面白い。描写は地味なのだが、そこで展開されている世界は実に業が深い。花輪和一「カチカチ山」。もう花輪和一の作品が読めるってだけでうれしいねえ。いい役の人たちまで、なんか悪だくみしていそうな邪悪な表情がたまらない。執念深く描き込まれた背景、画面、キャラクターたちの存在感も強烈。アクが強いけど、それだけに一度読んだらやめられない味がある。中原裕「頼りにしてます。」は今回で最終回。花村親子は、父子揃ってメジャーリーガーに。こにくたらしい生意気な親父の姿が、イキイキしてていい。さそうあきら「きのせい」。東京に出てきてバイトに、それから夢である絵にと、気張りすぎ余裕を失っていた女の子が、不思議な男の子に出会ってやすらぎを取り戻すという短篇。地味で短い作品だけど、ファンタジックでふわりと溶けていくような柔らかい味わい。目立たないけどコンスタントに読ませる話を描いてくる作家だ。業田良家「ゴーダ哲学堂・私の花」。何不自由ない生活を送っている役者が心の拠り所としている、田舎で一人暮らす父としんみり話す。ちょっとあざとくもある人情モノなのだけど、ラストの大声で笑う父の姿はなんとも晴れやかで美しい。

【単行本】「マラヤ」3巻 安彦良和 主婦の友社 B5
 オールカラーで大判の単行本。男 vs.女という争いの構図が描かれた世界で、女剣士マラヤが闘いに満ちた道程を行く物語。物語世界はアリオンとかに雰囲気が近い。もちろん時代はだいぶ違うのだけれど、衣装とか風習とかの全体的な雰囲気が似通っている。マラヤが何人もの男によってたかって裸にひんむかれそうになるあたりは色っぽいが、単行本一冊のページ数(100ページ未満)が少ないのでなんとももの足りない印象がある。ストーリー的にも散漫な感じ。1300円、ちと高いかな。最近漫画を買うときは値段を見ないので、買うときはあんまり気にはならなかったが。

【単行本】「係長ブルース」1巻 ロドリゲス井之助 日本文芸社 A5
 主人公は大手ハウジング会社の係長・中屋敷。生真面目で口下手で弱気な彼が、いい加減でオヤジ臭さ爆発の上司や、マイペースな設計担当、ひねくれた配管業者、ひとクセもふたクセもある大工、わがままな客の間に立たされオドオドする。中屋敷の人の良さもさることながら、周りの奴らがまったく人の話を聞いてない。ついつい人のいうことをマジメに聞いてしまう中屋敷が理不尽な目に会うさまは、災難ではあるが妙に楽しい。文科系オタクの人間が、オヤジの厚顔無恥ぶり、体育会系や営業系の人たちの大ざっぱで没論理的な行動の前におろおろする、そんな雰囲気にも似ている。絵はクセがあるし話もミニマル。夢も希望もないが絶望もない。そんなしみったれたおかしさをお求めの方にオススメ。
 あと、西武ライオンズの松井選手にいっておきたいのだが、さすがにこれをバイブルにするのはやめたほうがいいのではなかろうか(帯に松井の「これ、僕のバイブルにしますわ!!」というコメントが載ってるのだ)。

【単行本】「六福神」 諸星大二郎 集英社 A5
 稗田礼二郎シリーズ。民間伝承、土俗の風習から覗き見えるあやかしの世界。暗く、薄ぼんやりとした夢ともうつつともつかないおぼろげな世界は、ちょっと怖いのだけれど妙にホッとするようなほのあたたかい懐かしさもある。どろどろとした原初の海を思い起こさせる混沌が何やら居心地よい。基本的に一話完結。淡々とした描写の中に深い味わいのある、諸星大二郎テイスト濃厚な作品。


12/12(土)……プロ入り初打席初球5試合連続4打席連続代打逆転サヨナラ満塁ランニング場外認定予告ソロホームラン

 夜の8時まで寝てしまって大後悔。っていうか時代。
 そんなわけで今日はホームランについて考えてみた。それというのも中川いさみ「関係筋」に、犬に姿を変えられてしまった男が、魔法使いに「元に戻るには場外ホームランを頭に当てること」といわれるシーンがあったからなのだが。
 で、ホームランの一般的な定義は「打者が投手の投げた球を外野スタンドより遠くまでバウンドさせずに飛ばすこと」であろう(ランニングホームランを除く)。手でトスしたものをスタンドに入れてもおそらくはホームランとは言えまい。それでは例えば一塁手が投げたものを飛ばしてはどうか。これもホームラン感が薄い。では投手がセカンドベースのあたりにいた場合はどうか。これはちょっとホームランっぽい。しかし、打者がピッチャーズマウンドにいた場合、これはスタンドまでの距離が縮まるのでホームラン感が減少する。それが場外まで飛んだ場合、距離の問題は解決する。逆にピッチャーがマウンドにいるのに、バッターがキャッチャーの後方にいる場合。距離は通常のホームランより長くなるわけだから、かなり上のランクのホームランっぽい。ただし、バッターボックスの外だから当然アウトだ。
 それではバッティングピッチャーが投げる球をスタンドに入れた場合。これはホームランかどうか。なんとなくホームラン感が薄れるような気がする。練習で打ったものはどうにもホームランっぽくない。ボールがラグビーボールだった場合はどうか。大根で打った場合はどうか。スタンドがなかった場合は。そう考えると、ホームランにはまだまだ議論の余地とさまざまな可能性がありそうだ。そして、明日もホームランなのだ。

【単行本】「関係筋」1巻 中川いさみ 小学館 A5
 ビッグコミックスペリオール掲載作品。中川いさみらしい、ひねくれていて、かつカラッとした味わいのあるギャグが満載。かなり奇妙でイヤな発想も多いのだが、それがしつこくない。イヤなものどもが、軽くフフンと笑い飛ばされている感じ。肩の力が入っていず、こちらの笑いのツボを思わぬ隙間からスルリと衝いてくる。笑わせようと力んでいないもんだから、こちらもつい気を抜いてしまいがちだが、そうしていると思わぬクリーンヒットになってしまうことがある。やはりこの人はうまい。

【単行本】「乙女の大ピンチ」 日本おベンピ本舗 祥伝社 A5
 みぎわパンの最新単行本である。FEEL YOUNGの読者コーナー掲載の4コマ漫画などをまとめたもの。便秘、そして脱糞にまつわるお話が延々と続く。便秘に関する面白記事もあるものの、漫画はほとんどみぎわパンであり、やはりぱんこちゃんの本と見ていいだろう。みぎわパンのいいところは、常人とは何か違った視点。脱糞に関しては、誰でも生まれてから何度となくやっており、インパクトのある行為である。それだけに、各人思うところはいろいろあるわけだ。自分が遭遇した面白いエピソードも、誰だって一つや二つあるだろう。ギャグのネタにもなりやすい。それだけに生半可なネタでは面白くない。それでも、みぎわパンのアプローチはちょっと普通の人にはないユニークさを感じさせる。延々と脱糞を見つめ続けるミニマルな視点と、それをファンタジーな妄想に結びつけたりする奇想はみぎわパンならでは。ただ、青林堂系の単行本と比べると大人しめであることは否めない。多少一般性は持たせてあるので、従来のみぎわパンファンにはもの足らないかも。あと、延々とうんち話が続くので、読んでいると「よし、今日はすげえいいうんちするぞっ」という気分になる。つまり「うんちをしたくなる本」であるわけだ。
 なお、トオジョオミホのホームページのゲストコーナーで「ゆめのまたゆめ」('96年ガロ掲載)が読めるので、まだみぎわパンの漫画を読んだことがない人はお試し用に見てみるといいだろう。

【単行本】「妖魅変成夜話」1巻 岡野玲子 スコラ A5
「PANJA」を中心に掲載された作品をまとめたもの。
 物語の舞台はその昔の中国。主人公の李成潭は、生まれたときにその家の上空に慶兆や神仙の訪れをあらわす瑞雲がたなびいたという逸話の持ち主。その生まれとはうらはらに、李成潭は怪・力・乱・神を惹きつけてしまう体質の持ち主。彼は科試に合格して都で出世することを夢見ていたが、都に行く途中で幽霊や仙女に見込まれたりと前途多難。都で科試に合格するが、帝にいいつけられて神仙を探す任務につかされてしまう。上司である龍玉将軍のいいつけで、神仙の調査に出かけてはさまざまな妖怪にからまされるなど災難続き。
 とまあこんな感じのお話。ファンタジックなストーリー展開に合わせて、描線も硬質で細い線ではなく、筆描きの柔らかいタッチで全編描かれていて、墨絵のような雰囲気がある。画風的にはいつもとは違った岡野玲子が味わえるが、ストーリーは岡野玲子らしい軽妙で鮮やかな語り口が健在。一見素っ気ないように見えて、そこかしこにくすぐりを含ませてある。立体的な広がりを感じさせる背景の描写も美しい。間違いのない一冊。

【単行本】「静かの海」 一條裕子 ぶんか社 A5
 ガタの来た木造の小さな平屋建ての家に一人住む老婆・木村しづと、親と喧嘩してはおばあちゃん宅に逃げ込んでくる孫娘の梢子の、なんてこともない日常を、その家にある家具たちが見つめてブツブツと語る(もちろん人間には聞こえない)という物語。全ページカラーでハードカバー、1500円とちょっと高めだがそれだけの価値はある。慌てず騒がず、静かで落ち着いた雰囲気に満ちていながら、家具たちの語るセリフはときにファンタジック、ときに底意地の悪さがこもっていて、こみ上げてくるようなくすぐられるような楽しさがある。細かい斑点のある古めの日本家屋の壁紙を思い起こさせる紙も、地味でしみったれたこの世界の雰囲気によく合っている。生活自体は淡々と、なんてことないのだけれど、何ごとも軽やかに乗り越える楽天的なものを感じさせる。物語は狭いしづの家の中で終始するが、ラストシーン、しづが引っ越していって家具調度のなくなった部屋はガランとしていて、何やら悲しげだ。それまで生活の匂いがどうしようもなく染みつき何か落ち着く空気があった家屋そのものに、読んでいる間に知らず知らずすごく親近感を持ってしまっていた自分の姿に気付いてびっくりする。
 雑巾の香り漂う、静かで不思議な魅力を持った作品だ。

【単行本】「私立星之端学園 恋愛!?専科」 米倉けんご メディアックス A5
 高校生ながらエロ漫画でバリバリ稼いでいる兄貴・夏央と、その妹の冬美のラブコメ。兄妹であるとかそんなことはどうでもよく、罪悪感なんかとっくの昔に乗り越えて(最初からなかったのかも)、とにかくお互いに相手にベタ惚れ。学校の廊下で公衆の面前でキスしたり、完全に普通(でもないか)の恋人同士みたいな感じ。こういう兄妹ものの場合、たいてい「兄と妹の境界を乗り越えるシーン」が物語の大きなヤマとなるわけだが、このお話の場合そんな境界は全然ない。相手が自分を、そして自分が相手を好きで好きでたまらないことは最初っから分かっているのである。教室で友達に「オレには冬美以外考えらんねーよ」と宣言するなど、堂々としたもんだ。ときには切なく相手を想い、ときにはセックスに溺れる。さすが、女性作家。女心を描くのがスゲエうまい。兄妹とかいうのを抜きにしたタダのラブコメとしても面白い。
 それからキャラクターたちが実にイキイキとしている。体育倉庫でヤッているところを教師に見つかったと思ったら、即座に兄妹揃ってその教師をたらしこんだり、冬美が友達の弟をけしかけて姉とサセちゃうとかいった暴走ぶりも非常に楽しげ。たたみかけてくるようなストーリー展開も見事。物語の最初のほうはちょっとアニメ絵っぽくベタッとした感じだったのだが、回を重ねるにつれ描線が細くシャープになっていき、どんどんイケてる絵になっていったのがよく分かる。
 なんといっても物語に愛があるのがいい。とゆーわけで、かなりオススメ。


12/11(金)……Reader的存在

 最近ときどき、漫画を読みながらその漫画を評するための文章をつい考えてしまっていることがある。このホームページのおかげで、読んでは書き読んでは書きが習慣になったせいなのだが、これは個人的にはあんまり良くないことだと思っている。読むときは「読者以外の何者でもない存在」になって(「無我の境地」に近いかも)、できるだけフラットな状態で読みたいと思っている。そうでないと、その作品の面白さを余すところなく味わうのの邪魔になってしまう。だが、漫画を読みながら「この場面はどのように日記に書こうか」などと考えてしまうのだ。これは純粋な読者の視点とはいえない。マズい。できるだけフラットな状態で読んで、読み終えた後に文章は考えればいい。とくに俺のようなスタンスの場合。
 ただ、本当に面白い漫画を読んでいるときはそんなことを考えているヒマはない。そういう余計なことを考えてしまうのは、気にはなるのだけどなんとなく乗れないという作品の場合がほとんどだ。ということはあんまり問題ないのかなあ。いや、まだまだ俺は修行が足りないということなのだろう。読者道に終わりはない。

【雑誌】コミックビーム 1月号 アスペクト B5平
 今月号も充実。収録作品リストはコミックビームのページ参照。
 まずはなんといっても!祝・連載再開、園山二美「蠢動」!いやー、めでたい。しかも巻中4色カラー含む、である。サブタイトルは「ガラパラダイス」。大人の雰囲気を漂わせた感じのお姉さん・幸子が、会社の年始パーティで出会った、なんだか仕事ができなさそうなボーッとした男にハマってしまう。何を考えているかよく分からない奴なのだが、一度かわいいと思ってしまったものはもうたまらない。で、彼がボーッとしているそんなとき、彼の意識はガラパゴスの動物たちの元へと飛んでいる。思わずガラパゴスの動物たちに嫉妬してしまう幸子。全体に漂う、のんびりとした南国ムード。テンションをギチギチに上げて飛ばしまくるだけが園山二美の味ではないということを痛感させられる。ブランク関係なしに面白い。次号も掲載されるみたいなので、とってもうれしい。
 羽生生純「恋の門」では、門が恋乃の元から出奔し、旅先の町で飲み屋のママのヒモになる。どこまでも堕ちていく自分におびえる門の姿は、羽生生純の陰のある画風にあまりに似合いすぎている。永野のりこ「電波オデッセイ」では、キタモリがやけにポエティック。そして野川さんはついに入院。責任を感じて、切ない言葉を吐き出し続けるキタモリの姿がすごくもどかしく、そしてそのもどかしさがまた心地よい。若いっていいぜ!俺もまだ26歳で老いたわけではないが、中学生というのはそれとはまた一段違う若さじゃけえのう。竹谷州史「PLANET 7」は黒々とした画面と、かわいい絵柄にいつもながら惚れ惚れとする。王女・おでんの沈んだ表情がとてもソソる。作:平井和正+画:梁慶一「死霊狩り」。黒人看護婦・ジューンが出てきてから面白くなってきた。暴力と狂気が渦巻く退廃的な世界を、シャープで力強い絵で見事に描いている。
 カネコアツシ「BAMBi」。プラチナ・マスクとバンビの闘いが決着。この人は本当にうまくなったなあと思う。テンポの良いストーリー展開、迫力のある描画。時折挟み込まれる回想シーンもいいアクセントになっている。上野顕太郎「夜は千の眼を持つ」。今回は漫画の中のキャラクターが、漫画を朗読するというもの。ネタは榎本俊二「えの素」と松本霊士「宇宙戦艦ヤマト」。そんなもん朗読しても面白くないだろうと思う人がいるかもしれない。そう、たしかに朗読しただけでは何がなんだか分からない。しかし、その「つまらないこと」が漫画内で淡々と進行しているという構図はとても面白い。アイデア勝ち(上野顕太郎の漫画はみんなそうだが)。しりあがり寿「弥次喜多 in Deep」は廃物の山編が終了。ゴミの山、死の世界で新しい命が生まれようとするが、その子は一つの宇宙であり、この世とは相容れないものであった。その新しい生命を誕生させるべく、廃物の山の王が外の宇宙へと飛び立っていくシーンは、混沌として難解ではあるが、有無をいわせず読者の心を動かす力を持っている。
 小池桂一「ウルトラヘヴン」は今号で第1部・完。ペーパー・ドラッグのような、頭がクラクラするようなイメージが次から次へとわき出てくる。オチはなんだかあっけらかんとした感じ。いましろたかし「釣れんボーイ」。アユ中毒で人生をも狂わさんとする、ダメ人間ヒマシロの姿が切実すぎるくらい。しかも、それに完全に没入することもできず、一度はアユのために断った仕事を、思い直して受けてしまったりするあたりの弱さもこれまたいい味。金平守人「BBRビームバクレツ調査班」は、MMRのパクリ。ちょっとスベリ気味か。

【雑誌】ヤングアニマル 12/25 No.24 白泉社 B5中
 二宮ひかる「ナイーヴ」。二人の間のわだかまりが解け、かなり幸せでアツアツな展開。何度も肌を合わせた二人なのに、どこか初々しい感じがある。すごく楽しげ。読切の前編が掲載の、森恒二「飛脚のナガレ」は井上雄彦と技来静也(「拳闘暗黒伝セスタス」の人ね)がまざったような画風。そんなに面白くはない。宇仁田ゆみ「グラス・スパイダー」。26歳会社員のアキオが、高校2年生の透子にどんどんハマっていく。透子の泣くところを見たことのないアキオは、泣ける映画とかを見せて透子を泣かせてみようとするが……という話。涙というアイテムの使い方がうまい。肩ひじ張らないけどなんかかっこよく、そして心地いい恋愛模様。したたかなんだけど、ときに驚くほどストレートな透子のキャラクターが魅力的。とても面白い。

【雑誌】快楽天星組 Vol.5 ワニマガジン B5平
 珍しくSABEとかるま龍狼がピンナップを描いている。乳がでかくて頭のちょいと足りない馬鹿娘と、乱暴で強引で自分勝手な男の、どつきSEX漫才的なシリーズ、時坂夢戯「乳漫チロリアン」が今回も面白い。なんだかんだ男に命令されるとイヤとはいえない乳娘の馬鹿っぷりと、男の激しく乱暴なツッコミがいい。乳って楽しいなあ。上連雀三平「飲尿女神」。とある学園に転校生がくるのだが、周りはかわいい女の子ばかり……と思いきや、実は全員女装したかわいい男の子だった。そして、上連雀三平お得意のちんちんにょきにょきのパラダイスが展開される。立派だ。うらまっく「クリスマス・アット・ホーム」。老人ホームで健気に働く女の子が主人公。彼氏と初めて過ごすクリスマスを楽しみにしていたのだが、老人ホームのパーティのために彼氏の家に行けなくなってしまう。そんな彼女に老人たちがイキなプレゼントをする……というお話。スケベ老人たちに手を焼きながらも、楽しそうに働く女の子の姿がイキイキしていていい。そしてお話も優しく鮮やか。キレイにまとめてあってすごくうまいなーって感じ。G=ヒコロウ「ボクサーラ」。次々と出てくるヘンなキャラクターたちと、ハイスピードでテンポの良いギャグが楽しい作品。セリフ回しもリズミカル。工藤大蔵「びんた」は、体の丈夫な男が、怪力女に血だらけにされながらSEXをするという話。SEXシーンがかなりムチャでダイナミック。たたみかけてくる展開が楽しい一作。

【雑誌】弥勒 1月号 平和出版 B5中
 らーかいらむ「元祖COLOR寿司」は、アスカ似の生意気そうなチャイナ服少女が、綾波似のちょいとブッ壊れたちんちん大好き少女に売春させて上前をハネる。馬鹿みたいに明るくちんちんをねだりまくる綾波似のほうが、すごく無邪気で楽しそうでいい。きたる三月「男とは?」。この人は絵がいい。スラリと足や手が細くて長く、しなやかに反り返る体つきが特徴的。構図の取り方、話のテンポなどにもセンスを感じる。

【雑誌】別冊きみとぼく 冬号 ソニー・マガジンズ A5平
 湖東美朋「たまごのまんなか」。やたらめったらかわいいものが大好きでかわいいものをデザインしてはお店に納めている女性の話と、これまたかわいいものが大好きな女の子とやたらかわいい男の子のラブストーリーが並行して進む。「かわいい」の一語にすべてが集約されてしまう単純な価値観が、他愛なく「かわいい」。それから絵もなかなかスッキリと洗練されていて、かつホッとする暖かみがあっていい。橋本みつる「パーフェクト・ストレンジャー」は今回で最終回。最初のほう、なんかペン入れしてないのか、やけにラフな雰囲気。わざとなのだろうか?後半に入ると、ちゃんと仕上げられている。自分は地球外から来た存在であるといい、同じく地球外から来たという不治の病を持った彼女を愛し続ける男・渡辺。そして、彼を好きになってしまった女の子・蜜の異色の恋愛譚。なにか人形を思い起こさせるような、のっぺりとしてツンと尖った、それでいてほのかな暖かみのある画風が非常に特徴的。一度は別れた渡辺と蜜が再会するや、理由もなくポロポロと涙をこぼし続けるシーンが、清らかに切なくいい感じだ。
 植木家朗「自転車大王」。自転車を操って格闘する自転車武術を操る少女・美花が、彼氏にちょっかいをかけてきた敵の自転車の使い手と闘う。美花が相手に「自転車地獄を見せてやるよ!!」と告げるセリフとか、非常に馬鹿馬鹿しくてよろしい。絵も垢抜けていてセンスの良さを感じる。面白い。この雑誌では一番のオススメ。

【単行本】「球鬼Z」2巻 藤澤勇希 秋田書店 B6
 完結。どうにもまともに野球をやろうとしているとは思えない、勝負以外の部分を度外視した感のある作品だった。尋常でなく力が入りまくりの描写、邪悪きわまりないキャラクターなど、濃厚で面白かった。ただ、ジーザス編のあとはかなりバタバタと強引に終了。強引なのはそのほかの場面も一緒だが、ラストは面白い強引さではなかった。その点はもの足りないところではある。オスマンにも上げてあるので、データやあらすじ等はそっちを参照のこと。


【一番上へ】

ご意見・ご感想は→tshibata@picnic.to